メルマガ色鉛筆第45号「ゆうづる5号」北へ)

タイトル 「ゆうづる5号」北へ
ペンネーム 闇を駆ける青い流れ星(60代 男性 弱視)
 レポートの要旨です。
 JRが国鉄から引き継いだ寝台特急はすべて消えてしまいました。
それらは最近はやり(?)の豪華寝台列車とはまったく無縁な、いわゆる生活列車としての役割を担っていました。
今回は、そんな昭和の鉄道への思いを1本の夜行列車に託しながら書かせていただきました。
特に、鉄道好きにはたまらない、駅や車内の放送もひたすらに綴りました。
 書き終えて読み返してみると、なんだか前向きでなくて、「あのころはよかった」みたいな…すみません。
でも、ある年齢より上の東北出身の人(もちろん北海道出身の人も)でしたら、少しだけでもなつかしさを感じていただけるかもしれません。
 ここから本文です。
●旅は上野駅から始まります。
○駅放送 20番線、お下がりください。
22時10分発の常磐線回り青森行き寝台特急「ゆうづる5号」の入線です。
全車が寝台車でございます。
「ゆうづる5号」に指定されました特急・寝台券をお持ちでないとご乗車になれません。
ご乗車の際は、お手持ちの乗車券をよくお確かめの上お間違いのないようご乗車をお願いいたします。
列車、止まりますとすぐにドアが開きます。ドアには手をかけないでお待ちください。
(列車が入ってきて、そして止まります)
7列車、ホーム側のドアをあけてください。
(ドアが開きます)
お待たせいたしました。
22時10分発の「ゆうづる5号」常磐線回りの青森行きです。
○スケッチ 「おい、あそこに一人旅風の女の子がおるやろ。
彼女、北海道に行くんやったら札幌ぐらいまでいっしょに行ってくれるかもしれへん。お前、話つけてこいや」
「ぼくがあ、いやですよ」
「ごちゃごちゃ言うてんと行ってこいや」
「はいはい。でも、どうなるかわかりませんよ」
(しばらくして)
「残念でした。彼女は八戸で降りて三陸のほうへ行くそうですよ」
「しゃあないなあ。あかんやっちゃなあ、お前は」
「ぼくのせいじゃないですよ」
○車内放送 皆さん、列車のご案内をいたします。
この列車は22時10分発の常磐線回り青森行き寝台特急「ゆうづる5号」です。
車は1号車から11号車までございます。
1号車はA寝台です。2号車から11号車まではB寝台でございます。
発車まで10分ほどございます。
○駅放送 20番線、「ゆうづる5号」青森行きまもなく発車時間でございます。
ご利用のお客様は車内に入りましてお待ちください。
(昔なつかしいベルの音)
お待たせいたしました。20番線から「ゆうづる5号」発車いたします。
ベルが止まりますとドアが閉まります。デッキにお立ちのお客様はご注意ください。
(ベルが鳴りやんで)
「ゆうづる5号」青森行き発車です。閉まるドアにご注意ください。
7列車、乗車完了です。
(ドアが閉まります)
戸閉めオーライ。
(前方で汽笛が鳴って列車はゆっくりと動き出します)
「ゆうづる5号」発車です。危険ですので列車から離れてお見送りをお願いいたします。
●いよいよ旅の始まりです。
○車内放送 皆さん、本日は「ゆうづる5号」をご利用いただきましてありがとうございます。
車の順序からご案内いたします。
いちばん前は11号車です。続いて10号車・9号車の順で、いちばん後ろは1号車です。
1号車はA寝台です。2号車から11号車まではB寝台です。
途中の停車駅と到着時刻をご案内いたします。
水戸到着は23時45分です。
水戸の次は一関です。一関到着はあすの朝5時17分です。
盛岡6時37分。
一戸7時32分。
三戸7時51分。
八戸8時8分。
三沢8時26分。
野辺地8時49分。
青森9時27分。終着の青森は9時27分の到着でございます。
次に、火災予防ならびに盗難防止につきましてお願いをいたします。
寝台でのおタバコはかたくお断りいたします。
A寝台の方は喫煙室をご利用願います。
B寝台の方は通路か洗面所のほうでお吸い願います。
盗難防止についてでございます。
お手回り品は必ず身近に置いて、盗難にあわないよう十分ご注意を願います。
特に貴重品ならびに現金は体から離さないようにご注意ください。
洗面の際、腕時計・指輪などはとかく忘れがちでございます。盗難のもとでございますので十分ご注意ください。
続いてのお願いでございます。
お弁当の食べから・紙くず・空き缶などは、ご面倒でもデッキに備えつけのくずもの入れにお捨て願います。
ご乗車さっそくではなはだ恐縮でございますが、乗車券を拝見させていただきます。
時間も遅うございますので、今晩の放送はこれで中断させていただきます。
あすの朝、改めてご案内申し上げます。
どうぞ、ごゆっくりお休みください。
○スケッチ (「ゆうづる5号」は寝台がセットされた状態で上野駅に入線してきます。
もう多くの人が横になっているようですが、中にはおしゃべりをしている人もいます)
「恐れ入ります。乗車券・寝台券を拝見させていただきます。
はい、ありがとうございます」
「三沢は何時着ですか」
「三沢には8時26分の到着です」
「10時間かかるのね。ちっちゃい子どもは寝台券はいらないと聞いたんですけど…」
「はい、6歳未満のお子さんでしたらお母さんといっしょに寝台を使っていただければ寝台券はいりませんよ。
ごゆっくりお休みください」
「子連れで三沢までかね。たいへんだねえ」
「はい、祖母がいるので。でも、横になって行けるので楽ですよ」
「恐れ入ります。乗車券を拝見させていただきます」
「急行だったらもっと安かったんだけどね。たまには寝台特急に乗ってみたくてね」
「そうですね。恐れ入ります。お休みなさいませ」
「あんた、1人で北海道に行くの。大丈夫かね」
「最近は女の子の一人旅がはやってますからね。大丈夫ですよ」
「そうかね。おれは盛岡で降りっから、気いつけてな。お休み」
「ありがとうございます。お休みなさい」
●列車は水戸に停車、そして闇の中を走り続けます。
ときどき踏切警報機の音だけが近づいては遠ざかっていきます。
●一関に停車し、そして盛岡を過ぎてしばらくすると朝の車内放送が始まります。
○車内放送 皆さん、おはようございます。ただいまの時刻は7時5分を回ったところでございます。
先ほどから寝台の取りかたづけを始めております。まだお休みの方、そろそろお時間でございます。
(「さっさと起きろよ」と言わないところが車掌さんのおくゆかしいところでしょうか。
当時は3段の寝台が主流で、朝7時ごろになると係員が寝台の収納に回ってきます。
乗客は収納作業が終わるまで通路に立って待っています)
これから先の停車駅と到着時刻を繰り返しご案内いたします。
次は一戸に停まります。一戸到着7時32分。
三戸7時51分。
八戸8時8分。
三沢8時26分。
野辺地8時49分。
青森9時27分。終着の青森は9時27分の到着でございます。
○車内放送(車内販売) 車内の皆様、おはようございます。こちらはお弁当・お茶の車内販売でございます。
毎度ありがとうございます。
お弁当には幕の内弁当・トンカツ弁当・うなぎ弁当・すきやき弁当・ハンバーグ弁当などがございます。
これより皆様方のお席までお伺いいたします。お伺いの際には、どうぞご利用くださいませ。
(「朝からトンカツやすきやきはないやろう」とよくつっこみを入れたものです)
●一戸、三戸を過ぎてまもなく八戸です。
○車内放送 皆さん、あと5分で八戸に到着いたします。お乗り換えの方、お支度ください。
お出口は左側で、わずか1分の停車でございます。
八戸線の鮫行きをご利用の方は2番線にお回りください。8時24分です。
鮫行きのあと、普代行きは1番線から10時26分の発車でございます。
八戸を出ますと、三沢・野辺地・青森の順に停車いたします。
●もうすぐ三沢です。
○スケッチ 「じゃあ、私らは次で降りますから」
「次は三沢ね。気をつけてね。お嬢ちゃんも元気でね。おばあちゃんによろしくね」
「ありがとうございます。いろいろとお世話さまでした」
「あんた、東京の大学生っていってたね。どこの大学なの」
「東京女子大です」
「へえ、頭いいんだねえ」
「そんなことないですよ」
「北海道に行くっていってたけど、どのへんを回るつもりなの」
「とりあえず日本の果ての納沙布岬に行ってみたいなあと思ってます。
あそこに行くと『返せ、北方領土』っていう気分になるもんなんですかね」
「どうだかねえ。まあ、気をつけてな」
「はい、ありがとうございます」
○車内放送 皆さん、あと5分で三沢です。お乗り換えの方、お支度ください。
降り口は左側で、30秒だけ停車いたします。
三沢から十和田観光電鉄の十和田市行きは8時51分の発車でございます。
●野辺地を過ぎると、気の早い人は降りる支度にかかり始めます。
○車内放送 皆さん、長い間たいへんお疲れさまでございました。
あと10分で青森に到着いたします。どなた様もそろそろお支度ください。
到着ホームは3番線、降り口は左側でございます。
青森からの乗り継ぎ列車のご案内をいたします。
奥羽線の弘前・大館・秋田方面、山形行きをご利用の方は5番線にお回りください。10時16分です。
山形行きのあと、米沢行き急行「千秋2号」は3番線から10時47分です。
津軽線の三厩行きは6番線から10時39分です。
国立公園十和田湖方面行きのバスは駅前から9時45分の発車でございます。
北海道方面へおいでの方は到着ホームの前の方向へ、この列車の11号車の方向へお進み願います。
接続の連絡船は9時50分出帆の八甲田丸です。函館到着は13時40分です。
函館からは札幌行き特急「北斗2号」ならびに札幌行き急行「ニセコ2号」に接続いたします。
室蘭本線・千歳線回りの札幌行き特急「北斗2号」は14時25分です。
特急「北斗2号」のあと、函館本線回りの札幌行き急行「ニセコ2号」は14時30分の発車でございます。
あと8分ほどで青森でございます。
●ほんとうに、ようやく青森です。
○車内放送 皆さん、長い間たいへんお疲れさまでございました。
あと3分ほどで青森に到着いたします。
到着ホームは3番線、降り口は左側でございます。
お乗り換えの際は、どなた様もお忘れ物のないようにご注意を願います。
本日は「ゆうづる5号」をご利用いただきまして、ありがとうございました。
●やっと着いた。
○駅放送 あおもーり、あおもーり、あおもーり。
お疲れさまでした。終点青森です。
どなた様もお忘れ物・落とし物のないようご注意ください。
北海道方面へおいでの方、到着列車の前の方向へおいでください。
函館行き連絡船は9時50分、八甲田丸です。
出口は到着列車のあとの方向です。
10時16分発車、山形行き普通列車にお乗り換えの方、5番乗り場でお待ちください。
10時39分発車、津軽線三厩行きにお乗り換えの方、橋を渡って6番乗り場でお待ちください。
国立公園十和田湖方面へおいでの方、駅出口の左側、国鉄バス乗り場までおいでください。
お疲れさまでした。
●上野から青森まで11時間17分、お疲れさまでした。
連絡船などでさらに先へ行かれる皆さん、よいご旅行を…。
編集後記
闇の中を進む寝台列車、
とても鮮やかに、というより克明に記憶された光景がそこにはありました。
車内アナウンスや、寝台列車の中で一夜を共にする人々の対話がなんともあったかくて、
全然スマートじゃないところが昭和の雰囲気満載ですね。
今は無きものへの愛しさが、細かな描写に込められています。
通読後、私は思わずもう一度読み返してみたくなりました。
もしかしたら、私も闇の中を北へ進めるかも・・・。
-- このメールの内容は以上です。
発行:   京都府視覚障害者協会
発行日:  2015年6月19日
☆どうもありがとうございました。


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