メルマガ色鉛筆第324号「こんなことやってみた すると アートレクリエーション編」
タイトル こんなことやってみた すると
アートレクリエーション編
メルマガ色鉛筆編集チーム
こんにちは。メルマガ色鉛筆編集チームです。
先月、色鉛筆で初めてライターさんが集まって、いっしょにいろんなレクリエーションをやりました。
今回は、アートレクリエーションのリーダー、月に遊ぶゆきうさぎさんからのレポートをお届けします。
えー、今日は皆さんと一緒にアートレクを楽しみたいと思います。
私は進行性の弱視で、肉眼で美術作品を鑑賞することはもうほとんどできません。
でも、例えばそれをクリアファイルに加工した商品等、撮影可能なものをアイフォンのカメラに収め、室内灯の下で画像の拡大縮小を繰り返しながらじっくり目を這わす・・といった手数を踏むと、コントラスト等によってはまだかすかに視認できることがあります。
そんなとき、悲しいほど思い知ります。
美術作品とは、絵画はもちろん立体作品であってもそのほとんどが視覚的アプローチを前提に技を凝らした表現であるということを。
そして作品の放つ精彩を目を使わずに感じ取るのがいかに難しいかということを。
輪郭の浮き出た触図を指でなぞったり、言葉で説明を受けたりしてそのときはなんとなく鑑賞できたと思っても、その後かすかにでも自分の目で見ることができたときには、指や言葉ではたどり着けなかった深い印象に愕然となりながら惹き寄せられ、やがて自分が失うであろうものの大きさに心をえぐられるのです。
この印象を、これから完全に視力を失うときがきても感じ続ける方法はないものだろうか・・。
そんな届かないもどかしさ、未解決の課題を抱える私が今回、鑑賞の素材として選んだのは、そもそも形のない、見た目を持たないものでした。
それは、とある物語の一節。
それから真っさらな紙粘土。
奇しくも物語のシーンは「描く」という、アート体験にも通ずる手法で語られていきます。
そこに描かれる世界を想像し、それを自分の掌の中で形にする・・そんな体験なら、見える・見えないということに縛られない自由な、それでいて視覚的な美と隣り合わせた鑑賞と、鑑賞に基づく表現としての創造、その両方を、置き去りの悲しみを手放して素直に楽しめるのではないか・・。
ということで、早速やってみましょう。
★物語の世界を作ろう!
以下は、ある物語の一節です。
お話の世界を思い浮かべながら、4つのシーンを作ってみましょう。
ここからお話のはじまり、はじまり。
3. Four Leaves
彼女はいつの間にか真っ白なポストカードを手にしていた。早朝のベンチで、僕らは彼女の言葉を聞きながら、4枚の絵を描いていった。どの絵にも真ん中より少し右に大きな木があった。どの絵もまるで違っていたけれど、どれもこの公園の絵だった。
1枚目の絵は、ふんわりと白い雪に覆われた公園。大きな木には葉っぱがなく、寒そうなむき出しの枝を澄んだ青空に広げている。その代わり、かどうかはわからないけど、木のそばに作られた雪ダルマが、首の回りに暖色系の葉っぱのマフラーをくっつけていた。
2枚目の絵の中の木は満開の桜色。傍らのベンチ(僕たちが今いるベンチだ)では、ヤギとヒツジのぬいぐるみが、頭にクローバーの花冠を載っけてお花見をしてた。
お次の絵の公園は、薄暗い小径に並んだ露店が辺りに黄色っぽい光をなげかけている。「めあごんり」と大きな文字の躍るお店の前で母親の袖を引く浴衣の子。その手には、涼しげな色を流した水風船が揺れていた。公園は中央から四隅に提げられたカラフルな提灯、露店のあかり、そして上空のお月さまにほんのりと照らされている。
女の人の言葉を聞きながら、僕らはぼんやりと光を浴びて佇む大きな木を想像し、
緑ちゃんだけでなく黒ちゃん、白ちゃん、
黄色ちゃん、橙色ちゃんや紫色ちゃんも・・みんなで少しずつ木の葉に色を重ねた。
最後の絵の中の木は、濃淡の赤に彩られ、静かに燃えているようだった。
そう、あやちゃんの絵の風景。違うのは、絵の中でふたつのブランコが並んで揺れていること。母親は座って静かに、まだ小さな女の子は立ち上がって力強く。仲良く揺らすふたつのブランコに、赤い葉っぱがはらはらと舞い落ちていた。
当日朗読音声で聴いてもらったのはこんなお話でした。
皆さんのまぶたの裏にはどんな世界が描かれましたでしょうか。
そして皆さんならどんなシーンを作られますでしょうか。
11月5日は、参加者の皆様に4つのグループにわかれてもらい、それぞれひとつずつシーンを作ってもらいました。
普段はアート体験なんてしたことないと言いつつ参加してくださったピンクパンサーさん、当日の体験はいかがでしたか?
★粘土にふれるのは五十数年ぶりでした。
今の粘土は昔と違い軽くべたつかない、
そして昔の粘土にあった独特のにおいがしない。
そして触り心地が良かったことが印象的です(笑)。
話を思い浮かべ、話の中にありました公園のベンチを想像して作りましたが、
出来は・・うーん、今一つであったように思います。
一人ではまず粘土にふれることもありませんし、
楽しく思うことはなかったと思いますが、
複数の方々の会話を聞きながら、また会話をしながらの作成だったため、
とても 楽しく参加できました。
これまでは特にアートの体験はしたことがありませんでしたが、
今後は陶芸の体験もしてみたいです。
色鉛筆10周年記念フェスやアートレクの準備をして頂いた方々に、
とても貴重な体験をさせて頂きましたことを
心より感謝いたします。
☆ピンクパンサーさんたちが手がけてくださった春のシーンは、ベンチとその傍らでのんびり寝そべる動物の組み合わせがのどかな雰囲気で春らしいと、物語の印象そのもののような感想を皆様からいただきました。
出来は今一つとの自己評価ですが、背もたれやくぼみをつけた座面に心地よさを追究されたという作品は言葉を語らずとも気配り上手な作り手のお心が表れ、視覚を超えた感覚から生まれた機能美が鑑賞する人の心に寛ぎを与えてくれたのではないでしょうか。
皆様との和やかな時間のなか、半世紀を経ての粘土との再会からものづくりの楽しさが芽生え、次は陶芸体験へと、いつかまた新たな花を咲かせる夢のタネもお持ち帰りいただいたようで、企画してよかったなあと何よりの労いをいただく心持ちです。
ピンクパンサーさん、ありがとうございました。
アート、それは美との出会い。
美を感じる自分との出会い。
そしてその響き合いから生まれるもの。
視覚障害者にとってのアートレクは、見えない私たちがそれぞれの感性で美とつながる、貴重な役割をにないうるものだと思います。
このレポートを読んでくださいました皆様にも、ともにお楽しみいただき、ともに考える機会にしていただき、そして身近で見えないアートレクを行う際のご参考にもしていただけましたら幸いです。
関わってくださった全ての皆様、ありがとうございました。
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アートレクで生まれた、四季の風景が手をつなぐ公園は、その後京都ライトハウス鳥居寮の訓練の時間に活用され、さらに子どもたちの笑い声が聞こえてきそうな楽しい公園へとパワーアップしたそうです。
-- このメールの内容は以上です。
発行: 京都府視覚障害者協会
発行日: 2023年12月15日
☆どうもありがとうございました。