メルマガ色鉛筆第66号「私にとって楽しいこと」
タイトル 私にとって楽しいこと
メルマガ色鉛筆編集チーム
「あなたにとって楽しいことって何ですか?」と問われると、
「いろいろあるけど・・・」とお口がモゴモゴすることってないですか?
人って、漠然と何かを問われると困ってしまうものですよね。
しかも、「何か一つだけ楽しいって思えることを教えて」なんて、無理なお願いをされたら、
もっと困ってしまうかもしれません。
「楽しいことなんてないよ」という人もいるだろうし、
「いっぱいあって一つだけなんて選べない」なんて人もいるかもしれません。
「困ってしまってワンワンワワーン」と泣くほどではないにせよ、
「あえて語るならこれ」としぼり出した思いにはその人の色が映し出されているようです。
今回は、初お目見えのピチピチライターさんたちに色とりどりの「楽しい」を語ってもらいます!
★タイトル 今日のお茶受けは何かな
ペンネーム ぐり~んぴ~す(50代 男性 弱視)
「今日のお茶受けは何かな」。
なんと神々しく黄金色に輝く長方体の物体は、
以前からそこに存在していたかのようにドーンと落ち着いている。
長方体の左上部、端から1センチのところに黒文字を入れる。
斜め左下部に向かってスーっと落とす。
すると、少し抵抗するかのように心地良い摩擦感が指先に伝わる。
切り取った三角形を黒文字で突き刺し、口の中に入れて上の歯と下の歯を軽く噛み合わせると、
今度は抵抗なく、田舎のおばあちゃんの家の縁側でおばあちゃんと一緒に食べた蒸し栗のように、
素朴な懐かしい味が口いっぱいに広がる。
空と大地とやさしい風に育てられた秋の恵みよ、ありがとう。
「おいしいね」。
「おいしいね」。
「ごちそうさま」。
「ごちそうさま」。
★タイトル 音楽と私
ペンネーム 無色の音(20代 男性 弱視)
高校から大学までの間、私は吹奏楽をしていました。
担当していたのは打楽器です。
打楽器とは基本的にはリズムを刻むドラム、盛り上げ役的な位置のシンバル、
複数の音で和音を出したり旋律を演奏することもあるシロフォンなどの鍵盤楽器もあります。
私が得意だったのはその中でもリズムを刻むスネアドラムやバスドラムなどで、打楽器では花形といえる楽器でした。
打楽器の中には先ほど挙げたような鍵盤楽器もあったのですが、私は苦手でした。
ピアノの白鍵と黒鍵みたいに鍵盤が色分けされていないからです。
吹奏楽をやっていて一番良かったことは、
高校1年の時にマーチングの大会に出たことです。
マーチングとは、楽器を担ぎながらいろいろな動きをしたり隊形を組んだりする吹奏楽の演奏法の一つです。
その年の大会には、マーチングの協会に参加している小学校から一般・社会人まで、幅広いキャリアのグループが参加していました。
私たちの出番の後に上手なグループの演奏が聞けたことがとても良かったです。
私はどうしてもそれぞれのグループの打楽器陣にしか目が行かず、
このグループの打楽器陣は何人いて、打楽器は何色で統一されているとかいうことに注目してしまいます。
どれだけ高度な手数で楽器をたたいているかとかを見て、
同じパートの人とああだこうだ言いながら興奮したことを覚えています。
また、小学校高学年から中学卒業まで合唱もやっていました。
合唱をやるきっかけとなったのは、
小学校の担任の先生の「歌声が綺麗だから合唱をやってみない?」という言葉でした。
実際に練習に行くようになり、みんなで声を合わせることが好きになりました。
5年間、練習が嫌になることは一度もありませんでした。
合唱団では演奏旅行2回、有名な歌手やアーティストとの共演、除幕式などなど、いろいろな経験をさせてもらいました。
修了してから10年以上経った頃、当時の合唱の先生から連絡を頂きました。
最近、私はその先生が主宰されている合唱グループに参加しています。
今の自分があるのは合唱と出会えたおかげだと思っています。
中学校に上がってから、自分の目のことで周りからいろいろ言われました。
中学入学当初は学校に行くのも嫌になりかけました。
小学校の時は何かしらの支援や援助があったのですが、中学に上がってからはほぼなくなりました。
中学では、見えにくさで困ることを自分で説明しなければなりませんでした。
昔の私には、自分から話しかけて理解してもらおうなんていう考えは全くといっていいほどありませんでした。
また、余計な誤解も招きたくなかったので、
「人より少し目が悪い」とだけしか言っていませんでした。
そういったこともあり、中学校生活はあまり楽しくなかったです。
しかし、合唱団には自分のことを理解してくれる仲間もいました。
私がその合唱団に入る前、全盲の女性の方が所属されていたそうです。
学校でのしんどさはあったけれど、
合唱団の活動は私にとってのストレス発散になっていたと思います。
もし私が合唱と出会っていなかったら、当時の担任が違っていたら、今の自分はなかったと思います。
おそらく私は他人と関わろうとせず、
自分の殻に引きこもって根暗な人間になっていたことでしょう。
「音楽なしでは今の私は成立しないのでは?」と学生当時から感じていました。
今では、割と自分から話しかけられるようになってきています。
「昔の自分からは卒業しつつあるのかな」、
そんなふうに感じながら今も声を合わせることを楽しんでいます。
編集後記
「あなたにとって楽しいことって何ですか?」という質問から
ピチピチライターさんたちにレポートを書いてもらい、一つの発見をしました。
「こうして教えてもらうと、そこには楽しいことだけでなく、ドラマがある」という発見です。
「楽しい」感覚は、人をいろんな世界に引っぱっていってくれます。
目が不自由になって、この感覚を失いかけることもあります。
ですが、失いそうになりながら、むしろ豊かになっていくということがあるようにも思います。
-- このメールの内容は以上です。
発行: 京都府視覚障害者協会
発行日: 2016年4月22日
☆どうもありがとうございました。