第32回手で触れる日展鑑賞会報告
社会参加部
昨年12月24日、京都市京セラ美術館において、標記鑑賞会が開催されました。当事者9名を含む40数名が参加しました。参加者の中から小林由紀(こばやし ゆき)さんの感想文を抜粋して掲載します。
こんにちは、先日、日展鑑賞会に参加させていただきました小林です。今年も楽しみにしていた鑑賞会、大変充実した時間を過ごさせていただき、ありがとうございました。
今回、特に印象に残っている子犬を抱いた少女の作品(作品名「ひとりぼっち」 西見智之(にしみ ともゆき)氏 作《さく》)は、雨に濡れそぼってうつむく少女が、ぎゅっと、でもそっと子犬を抱く仕草から、孤独や悲しみのなかでも優しい、慈《いつく》しみの気持ちをなくさない美しさ、冷たい雨のなかでもあたため合える命あるものの温もりなどが伝わり、逆境にあるときにも勇気を与えてくれる作品のように感じました。この作品は本当に細部に至るまで丁寧に作られていて、眼福《がんぷく》ならぬ指福《しふく》を感じる、ずっと触っていたくなる作品でした。
例えば少女が背負ったランドセルの下の金具は、何十年もの歳月を一瞬でタイムスリップしたように、それを使っていた頃の感覚が手によみがえり、思わず触れた指先をひねってランドセルを開けたくなるほどでした。
また、ランドセルの表面の、少しざらついた皮の質感も昔の記憶そのままなら、足に履いた長靴のつるんとした触感も懐かしく、同じ素材で作られているとは思えないくらいでしたし、子犬のくりっとした目や、のばした前足や、しっぽの愛らしさには、自分の目が見えないことを忘れて惹きつけられました。
そういった、目では見えにくい場所や手ざわりにいたるまでこだわられた丁寧な作りの全てが、作品の印象を裏打ちしていることが伝わり、触れさせていただくことの贅沢さを強く感じる作品でした。