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活動紹介

メルマガ色鉛筆第299号「窓辺にて8」

タイトル 「窓辺にて8」
メルマガ色鉛筆編集チーム
 こんにちは。
メルマガ色鉛筆編集チームです。
昨年4月よりスタートした「窓辺にて」、連載第8回です。
タイトルをしりとりでつなぎながら、いろんなジャンルの16作が登場しました

そのバトンを受けて「うどんを食べる時」、「キンコンカンコン」へ、
いよいよしりとりはゴールします。
窓を開いてひろがる世界、見えない・見えにくい中でひろがる世界をお届けしま
す。
タイトル うどんを食べる時
ペンネーム みかんヨーグルト(20代 女性 弱視)
 「おまたせいたしました、きつねうどんのお客様」
席で待っていると、きつねうどんが運ばれてきた。私ですと手を軽く上げる。
自分の身体に対して正面に丼がくるように微調整、七味もしっかり振りかける。
箸を手に取り、さあ食事の始まり。
丼の真ん中あたりをつつくと、油揚げのふっくらした感触が箸先から伝わってく
る。
まずはお揚げからと決めているので、箸先であげの大きさを確認し、
うどんとの隙間に差し入れる。
ゆっくり持ち上げると、ずっしりとその重みを感じる。
ほおばると、口いっぱいに柔らかい甘さが広がった。
 見えにくくなったばかりの頃は、きつねうどんは避けていたなとふと思う。
視覚障害者になり、そろそろ10年ほどが経つ。
当時は人前で食事をするのは嫌で嫌で仕方がなかった。
今はほとんど気にすることがない。
見えにくくなってしばらくすると、見えにくいことが日常になる。
その見え方での生活がはじまる。
人間の身体ってすごいなあと驚く。
 見えにくい中での生活に慣れてくると気持ちにも余裕が出てくる。
私は少しずつ興味を持ったものに手を出すようになっていった。
その一つ、食事を素敵に食べる自分を作ること。演じると言った方が良いかもし
れない。
ある時、ふと思った。
このうどんを汁を垂らさず散らさず食べる方法はないものだろうかと。
うどんをすする際、汁が口元をつたったり、掴み損ねた麺が落ちてしぶきが散っ
たりする。
静かに逃げるなら泳がしておくのだが、やつらはたちが悪い。
嫌がらせのように汁をこちらに飛ばしてくる。
なぜこのようなことが起きるのだろうか。
すくうときには箸先から伝わってくる重さで適量かどうかを確認しているし、
麺が滑り落ちないように力も込めている。
見えづらいから仕方がないのかもしれないとあきらめていたが、やっぱり綺麗に
食べたい。
かくして、私は「うどんを素敵に食べる」研究をスタートさせた。
結果、「正しい姿勢」と「正しい箸の持ち方」が鍵になることがわかった。
 まずうどんを食す時、自分がどのように食べているのかを観察した。
すると、持ち上げた箸に対して、顔の角度が斜めになっていた。
持ち上げた箸も丼に対して真上ではなく若干口元に向けるように手前に向いてい
た。
そのため、垂れ下がった麺と口元が近すぎて
汁があごのほうに垂れてきていたのではないかという分析を得た。
汁のしたたりを防ぐためには、箸と顔の角度を斜めではなく垂直にしなければな
らない、
この仮説を立て、実際に試みた。いや、うどんを食べてみた。
真上に箸を持ち上げ、その上からかぶさるイメージで口を持っていく。
ずるずるずる、汁は垂れてこなかった。
口を近づける際に気を付けなければならないのが、目線を箸に落としすぎないこ
と。
どうしても確認しようとして、目線が箸に落ち気味になる。
視野が中心しかない私の場合、顔ごと向けなければ視界に入らない。
そのため、自分が思っている以上に顔が下に向いていたようだ。
 次に、麺の掴み損ねを防ぐ方法を考える。
口に入る麺の量が取れているかどうかは箸先の重さでなんとなく調整できている

しかし、うどんを掴む箸が若干クロスしている。
うどんを持ち上げた時、なんだか箸がぐらついている感覚があった。
どうも箸同士が重なり合っていたようだ。
箸の持ち方は幼いころから祖父母に口うるさく言われていたこともあり、
下手ではなかった。
だが、無意識に持ち方が崩れていたのかもしれない。
試しに何も掴まずに箸先がピタッときれいに合うか確認してみた。
箸だけなら問題はないが、食べ物を掴んだ時にクロスしていることがわかった。
 ということで、私はスマホを取り出し「箸 持ち方」と打ち込んで
正しい箸の持ち方を調べた。
ある自治体のサイトの解説をもとに、実際に箸を持って練習した。
それまで慣れ親しんだ、身体に染みついたものと違う動きをするのは違和感があ
った。
慣れるまでに時間がかかったが、いつしか箸先はきれいに合うようになっていた

箸に関するチェックはここまでとする。
 次に姿勢について考えてみる。私は猫背だ。
姿勢がくずれていることと、箸の持ち方や顔の位置とは何らかの関係があるので
はないか。
食べる時の自分の姿勢についてふりかえってみた。
物を見る時にどうしても顔を向けるため、顔より下にあるものを見る時は首が下
がって、つられて背中も丸まってしまっている。
ご飯をこぼさないようにという気持ちもあったのだろう。
また、食器や箸を持つ際、両脇も空いており、肘が少し外側に向いていた。
そこで、以下のことをやってみた。
食事をする時はまず背中をまっすぐにし、下を向くときは首からではなく、
頭と背中の両方を同時に傾けるようにした。
頭頂部から尾てい骨あたりまで1本の棒が埋め込まれていて、どうあがいても背
中を曲げられないようイメージした。
脇も閉めるように心がけた。
これらを実践するようになり、うどんからの攻撃はかなり防ぐことができるよう
になった。
 実践から得た考察は、箸の持ち方や姿勢が正しくなることによって感覚が鋭く
なるということだ。
おかずがどのように置かれているのか、どのような形や切り方をされているのか

目ではわからない。
しかし、箸先からその姿を捉えられるというか、頭に画像が映し出される感覚に
なるのだ。
こんにゃく、ミニトマト、豆腐などもかなり食べやすくなった。
 このような研究もどきを常にできると良いのだが、その日の体調や気分がある
ので
「やりたい」という時だけ取り組んでいる。
時には何も考えず、ずずずっと勢いよくうどんをすするのも、
これはまたこれで非常にうまい。
見えにくくても、人間には様々な力が備えられているということを、
楽しみながら発見していきたい。
そう思いながら、今後も素敵に美味しく食事をしていこう。
ーー
 日々の営みの小さなひとときの中にも、
見えない・見えにくい状況が及ぼす変化があります。
今回は「うどんを食べる時」の中でのこと。
そしてこの研究が生まれました。
 分析、仮説、方法、結果、考察、それぞれのシーンを見せてもらいました。
見えないけれど考えてみる、考えた結果、「箸で見る」感覚が生まれました。
素敵においしく、うどんが食べたくなりました。
タイトル キンコンカンコン
ペンネーム 春霞(50代 女性 弱視)
 キンコンカンコン これはチャイムの音
 キンコンカンコン そう言えば、最近どこでこの音を聴いたかな
 キンコンカンコン なんだか懐かしい気分
キンコンカンコン これはさよなら、それともはじまり
ーー
 キンコンカンコン この小さな語りから、世界がひろがります。
教室にいるような気持ちになったり、夕方の空の下にいるみたいだったり、
それってどこで聴いたかなと首をかしげたり、
キンコンカンコン そもそもこの言葉はどこから来たのでしょうか。
 一つの言葉から頭に浮かぶものがいろいろありますね。
 昨年より、窓辺にてのシリーズを8回つないできました。
タイトルをしりとりしていく、ただそれだけのことなのに、
そこに広がる光景は実に多彩でした。
しりとりは前の言葉の最後の音と
後の言葉の最初の音を一致させるというシンプルなルールです。
ひらがなでもカタカナでも漢字でもアルファベットでもいい、
それぞれの音と音が連結していきました。
ちょっとしたことをきっかけに、思い切ってやってみた、それが窓辺にての挑戦
です。
文章を書くことが苦手な人、
そもそも自分の声を発信することなんてやったこともない人、
伝えたいことがある人、ひねり出した人、とにかくがんばってみた人、
いろんな18人の皆さんでした。
この18作、「メルマガ色鉛筆 バックナンバー」でインターネット検索しても
らえると
読むことができます。
 メルマガ色鉛筆のレポートはホームページに掲載しています。
メルマガ色鉛筆から生まれた書籍『見えない地球の暮らし方』について、
その他、さまざまな色鉛筆の活動についても掲載しています。
書籍「見えない地球の暮らし方」の第2巻は5月4日発行です。
詳細は近日配信のメルマガ色鉛筆にてご案内します。
どうかよろしくお願いします。
 -- このメールの内容は以上です。
発行:   京都府視覚障害者協会
発行日:  2023年4月28日
☆どうもありがとうございました。

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