メルマガ色鉛筆第81号「自然が私にくれたもの」

タイトル 「自然が私にくれたもの」
ペンネーム しあわせ色のタヌキ(40代 女性 全盲)
 レポートの要旨です。
 自然はいつも私のすぐ傍にありました。
第2の故郷信楽で、私が感じた自然について記憶をたどってみました。
思い起こすという体験は、見えない私に鮮やかな自然を見せてくれました。
その風景と描いた思いをお届けします。
 ここから本文です。
 子供時代の夏を想う時、必ず滋賀県の信楽の風景が目に浮かびます。
そこには祖父母の家があり、私はそこでいとこたちと夏休みを過ごしました。
 信楽は、信楽焼で有名な町です。
京都からJR琵琶湖線に乗り、草津で柘植行きに乗り換えて貴生川まで行きます。
さらに貴生川で信楽高原鉄道に乗り換えると信楽に行くことができます。
ガタンゴトン、揺れながら信楽に近づくにつれて山や川、一面の田んぼなどのの
どかな風景が広がります。
駅を降りるとお土産屋さんがあり、あちらこちらでおちゃめなタヌキが出迎えて
くれます。
見上げるほどの大きなタヌキや親子のタヌキ、どの顔も目が温かくにっこりとし
ていて、眺めているだけでホッとします。
 ここでは、都会にはない澄んだ空気と自然の中にいる生きものたちに出会うこ
とができました。
私はいとこたちに会えることと同時に、いつもそんな自然に出会えることにわく
わくしていました。
決して昆虫が好きなわけではありませんでした。
それでも、京都では見つけられない小さな生きものたちが近くで見られることは、
私にとってとても新鮮なことでした。
 自然はいつも私のすぐ傍にありました。
祖父母の家の近くの川では大きなカエルがのっそり歩いていたり、ザリガニが大
きなはさみを振り回しながら歩いていたりしました。
山の中の木々には、いろいろな種類のセミやカブトムシがとまっていました。
家の中には、緑の目をした黒の体に黄色の模様の大きなオニヤンマがふらっと入
ってきたりしました。
 オニヤンマは、私にはゆっくり飛んでいるように見えました。
しかし、私が手を伸ばすとさっと舞い上がり、空中を素早く移動してしまいます。
「もう少し右」、「違う、違う。もうちょっと上」、
みんなで応援してくれましたが、なかなか思うようにいきません。
広い座敷を走り回り、やっとオニヤンマの羽をつかんだ時は汗だくでした。
「やったぁ」とはしゃいでいる私。
そんな姿をいとこたちは笑いながら眺めていました。
 いとこたちはとても慣れていて、こわがらずにいろんな虫を捕まえることがで
きました。
 ある時、いとこたちがクワガタを捕まえてきて、戦わせるゲームをしていまし
た。
その当時、町ではクワガタは貴重でしたが、田舎では簡単に捕まえることができ
ました。
とはいっても、私にはカブトムシさえつかめませんでした。
まして、クワガタはもっと動きが速くてこわいものでした。
「僕のが強いぞ」、「いや、こっちのほうが強いわよ」、
私は大騒ぎして競っているいとこたちの姿をただじっと見つめるだけでした。
 「一緒に遊びたかったなぁ」。
結局さわることができずに、しょんぼりしながら家に帰りました。
 私は、信楽で捕まえてもらったカブトムシを自宅で育てていました。
さわれないけれども、スイカやキュウリを入れて大事に育てていました。
私は、カブトムシが動く様子をいつも飽きずに眺めていました。
 クワガタをいとこたちのようにつかめなかったことは、とても悔しいことでし
た。
そこで、勇気を出してカブトムシにさわってみることにしました。
おそるおそるつかんでみると、カブトムシは意外におとなしくて、私の手の中で
じっとしていました。
「なぁんだ、簡単につかめるんやなぁ。これならクワガタもつかめるかも」。
 試しに、オスのカブトムシどうしを戦わせてみました。
「来年の夏はリベンジして、いとこたちに勝つぞ!」、
そんなたわいのないことを真剣に考えていた子供の頃がとても懐かしいです。
 その後どうなったのか、ずっと思い出せないままでいます。
 今でも信楽に行くと、大人になった私をたくさんのタヌキが出迎えてくれます。
昔も今も変わらない温かな目。
タヌキにさわると鮮やかに浮かんでくるあの頃のさまざまな光景。
オニヤンマを捕まえた私の汗だくの顔、クワガタにさわれずにしょんぼりしてい
る私の顔、カブトムシにさわれて満足した私の顔。
そこでは、いろんな私が自然を感じていました。
 今は見えなくなり、姿がわからない昆虫にはこわくてさわれなくなってしまい
ました。
それでも大きな木の感触を確かめたり、川の流れる音が聞こえてきたり、
昔以上に手や耳が私に自然を教えてくれています。
 今度はどんな生きものたちに出会えるだろう。
新たな出会いを楽しみに、第2の故郷信楽に帰りたいと思います。
編集後記
 見えていたころの思い出の中で、いきいきとして鮮やかな自然と触れる自分。
オニヤンマやカブトムシと、しあわせ色のタヌキさんは出会いました。
出会いとは、人との出会いだけに限りませんよね。
よい出会いをしたなぁと思います。
そして、見えなくなられた今も信楽の自然との出会いは続いているのですね。
 手は、自然がすぐそばにあることを教えてくれます。
耳は、自分が自然に包まれていることを教えてくれます。
これからも、よい出会いがありますように。
-- このメールの内容は以上です。
発行:   京都府視覚障害者協会
発行日:  2016年11月4日
☆どうもありがとうございました。


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