メルマガ色鉛筆第257号「アランフェス物語 真冬の喫茶店で」

タイトル 「アランフェス物語 真冬の喫茶店で」
ペンネーム チュニジアンブルー(60代 弱視 男性)
レポートの要旨です。
 それは、師走も押し詰まった昨年末のことだった。
夕方の暗闇の雪道で迷った。
あるべきランドマークがない。
途方に暮れかけた時、たどたどしい日本語の持ち主と出会い、彼のお店に難を逃れた

喫茶店「アランフェス」。
この日を境に、私のお店通い、そしてさまざまな人生との出会いが始まった。
 ここから本文です。
  「あのー、ここドラッグストアーですかねえ」
「ちがいます、喫茶店です。」
彼の話し方は外国からの方の日本語に聴こえた。
そんなことより、喫茶店ならとりあえずお店に入ろう、タクシーだって呼べるし。
それまでお店の外回りの雪かきをしていた彼に導かれ、お店のカウンター席に座った

少しして出てきたコーヒーの暖かく、うまいこと。
 マスターは濃紺さん、86歳で外で除雪していた彼は若緑さん、55歳。
聞けば、このお店は32年前に産声を上げた。
それ以来、年中無休で朝は9時過ぎから夜の9時まで開いている。
お店の名前「アランフェス」は、スペインの同名の古都から名づけたという。
 二人は親子で、若緑さんは50歳の時、脳梗塞で倒れ、リハビリで右半身はかなり
動かせるようになったものの、慣らすのにはまだ苦労している。
マスターも数年前に心臓を病み、ペースメーカーを入れている。
チュニブルはお二人から静かな情熱と、どこか人を和ませる暖かさを感じている。
ギターとオーケストラのコラボである「アランフェス協奏曲」が聴く人に与える感動
と同じだ。
 終戦まで中国大陸で暮らし、苦労を重ねて帰国し戦後は東京でさまざまな職につき
、今は東北の街でクラシック流れるこの空間で常連客と世間話をする傍ら、絵筆をと
ることもある濃紺さん。
物静かだけど情熱的なんだなあ、
若緑さんは、自分の言いたいことと言葉を結びつけるのに、時として苦労するのだが
、彼が紡ぐ言葉のリズムはなんだかのどかで、それでいて優しいんだなあ。
そして、淹れたてのコーヒーの香りが、二人と私たちを包み込む。
 息子さんから今後はこれ使えとスマホを渡され、最初は呆然としたが今は華麗に使
いこなす高齢の女性、黄緑さん、
お店を案じてカウンターで若緑さんにアドバイスをかかさないブラウンさんなどにぎ
やかな常連客が集う。
先月初めの夜、濃紺さんがお店で体調を崩した時は、女性看護師さんと中学校の先生
がいて、速やかに救急車を手配した。
みんな、二人がすきなのだ、
この喫茶店がどうか続いて欲しいと願っているのだ。
 若緑さんはチュニブルと同じ緑内障で手帳も交付されている。
チュニブルは、仲間の視覚障害者たちに「アランフェスに行こう」と呼びかけている

家族と一緒に訪れてくれる仲間も出てきた。
 「小さな幸せ、楽しみを毎日の暮らしの中にみつけていこうよ」
彼とそんなことを語り合いながらコーヒーを啜る。
いつまでそんな日々が続けられるか分からない。
僕にだって、誰にだってわからない。
だから今が楽しい。
だから、今を楽しむ。
編集後記
 歩むべき方向を見失った時、それが物語のはじまりでした。
はじめは自分一人だったのに、物語にはカラフルな人たちが登場します。
それは静かな情熱のある場所、アランフェス。
 小さなしあわせ、楽しみ、それがどのようなものなのかわからなくなる時がありま
す。
わからないけど感じたい、そう想った時、心に浮かぶのは何でしょうか。
あるべきランドマークがない、そんな日にイメージできる何かがあるとよいのかもし
れません。
それは誰かだったり、音楽だったり、アランフェスだったり。
もしかして、色鉛筆だったりなんてことも。
 -- このメールの内容は以上です。
発行:   京都府視覚障害者協会
発行日:  2022年2月25日
☆どうもありがとうございました。


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