メルマガ色鉛筆第36号(「言葉の庭先案内に誘われて!」)

タイトル 言葉の庭先案内に誘われて!
ペンネーム モミジの手(40代 女性 全盲 両下肢麻痺 体幹障害)
 レポートの要旨です。
 京都市には有名な寺社が多くあります。
古都らしく庭園も多く、平安時代から昭和初期まで様々な様式の庭園が作られました。
 私は、庭園は風景を目で見て鑑賞するものとばかり思っていました。
だから、寺社には行きますが、庭園に行くことはありませんでした。
そんな私が、「庭いこいこ」というグループと出会ったことをきっかけに、
今ではすっかり庭園鑑賞にはまっています。
手で触れ、草木の匂いを味わい、音を聞き、言葉の案内に耳を傾けながら庭園鑑賞を楽しんでいます。
 私と「庭いこいこ」というグループとの出会い、庭園鑑賞についてお話します。
 ここから本文です。
 初めまして、モミジの手です。
 私は「庭いこいこ」というグループに出会い、すっかり庭園鑑賞の魅力にはまっています。
「庭いこいこ」は、見える人・見えにくい人・見えない人が一緒に日本庭園を楽しむ会です。
 私は、初めて「庭いこいこ」の無鄰菴庭園鑑賞に参加しました。
無鄰菴庭園は、2階建ての母屋と洋館の建物。
芝生、林のように広がる樹木、池、
醍醐三宝院の三段の滝をイメージした滝、小川などから形成されています。
 庭園鑑賞は、母屋からスタートしました。
石の形、大きさ、表面の触感が異なる飛び石を渡り、
芝生の中央を通り抜ける小道に出ました。
風が運んでくる草の匂い、体に当たる風は、私に芝生の広がりを感じさせてくれました。
池に流れる小川の水音を聞いたり、野の草花を触ったり、スタッフに花の名前や色を教えて頂いたりしました。
見える人と見えない・見えにくい人たちが、
お互いの感覚で感じたこと、思ったことなどをその場その場で共有しながら散策を進めました。
 私は、異なる季節にこの無鄰菴庭園を数回訪れています。
芝生に咲く草花の季節の移り変わりや芝生の色の変化、
小川の水量の変化による水音の違いも知ることができました。
 次に林に入りました。
芝生にいる時とは異なる風の変化、日光の体に当たる暖かさの変化で木々があることを感じました。
木々の高さの違いも空間感覚でとらえることができました。
木々や苔を触らせて頂きながら、スタッフからは木の詳しい説明をして頂きました。
苔の色の違い、林の中にある木の高さ、葉の茂り具合など、
目から得た情報も知らせてもらいました。
 さらに、三段の滝を流れる水音、川の音を楽しみました。
飛び石になった自然の石の橋を渡る時には、前方の石の位置や高さ、大きさを杖で確認しながら、
スタッフのガイドで一歩また一歩と注意深く進みました。
 母屋の前では今歩いてきた庭がどのように見えるのか、
母屋の2階から見える風景との違いについて教えて頂きました。
そして、今日の散策の中でどのポイントが印象に残っているか、感想をシェアしました。
ここでは見える人も見えない人も見えにくい人も、それぞれの感覚、感じたことを尊重し合いながら、
一人から仲間へと思いの共有が行われます。
 見えない私は、前回と今回の訪問で異なる点を感じることがありました。
朝、母屋の玄関に水を流して掃除をされたのでしょう。
「今日のこの石、すべすべで綺麗です。まるで水で洗い流したように石の表面がつるつるしています」
とスタッフに伝えました。
「管理人の人が掃除の時に水を流されたのかもしれませんね。
見ためでは石が濡れていませんが、ほこりが取れて石の色が綺麗です。
知らせてもらうまで気付きませんでした。
足触りで感じ取れるんですね」。
こんなふうに自分の感じ方を率直に伝えることで、
見える人と見えない私の感覚を共有することができました。
 みんなで感想をシェアした後、2階の窓の傍へ移動しました。
「手を伸ばしてください。2階からモミジの木の枝に触ることができます」
と、細い枝と葉に触ったことで自分がいる2階の高さを感じることができました。
 また、「庭いこいこ」の無鄰菴庭園の散策では、手作りの模型に触らせてもらうことができます。
この模型は、実際に空中から見た無鄰菴庭園の写真を基に作られています。
建物の高さ、地面の傾斜、木々の高さの違い、池の形、すべて縮小サイズで表現されています。
そして、水、草木など、手触りにもこだわった素材で作られています。
この模型を一人ずつ触ることで庭園の全体像を知ることができました。
 私は、「庭いこいこ」の皆さんとご一緒する中で、
障害の有無を問わず庭園を愛し、自然を大事に思い、鑑賞する仲間としての絆を感じています。
 庭を一歩出れば、車が行き交う音、街のざわめき、平成時代の京の街並みが広がっています。
しかし、無鄰菴庭園の中には山県有朋によって作られた明治時代の世界があり、
そこには癒しの空間、時間の流れを超えた空間が広がっています。
私はこの幸せな時間、自然に抱かれるような感覚が好きで、庭園鑑賞を楽しんでいます。
それはまるでおとぎ話の一コマのよう、
言葉の庭先案内に誘われて一歩踏み出せば、
タイムスリップしたもう一つの京都。
 私は、これからも仲間とともにいろいろな日本庭園を訪問したいと思います。
編集後記
 庭園鑑賞を楽しむ中で、美しい・すがすがしい・癒しなど、
見えるならではの感じ方、見えないならではの感じ方を寄り添い分かち合っておられるのですね。
庭園を愛し自然を大切に思う仲間との絆から生まれる再発見、
それも「もう一つの京都」なのかもしれませんね。
-- このメールの内容は以上です。
発行:   京都府視覚障害者協会
助成協力: 京都オムロン地域協力基金
発行日:  2015年2月20日
☆どうもありがとうございました。


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