メルマガ色鉛筆第330号「十色の研究その9 音レクの名探偵」

タイトル: 十色の研究その9 音レクの名探偵
ペンネーム: カラフル幕府 (40代男性、光覚)
★レポートの要旨です。
 神様から配られた色々なトランプのカード。視覚障害もそのうちの一枚である。このカードのせいで苦労することもある一方、
このカードのおかげでこうしてメルマガ色鉛筆と巡り会えたりもしているから、
本当に人生というものはわからない。
 さてそんなメルマガ色鉛筆、去る2023年11月5日に
京都某所で10周年記念フェスが開催された。
そのプログラムの一つに『音レク』というものがあった。
今回はそこで大いに用いられた視覚障害と推理力という二枚のカードの
組み合わせについて書いてみたい。
これはそんな雑記まがいの自己研究レポートである。
★ここから本文です。
 そもそもこのエッセイのタイトル『十色の研究』の元ネタをご存じだろうか。
世界一有名な名探偵、シャーロック・ホームズが初登場した小説の邦題が
『緋色の研究』であり、それと慣用句の『十人十色』を合わせたものである。
 優れた推理力で事件の謎を解き明かすのが名探偵だが、
かねてから僕は目が不自由な人間はある種の名探偵ではないかと考えていた。
何しろ情報の9割は視覚と言われる中、目を用いずに音や香り、
感触や言葉から状況を推理して生活しているのだ。
日常的に謎解きをしているようなものである。
 今回企画された音レクはまさにその推理力に着目したものだった。
本来は目と耳で楽しむ映像作品を音だけで聴いてみて、
どれくらい内容を当てられるかに挑戦したのだ。
仕掛け人は子供の頃からこよなく推理小説と名探偵を愛する男。
彼の司会でレクがスタート、
まずはメンバーがそれぞれの好きな音と嫌いな音、
生活の中で頼りにしている音や大切にしている音を挙げていくことから始まった。
 それが終わるとウォーミングアップとして、ラジオドラマの音声を聴いて
どんな状況なのかをみんなで推理してみた。
もちろんラジオドラマは音だけでわかるように作られているので難しくない。
 ではいよいよ本番、映像作品に挑戦だ。
第1問の作品はアニメ映画『文学少女』である。
 音声がスタート。
まず学校のチャイムの音が聴こえてきて、「バイバイ」などの若い声が交わされ、続いて誰かが一人で道を歩く靴音に小鳥のさえずりが重なる。
きっと今このエッセイを読んでいる皆様も、中学か高校の放課後の場面で、
校庭か公園かを主人公が歩いているんだなということはおわかりだろう。
問題はここから。
 主人公は何かを目撃して立ち止まり、驚きの声を漏らす。
漏らした声から主人公が少年であることはわかるのだが、
さらにそこに紙がビリッと破れるような音がして、
今度は「見たわね?」という少女の声。
そして秘密を見た少年に対して少女は文芸部に入部しろと言い、
自らを文学少女と名乗るのであった。
 ではここでクエスチョン、
少年はいったい少女のどんな秘密を目撃したのでしょう?
 読者の皆様も推理力を働かせてみてほしい。
ちなみに当日のレクでは文学少女というワードから
ビリッという音は本のページがめくれた音と考えるメンバーが多かった。
中でも印象的だったのが、聴こえる小鳥のさえずりと合わせて
「魔法の本で少女は鳥に変身していた」という推理だ。
 これは残念ながら不正解。
答えは「少女は文庫本のページを破って食べていた」であり、
これを推理するのはかなり難しい。
正解発表として同じ作品のラジオドラマ版を聴いてもらった。
そちらでは少女がムシャムシャ本を食べる音が入っており、わかりやすかった。
それにしても、魔法の本で鳥に変身する少女の物語も、ぜひ見てみたいものだ。
 では続いて第2問、次は実写映画の時代劇に挑戦。
 作品名は明かされずに音声がスタート。
まず聴こえてくるのは激しく刀と刀がぶつかり合う音。それが少し止むと
「ゲボッ」と誰かが何かを吐くような音がして、苦しそうな息遣いが続く。
その後に援軍の侍たちがやってくる声と足音がするのだ。
 ではここでクエスチョン、いったいどういう状況なのでしょう?
正直、音だけでアクションシーンを想像するのはかなり難しい。
どの時代の何の闘いなのかもわからなくて当然だ。
当日のレクでも「誰かが刀で切られて吐血したんだろう」という推理が大半だった。
 しかし一人のメンバーが真実への活路を見出す。
援軍の侍の一人がこう言っていることに気付いたのだ…
「池田屋は全部片付けた」「今のお前じゃ無理だ、沖田」。
 池田屋と沖田、そしてフェスが開催されたのが京都とくれば
ピンとくる人も多いだろう。
これは幕末の京都で新撰組が維新志士を襲撃した池田屋事件の場面、
となれば沖田は新撰組の沖田総司。そして彼が吐血したとすれば
斬られたのではなく…そう、患っていた肺結核の喀血だとみんなで推理が進んだ。大正解、答えは「池田屋の外で闘っていた沖田総司が肺の病気で血を吐いた」。
第2問は音とセリフだけで
見事に見えないアクションシーンの状況を言い当てることができたのであった。
まさしく名探偵である。
 ちなみに作品名は『るろうに剣心』。
今回の音声では主人公の剣心は終始無言で沖田と闘っているため難問であった。
 以上2問、タイムオーバーで参加者全員から
感想を聞く前に終わってしまったのは残念だったが、
視覚障害者の持つ推理力を少しでも感じてもらえたなら
音レクの意味はあったと思う。仕掛け人の男も喜んでいることだろう。
 今回の研究で改めて感じた。
目が見えない人間は真っ暗な世界を生きていると思われがちだが
まったくそんなことはないと。
窓の外の空の色も、部屋のレイアウトも、仲間たちの動きも、恋人の微笑みも、
ちゃんと思い浮かべてカラフルな世界を生きている。
視覚障害者はけっして視覚がないわけではなく、
心の色鉛筆で世界を描く視覚想像者なのだ。
 ではでは、また次の謎でお会いしよう、名探偵諸君。
 目が見えなくたって何もあきらめることはない。
我々は人生がテレビドラマからラジオドラマになっただけ、
テレビドラマよりも名作のラジオドラマはいくらでもあるのだから。
編集後記
 見えないから推理する、そこにはたくさんの「もしかして」があります。
さらに「もしかして」から挑戦したり、実験したり、
さらに深めて研究したりなんてことが生まれていきます。
 
「また次の謎でお会いしよう、名探偵諸君」とクールな約束も飛んできました。
日々推理を重ね、ビンゴ、まさかをくりかえし、
どっちにしても「なるほど」といちいち立ち止まって感じたりする、
それが見えない見えにくい暮らしなのかもしれませんね。
 ちなみに文中に出てきた緋色とは明るめの赤、黄色みを含んだ赤のようです。
スカーレットに近い色とも言えます。
鉄道好きの方なら名鉄の車体の色をイメージされるでしょうか。
また、スキマスイッチの曲が浮かぶ方もおられるかもです。
小さな入口からひろがる世界、色鉛筆でまたいつか。
 -- このメールの内容は以上です。
発行:  京都府視覚障害者協会
発行日:  2024年2月9日
☆どうもありがとうございました。


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