メルマガ色鉛筆第125号「ひとひら」リレーエッセイ1
タイトル 「ひとひら」リレーエッセイ1
メルマガ色鉛筆編集チーム
こんにちは。
メルマガ色鉛筆編集チームです。
今号より、しりとりスタイルのタイトルでリレーエッセイにトライします。
暮らしの中の体験ひとひら、記憶ひとひらをつなぎます。
お1人目は「競馬」、つづいて「バンク」というタイトルでのエッセイです。
タイトル 「競馬」
ペンネーム 赤い勝負服(40代 男性 弱視)
競馬とは、自分の持ち馬をレースで走らせて、
どの馬が一番強いか競争させる金持ちの遊びの一つである。
我々庶民にはなかなか手が出せない遊びだと思われがちだが、
ごく普通の庶民でも自分の馬を持って競馬で走らせることができる。
それが愛馬クラブというもので、
40人から500人で1頭の馬を買って実際の競馬で走らせることができるので
ある。
もちろん毎月のえさ代は必要だが、
レースに出場して賞金を獲得すればそれを人数分で分け合えるのだから、
まさに馬主の気分が味わえる。
日本では毎年約7000頭の馬が生まれてきて、
そのうち競馬で勝ち上がれるのは7分の1もいないのが現実。
そんな厳しい世界で、自分の馬が勝ち上がることを祈りながら馬を応援する。
馬によっては体質が弱かったり、足を怪我したり、走る気がなかったりと、馬に
も性格は色々あるが、
それでもレースに出場して勝ってくれた時はわが子のことのように嬉しくなる。
私は以前に自分の馬を数頭持っていたので、その気持ちは痛いほどよくわかる。
もちろん一つも勝てない馬もいた。
しかし、そんな馬に限って愛すべき思い出の1頭になっている。
実際に私が持っていた馬を例にあげれば、
同じ父親と母親の子供でも、どんどん勝ち上がる馬もいれば一つも勝てない馬も
いた。
馬主は馬の血統に魅了され、走る馬を夢見て馬を買う。
そして、勝ち上がることを願って応援する。
競馬にはそんな楽しみ方もある。
タイトル 「バンク」
ペンネーム ワカメ(70代 男性 弱視)
馬酔木(あせび)の花がたわわに咲いている。
もうすぐ春、
その麗らかな陽射しに誘われて流行の終活でもしようかと思いつき、書類の整理
をし始めた。
2週間ほど前、アイパッドにOCRアプリをインストールしてもらった。
このアプリは、画像や写真から文字を認識してくれる。
大活躍だ。
カチッ、読み上げ音声、紙を破り捨てる音が何度も繰り返される。
この単純な作業に退屈しかかった頃、銀行通帳の束が出てきた。
ちょっと期待を抱いて作業を再開したが、全てが使用済みで1円も残っていなか
った。
面倒で力もいる通帳破りをしながら、ふと一つの疑問が浮かんできた。
初めてのマイ銀行通帳は?
私が自分名義の銀行通帳を最初に作ったのは、第一銀行百万遍支店であった。
東大路と今出川の交差点の南西角にあった小さな2階建ての建物で、
外観的には銀行らしい荘厳さも美しさもなかった。
第一銀行は、明治初頭の国立銀行法によって設立された第1番目の銀行である。
これ以降、明治20年頃までに冠に設立順を示す数字を付けた銀行が153行設
立された。
いわゆるナンバーバンク(銀行)が開設され、戦前の日本の経済を支えていた。
現在も残っているナンバーバンクは、第四、十六、十八、七十七、百五、百十四
銀行の六つである。
第一銀行は第一勧業銀行となり、今はみずほ銀行になっている。
ところで、33バンク(サンサンバンク)というのをご存じだろうか。
競輪場の1周333メートルのコースのことである。
全国に7か所あり、この近くでは奈良県にある。
近鉄京都線の平城駅で下車して西へ10分ほど歩くと、スタジアムのようなコン
クリートの建物が見えてくる。
これが33バンクの競輪場の外壁である。
鄙びた(ひなびた)里の小さな森の中にひっそりと佇む秋篠寺に行かれることが
あれば、
そのついでに足を運ばれてもよいかもしれない。
話を銀行に戻そう。
自分の名前が書かれている真っ白な通帳を受け取ったあの日、私は大人になっ
た。
今までと違う自分を感じ、希望と不安で胸が騒いだ。
あの日の自分のことを今もハッキリと思い出せる。
あれから55年、銀行とのお付き合いはいやおうなく続いた。
OCRで通帳を盗み読みしていると、その数値から人生の色々な断面が染み出て
くる。
なんとケチくさく、気の小さな男なのか。
通帳はキッパリとゴミ袋にほうり捨てよう。
終活はマダマダ続くのだ。
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初めてのしりとりリレーエッセイ、どうでしたか?
競馬というタイトルで走り出し、バンクにバトンが渡りました。
バトンを受け取ったワカメさんは、馬酔木の「馬」の文字から書き出しました。
それぞれの人生のひとひら、ほんのりと思いをつなぎながら、次回のリレーエ
ッセイへとつづきます。
-- このメールの内容は以上です。
発行: 京都府視覚障害者協会
発行日: 2018年7月6日
☆どうもありがとうございました。