メルマガ色鉛筆第43号(「アイフォーン神アプリの一日物語」)

タイトル アイフォーン神アプリの一日物語
メルマガ色鉛筆編集チーム
 アイフォーンの特集、その4回目になります今回は小説仕立てでお送りします。
 よくできていて便利なアプリの中でも特別にすぐれもののことを「神アプリ」といったりしますが、
そう呼べるアプリを2つ、「ブラインドスクエア(Blind Square)」と「iよむべえ」を紹介します。
登場人物は架空の人物で、細部の色づけはたっぷりめですが、出来事としては一日をありのままに描きました。
その点では、リアルな視覚障害者の一日のレポートになっています。
 どうぞお楽しみください。
パート1 バス停
 4月X日、京都市内の某バス停に1人の男がいた。
彼の名は紅木進(あかぎすすむ)。
右手には白い杖を持っているのと、実は好奇心が人一倍旺盛なのが持ち味の“元青年”だ。
 と、そこにもう1人、白い杖を持った人物が歩いてくる。
片手には白い杖、もう片方の手にはアイフォーンがにぎられている。
 あかぎは、カンカンという白い杖の音を聞きつけて声をかける。
2人は知り合いのようだ。
あかぎ 「アイにぃ、こんにちは。ここにいます」
アイにぃ 「やあ、こんにちは。どもども。よろしくねー、今日も」
 現れたのは今回もこの人、アイフォーンのある生活にどっぷりという全盲のおにいさん(年齢不詳)だ。
アイにぃ 「ではではさっそく、この近くの喫茶店にレッツゴーしましょう。
あかぎちゃん、これこれ、ブラインドスクエアのお気に入りに登録してるのをとんとんするから、音声読み上げを聞いてね」
アイフォーン 「タリーズコーヒー、11時の方向、35メートル」
あかぎ 「おお、これでわかるのか。アイフォーン、やるわ、こいつ」
アイにぃ 「じゃあそっちのほうに歩いていきますよー。あかぎちゃん、いいかい」
アイフォーン 「ファミリーマート、3時の方向」
アイにぃ 「近くにある建物をおしえてくれます。そして、そして、到着のチャイムがもうすぐ鳴りますからねー」
アイフォーン 「目的地を通りすぎました」
アイにぃ 「あれ? 通りすぎちゃった。あかぎちゃん、引き返しますよー。ここかな」
アイフォーン 「タリーズコーヒー」
アイにぃ 「ここのはず。入り口はどこだーどこだー。ここか。あ、こっちはファミマだった。あ、こっちだったかー」
あかぎ 「入り口はともかく、近づいた、到着した、通りすぎた、がわかるのがよいわ、こいつ」
アイにぃ 「さっきみたいにちょっとずれることもありますけどねー、いいでしょう?
うれしいなー、アイフォーンのよさをわかってくれた。友よ」
あかぎ 「ちょ、ちょっと待って、わかったから抱きつかないでくれ」
パート2 喫茶店
 アイにぃは、入り口からずんずんと店内を進んでいく。
あかぎもあわててついていく。
レジのカウンターのところまで行くと、白い杖の2人を見て、店員が案内に来てくれた。
そして、案内されて歩いていたアイにぃが途中でぴたりと止まる。
アイにぃ 「入り口の近くよりも、奥でいいので落ち着く席におねがいしまーす」
店員 「はーい」
 案内している店員がくるりと向きを変える。
席について2人ともコーヒーを注文する。
あかぎ 「このブラインドスクエアというアプリはすぐれものだわ、こいつ」
アイにぃ 「うんうん、そうでしょう。
目的の建物を行きすぎたとき、おしえてくれるのがいいんですよー。
わかりにくい四つ角とかですねー、通りすぎてしまいますよねー。
そういう見つけにくい場所をマークしておくんですよー。
すると、通るたびにちゃんとおしえてくれますよー」
あかぎ 「へえ、ふーん、ほー」
アイにぃ 「そんないちいちマークするのはまめな人しかしない、と言われたことあるけど、そうかなー」
あかぎ 「このアプリの特徴やくせがわかるまで使いこむのがアイにぃのえらいところだわ」
アイにぃ 「そうですねー。慣れです、慣れ。それは必要」
あかぎ 「今日、もう1つ見せてくれるアプリ、あれ、iよむべえのほうもそんな慣れが必要なのか?」
アイにぃ 「iよむべえはかんたんかんたん。さっそくやってみましょう」
 アイにぃはあかぎにアイフォーンを手渡す。
あかぎ 「おお、6+(プラス)、最新のアイフォーン」
アイにぃ 「今、ホーム画面が出てます。iよむべえを見つけてとんとんしてみてくださいよー」
あかぎ 「右、右、右、ありました、ダブルタップ」
アイにぃ 「次にカメラのところでとんとん」
あかぎ 「はい、とんとんとダブルタップ」
アイにぃ 「あとはかざすだけですよー。読みたいものから20センチくらいかなー」
あかぎ 「ではこの紙を。……、あれー、反応しませんな」
アイにぃ 「なんででしょうねー。ちょっと失礼 …。わー!」
あかぎ 「お、何でしたか?」
アイにぃ 「ははは、こりゃ読みませんねー。カメラにシールがはりついている」
あかぎ 「シール?」
アイにぃ 「ここに来る前、仕事中だったんですけどねー、後で捨てようと思ってたシールをポケットに入れたままだったんですよー。
それがポケットの中でいつの間にかカメラにはりついてる」
あかぎ 「なんと。アイフォーンも困っただろうな。目かくしされちゃって読め、読め、とやられて」
アイにぃ 「これで大丈夫なはずですよー。ごめんね、アイフォーン。ごめんねごめんね、許してね」
あかぎ 「… こほん。よいか?」
アイにぃ 「は、あ、どうぞどうぞ」
あかぎ 「では、もう1回、お借りします。20センチくらいで、と」
アイフォーン (ブルッと振動して)「電子レンジ、冷蔵庫、DVD …」
あかぎ 「おお、読んだ。なんだろう、広告なのかな」
アイにぃ 「いいでしょう? 少しでも何が書いてあるかわかるのはちがいますよねー。
この前はですねー、定期券の期限が4月19日と、これで読ませて確かめられたんですよー」
あかぎ 「もう1つ、やってみるわ。これは郵便で届いたはがき」
アイフォーン (ブルッと振動して)「(いろいろ読みましたが省略) … 京都銀行 … (後略)」
アイにぃ あかぎ 「京都銀行からだー」
 2人の声がうれしそうにハモっている。
あかぎ 「さて、これから晩ごはんを食べに行くお店なんだけどな、電話番号を調べてくるのをわすれたんだわ」
アイにぃ 「じゃー、調べましょうか。あかぎちゃん、いつもノートパソコン、持ってますよねー。
それをアイフォーンでネット接続してあげましょう」
あかぎ 「おお、そんなこともできるってか、こいつ?
えーと、えーと、それなんていうんだったか。思い出した、テザリング」
アイにぃ 「ピンポーン、正解。ちなみに私の得意技はダベリング」
あかぎ 「好物はいかリング」
 あかぎはノートパソコンを出して開いて、その間にアイにぃはアイフォーンの設定をする。
アイにぃ 「あかぎちゃんのパソコンに、私のアイフォーンが出しているワイファイが出るんですけど、あー、それそれ。
それでですねー、パスワードは小声でごにょごにょ」
あかぎ 「おお、接続。パソコンから見ると、ふつうの無線ランと同じでいいのか。
じゃあ、調べにかかるぞ」
アイにぃ 「がんばってねー」
 数分後、努力の甲斐あって無事に店の電話番号は見つかった。
あかぎは、自分のガラケイを取り出してお店に予約の電話を入れる。
2人のまわりには、アイフォーン、パソコン、ガラケイと機器が取り巻いている。
あかぎ 「僕はガラケイ、らくらくホンで、これはこれで便利だからな、こいつ」
アイにぃ 「それぞれに使いやすい点がありますねー。私はアイフォーン」
あかぎ 「では準備完了、次の場所に行くで、アイにぃ」
パート3 バス移動
 喫茶店を出た2人は、バスに乗って次の場所に向かう。
バスの運転手 「右の席が空いてる。左じゃなくて右、右」
 アイにぃとあかぎは、座席を見つけて座った。
あかぎ 「おしえてくれると助かる。ありがたい」
アイにぃ 「いつもこうだとよいのにねー。さあ、ではあかぎちゃん、もう1回、ブラインドスクエア、行ってみよう。はい」
あかぎ 「おお、小さなイヤホンマイクのワイヤレス」
アイにぃ 「落とさないように、まずペンダントみたいに首にかけてくださいねー」
あかぎ 「これ左耳、それとも右耳?」
アイにぃ 「どっちもできるけど、今は右耳にしてまーす。セットしたらスイッチオンしてくださいねー。
電源スイッチわかりますか?」
あかぎ 「わかった。電源オン。お、声がしてるわ」
アイフォーン 「セブンイレブンZZ店。YY小学校 …」
アイにぃ 「バスの中でも地図にあるお店などの情報をおしえてくれるでしょう?」
あかぎ 「おしえてくれてる。ガイドさんみたい。
うーん、文字を読んでくれて、街の情報をおしえてくれるとは、ガイドさんみたいだわ、こいつ」
アイにぃ 「ほんまですねー」
あかぎ 「こういうのを神アプリというんだろうな」
パート4 地下街
 2人はバスを降りて、さらに地下鉄に乗って、地下にショッピングモールのある駅に到着した。
改札を出るとそこが地下街だ。
アイにぃ 「地下ではねー、アイフォーンで画面を見ないで使えるアプリはまだ知らないんですよー」
あかぎ 「こっちに方法はある。問題はうまくいくかどうかだ」
アイにぃ 「どんな?」
あかぎ 「さっき店の電話番号といっしょにな、この地下街の事務所の電話番号も調べておいた。
そこに電話して相談してみる」
アイにぃ 「なるほどねー。でも、うまくいくかなー」
あかぎ 「正直、わからん」
 アイにぃとあかぎのいる改札口を出たところに白い杖を持った女性がやってきて合流する。
さらにもう1人の女性も。
アイにぃ 「揃いましたー。よかったー。じゃあ、あかぎちゃん」
あかぎ 「電話、いくで。うりゃ」
 あかぎは、ボタンを押す指に気合いをこめて電話をする。
あかぎ 「この地下のお店でXXに行くところなんですけど、今は地下鉄の改札を出たところにいます。
実は4人とも目が不自由で、もし可能ならお店まで案内してもらえると助かるのですが。
1人、来てもらえたらそれで大丈夫です。はい、はい、ありがとうございます。おねがいしまーす」
アイにぃ 「おー、うまくいったー。ばんざーい」
 しばらく待つと案内の人が来て、その人を先頭に4人がつながって歩いていく。
あかぎ 「迷わずにすんだわ。ひと安心で力がぬけた」
アイにぃ 「セーフでしたねー」
パート5 外食店
 お店はカジュアルなお寿司屋さんで、回転はしてないけれども、お茶は回転寿司と同じでテーブルごとにセルフになっていた。
店員 「あー、お茶と醤油の皿を用意しますね」
アイにぃ 「店員さんがやってくれて、これもセーフ」
店員 「注文はおまかせセットでよかったですかね」
あかぎ 「ちょっと待った」
 さあ、何を注文するか。
アイにぃもあかぎも女性2人も、お店のメニューを読むことができない。
アイにぃ 「そうだなー、iよむべえも、うーん、ここは出番じゃないですねー」
 4人は、口々に店員さんに質問をあびせる。
そして、どうにかこうにか店員さんからメニューの情報を聞き出して、それなりに自分好みの注文をしたのだった。
全員 「かんぱーい。いただきまーす」
 食べながら話に花が咲く。
アイにぃ 「アイフォーンやアイパッドはタッチパネルですけど、読み上げを聞いて操作できますよねー。
左、右、とんとんと。
でも、いろんな電気製品でタッチパネルが増えて、アイフォーンのようにはいかないから困りますねー」
 女性陣から、モバイルルーターという機器がそうだったとの声。
画面の中にあるボタンを1つうまく押せれば使えるのに、それがすごくたいへん。
アイにぃ 「それさえ押せばいいのなら、画面に点字シールをはりたいですねー。
あー、シールをはるとタッチできるかなー」
 4人は、うーんと考え込む。
アイにぃ 「いっそ画面にわざと傷をつけますかー。
あ、液晶の保護シールのぴったりの位置に点字を打って、それをはるといいかも。
試してみないとわかりませんがねー」
 女性陣からは、さらに最近の多機能スチームオーブンレンジの話が出る。
1台でいろんな料理が作れるけれど、これもタッチパネルだったり、画面表示を見ながらダイヤルで料理を選んだりしなければならない。
アイにぃ 「iよむべえが使えるかもしれませんねー、それは。
私は、リモコンの液晶画面をiよむべえで読ませたことありますよー。
よーし、今度、電気屋さんに行って試してこよう。
えーと、え、オーブンレンジ? あ、スチームオーブンレンジね。シャープとかパナソニックとかね。はいはい」
あかぎ 「アイにぃ、またやってみてどうだったか、おしえてもらってよいか」
アイにぃ 「まーかーせーなーさ … あ、古いギャグは …。
それよりあかぎちゃんもアイフォーン、気に入ったでしょう?」
あかぎ 「うん、気に入ったわ、こいつ。
でもな、今年に出るというウィンドウズテン(WINDOWS 10)のスマホも気になるんだわ」
アイにぃ 「パソコンでもスマホでも中のOSはウィンドウズテンで同じ、というやつですねー」
あかぎ 「今、パソコンで便利に使えてるソフトがそのままスマホで動くのだろうか。気になる」
アイにぃ 「アイフォーンのライバルになりますかねー。
受けて立ちますよー。
いけー、いけー、アイフォーン」
-- このメールの内容は以上です。
発行:   京都府視覚障害者協会
発行日:  2015年5月29日
☆どうもありがとうございました。


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