メルマガ色鉛筆第275号「十色の研究その7 夢色の花火」

タイトル 「十色の研究その7 夢色の花火」
ペンネーム カラフル幕府(40代 男性 光覚)
レポートの要旨です。
 神様から配られた色々なトランプのカード。
視覚障害もそのうちの一枚である。
このカードのせいで苦労することもある一方、
このカードのおかげでこうしてメルマガ色鉛筆と巡り会えたりもしているから、
本当に人生というものはわからない。
 とは言っても、いつも気分が晴れやかなわけではない。
心にどんより雲がかかる日もあれば、激しい雷雨の夜だってある。
今回は視覚障害のカードとペアになりやすい、ネガティブな感情について書いて
みたい。
これはそんな雑記まがいの自己研究レポートである。
ここから本文です。
 少し心をタイムスリップさせてみようか。
あれはまだ若かりし頃、夏休みももうすぐ終わる8月下旬の記憶。
 あいつと一緒に花火大会へ行くんだと、はにかみながら報告してきた君に対し
て、僕は下手な相槌を打つことしかできなかった。
だって夜盲症の僕の目は暗い場所では役に立たないから。
花火もよく見えないし、君の手を引いて夜道を歩くこともできないから。
まあそもそも君と二人で出掛けるような関係でもないので、
目の病気があってもなくてもおんなじことではあるんだけど。
 そんな花火大会の当日は、ずっと晴天続きだったのに珍しく曇り空の朝だった

僕は一人で部屋に寝転がって窓の外を見てる。
そして心はこんなことを思う。
 雨よ降れ、雨よ降れ、雨よ降ってしまえ。
花火大会なんて中止になれ。
どうせ…。
 お昼になった頃、トントンと小さなノックが聞こえ始めた。
雨だ。
雨粒が窓ガラスを叩いてる。
最初は一つ二つの音だったのに、すぐに土砂降りになって雷も鳴って、
それ以外は何にも聞こえなくなった。
こんなにザアザア降ってちゃ花火を打ち上げるなんて無理だろう。
ざまあ見ろ、これでせいせいした。
 でも…この雨を見つめながら、君は今どんな顔をしてるのかな。
もしかして浴衣とか髪形とか、色々準備してたのかな。
そして心はこんなことを思う。
 雨よ上がれ、雨よ上がれ、雨よ上がってくれ。
夏の終わりの最後の思い出を奪わないで。
どうか…。
 少し眠ってたのか。
気付けば外は静かになってた。
うっすら目を開くとほんのり西日が射し込んでる。
急いで起き上がって窓を開けた。
もう雨は降ってない。
道路の水溜まりには夕焼けが映ってる。
これなら…やれるんじゃないか? そうだよ、まだ間に合う、きっと、きっと大
丈夫だ! そして心はこんなことを思う。
 花火よ上がれ、花火よ上がれ、花火よ高く上がれ。
夏の夜空にドーンとでっかい大輪の花を咲かせてくれ。
 僕もここで見てる。
いや見えないけど、せめて音だけでも聞いて、
心の中に夢色の花火を打ち上げてみせるから。
 やがて日が暮れた。
遠くの空から心地良い音が聞こえた気がする。
よかった…と何故だか僕はほっとしてる。
勝手にいじけて、勝手に焦って、おまけに勝手に喜んで…いったい何をやってん
だか。
そして心は最後にこんなことを思う。
 空よありがとう、空よごめんよ、わがままばかり言ってしまって。
 さあ、今夜は夏の終わりの花火大会だ。
雨上りの澄み切った空にいくつもの光が放たれて、
それを見上げる人たちにいくつもの笑顔が咲く。
その中にはきっと君の笑顔もある。
優しい幸せのひと時を、どうぞ…みんなに。
 そろそろタイムスリップした心を現在へ戻そうか。
 花火大会だけじゃない。
視覚障害があるとどうしても行けない場所がある。
参加できないイベントがある。
みんなの輪の外でぽつんと佇むような場面がある。
そんな時、誰かのことをうらやんだり、妬んだり、恨んで不幸を願ったり…そん
なネガティブな感情に心が覆われてしまうことがある。
嫌な自分になってしまうことがある。
 それでもやっぱり…最後の最後は、人の幸せを願える心でありたい。
夜空の花火は見えなくなっても、心の中の夢花火にはいつまでも着火できるよう
に。
そんなことを思った遠い夏の日の思い出でした。
 メルマガ色鉛筆読者の皆様、この夏、素敵な思い出はできましたでしょうか。
今回のお話、どこまでノンフィクションかはご想像にお任せ致します。
 ヒュルルルル…ドーン、ドドン、ドーン! パチパチパチ。
 たーまやー、かーぎやー!
編集後記
 人にはそれぞれ得意分野と苦手分野があります。
見えない・見えにくいことで生じる苦手分野も少なくありません。
そして、くやしいときだってあります。
 今回の十色の研究、そんなくやしい色合いをいったんぶちまけて、それから勝
負が始まった。
カラフル幕府さんには得意分野もたくさんあります。
私たちにも、心に夢花火を見せてくれます。
 たーまやー、かーぎやー!
 -- このメールの内容は以上です。
発行:   京都府視覚障害者協会
発行日:  2022年8月26日
☆どうもありがとうございました。


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