メルマガ色鉛筆第16号(見える人の中で働くということ)

タイトル 見える人の中で働くということ
ペンネーム ミルキーウェイ~寄り添う色~(30代 女性 全盲)
 レポートの要旨です。
 失明して20年、社会人5年目のミルキーウェイです。
ミルキーウェイ=天の川、それは織り姫と彦星の間に流れている輝かしい流れです。
人と会社をつなぎ、ともに歩み合うという思い、私はそんな希望を心に描いています。
私は転職経験者、知的・精神障害のある方の就労移行支援事業所にて支援にたずさわり、
一般企業では翻訳業務を経験し、現在は社会福祉法人にて相談支援業務に従事しています。
 働く中では視覚障害がゆえの工夫や気づかいも必要かと思いますが、
「障害の有無」をこえたコミュニケーションも大切だと感じています。
会社内でのコミュニケーションが希薄になってきたと言われる今、
言葉によるコミュニケーションを大切にする視覚障害者の発信が周囲の雰囲気を変えていくこともあるかもしれません。
見える人の中のたった1人の見えない自分として生きてきた私、今回は働く中での私が心がけていることについてお話します。
 ここから本文です。
 私は、15歳で視力を失いました。
当時の私がまず感じたのは、「生きていけない」ということでした。
当然、自分が働くということを思うことすらできませんでした。
見えていたころの私は、医者になることを夢見ていました。
失明と同時に、その夢は私の前から消えました。
2年間の引きこもりのあと、盲学校へ進学して初めて視覚障害の人と出会い、3年間を過ごしました。
 大学入学以降、現在にいたるまで、私は見える人の中のたった1人の見えない自分として生きてきました。
今、振り返ると、周りとかかわるためには自分の障害と向き合わざるをえなかったと思います。
「見えていないってどんなことなの?」をどのように見える人たちに伝えていくかが私の課題でした。
そんな「私に与えられた課題」と向き合うことが現在も続いています。
 大学では、ある程度授業保障がされていました。
それは、お金を払って学ぶ場所だからこそ求めることのできる保障です。
社会に出て働くという立場になれば、お金をもらう立場です。
どこまで合理的配慮を要求していいのか、どこまで自分1人でクリアすべきか、働く中では常にこの課題がつきることはありません。
他の人と同じスピードで仕事ができないことを理解してもらった上で同じ給料をもらうのか、
自分がどうしてもこえられない部分を別の部分で追いこさねばならないのかと考えることもあります。
このように自分を追いつめることに疑問を感じながら、合理的配慮を求める権利と業務効率を上げる義務との狭間で悩みます。
 私が業務の中で見えないゆえの「困る」に出会うたびに、
音声パソコンが何もかも読み上げるのではないことを説明する必要があります。
私の申し出に対し、
「システムの問題なのか、スキルに問題があるのか、単にサポートに頼ろうとする甘えなのか」と上司や同僚は考えます。
また、限られた時間でどれだけの業務成果を出せるかをシビアに判定されるので、
できないをできるにするためのサポートの求め方そのものに葛藤がありました。
 私が複数の職場を経験して得たことは、課題へのトライの中で生まれたメリット・デメリットを蓄積できたことです。
それはパソコン操作のような事務作業、見えないゆえのコミュニケーション上での工夫です。
少しずつタイミングに配慮しながら、
自分にできること、できないことをともに働く仲間に繰り返し気持ちよく伝え続けていくことを大切にしています。
そして、なぜできないのか、なぜこれだけの時間が必要なのか、
「WHY」と「THE REASON」を明確に伝えなければなりません。
その上で「自分はここまでやっていますよ」というアピールも少しずつきちんと伝え、サポートの要求は小出しにします。
一度に言うと、「この人、仕事できないのになぜここにいるの?」と、理解を求める行為がマイナスの理解へと動いてしまいます。
「エクセルのこうしたレイアウトはスクリーンリーダーでは読まないので、今後のレイアウトについてはお願いできますか」と、
ピンポイントで「見えないことの限界」を伝えて、少しずつの理解につなげていくようにアプローチしています。
 また、パソコン操作、上司への進言、漢字表記校正など、それぞれの得意分野のキーパーソンを見つけておくことも大切です。
「○○さん、パソコンのシステムに詳しいですよね。
もし今お時間があれば、少しこの部分で教えてもらえると助かるんですが、ちょっと見ていただくことはできますか」、
サポートに対しては、「助かりました。ありがとうございました。おかげで仕事ができそうです」と笑顔で伝えます。
そして、「あなたのサポートの力が私の仕事を動かしてくれました」という感謝と成果をきちんとフィードバックします。
 こうした働きかけを積極的にすることで業務効率が上がり、抱える問題も減ってきます。
できないことへのプレッシャーでしんどくなる時間、葛藤する時間を減らすことで、
自分自身の仕事と向き合う気持ちもプラス方向へ動きます。
 とはいうものの、全盲の私には、オフィス内で声をかけるタイミングの難しさは容易には解消されません。
不在の人が帰ってきたら声をかけてくれるよう頼んだり、
その日の自分のスケジュールをよく見えるところに貼り出して、自分のことを気にしてもらうためのアピールをします。
そして、自分の困ることに対する周りの積極的理解につなげるための会話にも工夫しています。
先に「できます」を伝え、あとから「苦手」を伝えるようにしています。
自分にできる・できない・がんばる・サポートをもらう、この4点を考えて自覚しておく必要があります。
 また、自分で環境を整えるための発信をします。
同じことを伝えるにも、提案の仕方で受け止め方が変わります。
定位置にものを置くということを提案することがみんなの働きやすいにつながることを、
見えないゆえの工夫でなく、誰もに優しい工夫であることとして周りに受け入れられるよう働きかけています。
 必要な環境づくりが相手に不快感を与えないよう気配りしながら、
あきらめずに伝え続けることをこれからも大切にしていきたいと思います。
編集後記
 見える人の中のたった1人の見えない自分、
職場においてこの「たった1人」と向き合うことはかなりエネルギーのいることだと思います。
働く中での「終わらない葛藤」が生み出した「共生」という光。
「見えないってどんなこと」を理解してもらいたいという願いをこえて、
「みんなに優しいってどんなこと」を考える強さにつながっていったのですね。
15歳で生きていけないという絶望の内にあったミルキーウェイさんが、
20年を経た今、生きるために働くことと向き合う中での軌跡。
働く中でのたくさんの工夫は、すてきな笑顔が添えられるからこそ、実りあるものへとつながっていくことでしょう。
 このメールの内容は以上です。
発行:京都府視覚障害者協会
発行日:2014年6月13日
☆どうもありがとうございました。


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