メルマガ色鉛筆第33号(「見えない私のシングルライフ」)
タイトル 見えない私のシングルライフ
ペンネーム グリーンベルト(30代 男性 全盲)
レポートの要旨です。
私はいろんなところで一人暮らしをしてきました。
グリーンベルトと名乗っているのですから、
当然、無秩序な都市化を防ぐために置かれた緑地帯のそばに住みたいなあと思っています。
でも、全盲になっちゃった私にとってそれは難しい。
「なぜ?」ってことで、
今回は全盲の一人暮らしについて私が経験したこと、考えたことを若干方言混じりで書いてみたいと思います。
ここから本文です。
弱視だったころ、実は町はずれ、緑地帯のそばに住んでいたことがあります。
でも、そんなところは人口もそれほど多いわけはなく、当然電車は走っておらず、
利用する交通機関の中心はバスでした。
私は、緑の中を走ってくるバスを見るのがとても好きでした。
ところが、予告なく突然全盲になって人生設計がくるってしまうと、
町はずれに住み続けるのは無理!!って思ってしまいました。
なぜってーと、電車が通っていないところは車が幅をきかせるわけです。
そりゃそうでしょうね。
バスは自動車専用道路でも走らん限り移動には時間がかかるわけで、
毎日の通勤には使いづらいですね。
となるとマイカー移動が増えて、こいつを置くための駐車場も多くなるんです。
白杖の先では歩くべき道と駐車場の分かれ目が分からんことがあって、
知らん間に駐車場に入り込んでしまって、歩く方向がおかしくなることがあるんです。
そして、この駐車場ってのが、こちらが曲がろうとしている交差点の角にあったらもっと大変。
曲がり角が分からんくなって、方向を見失うことがあるんです。
歩道と車道が分かれていればその境目を伝って歩けばいいので、問題は解決することが多いんですが、
そうでなかったら「うーん、困った」。
別ルートがあればいいのですが、それも見つからず、
実はそれが理由で良さげな物件をあきらめざるを得なくて、家探しに苦慮したことがあるのです。
そして、全盲になってからは、車社会とは縁遠い電車の駅のそばにずっと住んでいます。
物価と家賃と人口密度が高いのがつらいところですが。
電車のそばに住むメリットは他にもあります。
それは、単位時間当たりの移動距離が長いので通勤可能範囲が広がるってことです。
全盲、それも大学時代失明組は先天盲の方に比べて点字を読むのが遅いし、
移動や触察能力も劣ります。
大学での専攻が視覚に頼る部分が多い分野ですと、
自分の得意分野であったことが職業に結びつかなくなることもあります。
かといって、中途失明者の方のように職務経験があるわけではないので、
雇用者側の信頼を得るのは大変なのです。
だから、仕事探しは家探し以上に大変なことになります。
ということで、就労希望場所にこだわるのは得策ではないような気がします。
実際、今の職場に通えているのは電車が使えるからだと思っています。
その電車やバスに乗っかってると、
「どこへ行きますか」など、全盲の私はいろんな人に声をかけてもらえます。
ありがたいことです。
そして、ときには雑談に発展するわけで、自分の生い立ちを話すこともあるんです。
そこでいろんなところに住んでいることを言うと、「すごいねえ」みたいなことを言ってくださるわけです。
前述の通り仕事にありつくのが難しく、
紹介していただいた仕事が住んでいるところから遠かったり、
仕事をするための職業訓練学校に入学するために引っ越しをしなくてはならなかったり・・・
といった事情があるんです。
でも、そんなふうに必要に応じて私が引っ越しをしてこられたのは、
多くの方のサポート、多くの活動家によって作られた各種制度、
IT技術などがあってこそなのです。
ボランティアの方によって点訳や録音された書籍を点字図書館で借りて、
一人暮らしや視覚障害者の生活についてのノウハウを得て、
視覚障害者のための生活訓練施設で歩行や調理なんかの指導を受け、
視覚障害者団体の職員の方に視覚障害者を門前払いしない不動産屋さんを紹介してもらい、
その不動産屋さんの方が「視覚障害者お断り」の嵐にもめげずに家を探してくれたおかげで、
無事に一人暮らしができるわけです。
住むところが決まれば、両親に金融機関やスーパーマーケットの場所を教えてもらい、
インターネットでお弁当やお惣菜の予約ができるコンビニエンスストアを探したりします。
ちなみに、コンビニの予約弁当は野菜の割合が多いので気に入っています。
混雑の中、店員さんに買い物を手伝ってもらうのって気が引けるけれど、
予約ならばスムーズに買い物ができて一石二鳥です。
それから、どこが繁華街なのかなど、町の様子を調べるのです。
私は、繁華街では周りの人の援助が得られやすいと感じています。
なので、単独でも買い物はしやすいです。
また、NTTのふれあい案内で役所の電話番号を教えてもらい、
役所への道順を聞いて大体の場所のイメージを作り、
通行人の方の手を借りて役所へ出向いてヘルパー派遣などの手続きをします。
例えば、ホームヘルパーさんには家に届いた書類を見てもらったり、
細かいところや汚れの取れにくいところを掃除してもらったりします。
まさに全盲の一人暮らしの強い味方です。
あと、保健センターみたいなところで、もしものときのために医療機関の連絡先を教えてもらったりもします。
といった感じで、暮らしに必要なあれこれを整えていくわけですね。
でもそうはいっても、いい歳になると、目が見えても見えなくても、お引っ越しは疲れるもの。
そろそろ一つの場所に落ち着きたいなあと思っていて、
そのために仕事が継続的にできるよう日々奮闘している今日このごろです。
ヘビが出てくる緑豊かな町出身の私にとって街中暮らしはしんどい部分もありますが、
ヘビは視覚障害者にはどうにも対処できません。
実際、この話題で盛り上がっていた視覚障害者のメーリングリストがあり、
「見えない私らのヘビ事情」を共有できる仲間がいたことが分かり、すごくうれしかったです。
緑豊かな町に思いをはせながら、ヘビから逃れ今は駅近暮らし。
これも全盲になっちゃった私の暮らし方、運命だと思ってがんばっていきたいと思っています。
編集後記
1人で暮らし、1人で行動するということをしていると、さまざまな苦労があります。
そして、解決できないような問題をどうにか回避しなければなりません。
日々奮闘に応援のエールを送ります。
奮闘、つまり闘っているという例えを使わせてもらうなら、今回のレポートは「戦歴」です。
1人で緑豊かな町は難しくても、2人なら、仲間といっしょなら可能性は広がります。
周りの皆さん、グリーンベルトさんを、視覚障害の人達を緑の中に連れ出してください。
-- このメールの内容は以上です。
発行: 京都府視覚障害者協会
助成協力: 京都オムロン地域協力基金
発行日: 2015年1月23日
☆どうもありがとうございました。