活動紹介
メルマガ色鉛筆第375号「もちろん一心同体」
タイトル もちろん一心同体
ペンネーム わんぱくレインボー(女性 全盲)
「幸せの分だけ悲しみを感じる」ということを何度も経験してきた。
盲導犬ユーザーの私は、これまで五頭の可愛い女の子のパートナーたちと
生活を共にしている。盲導犬のことをほとんど知らないままユーザーになった私は、
盲導犬というものは失敗しない完璧な犬で、盲導犬さえ一緒にいてくれたら
何もかもがうまくいくものだと勝手に思い込んでいた。
盲導犬協会での共同訓練を終了して、ルンルン気分で家に帰ってみると、
失敗しない完璧なはずの犬なのに、思うようにいかないことばかりで
ちっとも楽しくなかった。
出かければ毎回失敗の連続で、
「テレビに出てくるような完璧な盲導犬がほしかったのに」と、
目の前でニコニコ笑っている一頭目のパートナーを抱きしめて、
毎日泣いていたことを今では懐かしく思い出す。
あの頃、盲導犬ユーザーの友達がいたら、そんな失敗は自慢して笑い飛ばして、
楽しく充実した毎日を送っていたのかもしれない。
せっかく自由に歩くための盲導犬が目の前にいるのに、気持ちもどんどん暗くなって、
外出することが怖くなって、ずっと家に閉じこもっていた。
当時の私は、「盲導犬とは、完璧で失敗しない犬」という看板を勝手に背負って、
周りの目ばかりを気にして、ピリピリしていて孤独だった。
そんな落ち込んでいる私を救ってくれたのは、
「盲導犬なのに、この子は犬っぽくて可愛いね」
と言ってくれた昔からの友人の一言だった。
「そうだ、この子は犬だもん、失敗だってするよね」と、
当たり前のことに初めて気がついた私は、窮屈な何かから解き放たれたような気分で、
どんどん外へ出かけるようになった。
外出先では驚くような失敗もたくさん経験したけれど、
「失敗は宝物、次回同じ失敗をしないための大切な経験だよ」と、
訓練中に教えていただいた言葉を思い出して、今では楽しく毎日を送っている。
弱視だった私が少しずつ全盲の世界へと向かっていった頃も、
いつも私の傍らにいて、黙って不安な心を支えてくれた大切なパートナーだ。
この子たちとは国内旅行はもちろん、フロリダのディズニーワールドにも遊びに行った。
寮生活も一人暮らしも通勤も、いつも可愛いパートナーが
不安な背中をそっと押してくれたから、勇気を出して一歩踏み出すことができた。
全盲になった今でも、可愛らしいパートナーは私に寄り添っていてくれて、
「目が見えない」ということを忘れさせてくれるほどスピーディーに歩けたり、
何か新しいことを始めようとする時、いつも暖かい笑顔で応援してくれている。
「一心同体」というのは、私たちのためだけの言葉ではないかと思うほど、
切っても切れない絆で結ばれているように感じている。
そんな大切なパートナーは、10歳を迎えると盲導犬を引退することになっている。
引退するということは、今まで一心同体だった可愛いパートナーとのお別れだ。
引退することが決まって、次の盲導犬を申し込むかどうするか、
私自身で答えを出さなければいけない時がきた。
「こんなに大切な子を手放すなんて、これ以上つらいことは考えられない」とか、
「もう二度とお別れは経験したくない」などと、
何度も泣きながらいつまでも答えを出せずメソメソしていた。
そんな時、「別れがつらいからって、盲導犬歩行をやめてしまったら、
今までこの子がしてきたことはどうなるの? 次の犬で継続することが、
この子への感謝になるんじゃないかな?」と、
リタイア犬ボランティアの方が話をしてくださった。私は本当にその通りだと思った。
大切な大切なパートナーとの別れに、「慣れる」ということは絶対にないが、
これまでの活躍に感謝を込めて、
リタイア犬ボランティアさん宅へ送り出すことにしている。
もちろん、私は新たなパートナーと共に歩き始める。
ーー
以下、 わんぱくレインボーさんのお仲間さんから感想コメントをいただきました。
★プルプルブルー
いつみても盲導犬ちゃんは静かでわんぱくレインボーさんの動きに
常に注意をはらっていることが伝わってきます。
その感情はとても豊かでTPOをちゃんと弁えていて、
わんぱくレインボーさんによく似ているなって感じます。
「一心同体」、確かにそんな感じです。
驚くのは、歩く速さ!
階段も普通の道を歩いているように、なめらかでスピーディーですね。
歴代のパートナーの娘たちとの日々があって、今を過ごしていけるということ。
どんな別れも辛く寂しいことに変わりはないでしょう。
悩みを抱えながら、
それでも友達やボランティアさんの言葉を素直に受け入れることのできる力があること、
聴く耳を持たれていることがすごいです。
私はそんなわんぱくレインボーさんを尊敬しています。
★さやさや秋色
温かさや痛み、生々しく生きている感じをとても強く受けました。
心の声が聞こえてきました。
苦しみ、迷い、悩みつつも、きっかけに気づくことのできる心。
『動けば変わる。動かなければ変わらない』
不安な背中をそっと押してくれる、温かな『一心同体』の存在。
とても心強いことでしょう。
別れの都度泣きながら、「幸せの分だけ悲しみを感じる」というのは、
本当の愛情がないとできないことだと思いました。
盲導犬ちゃんは笑顔。しっぽは今日も全開に揺れています。
★ホソボソbordeaux
悲しいと感じる言葉の最大公約数は、やはり別離ではないでしょうか。
身を切られるほどの別れは言葉にできない辛いものがあります。
愛情と絆が強ければ強いほど悲しみは深いものです。
わんぱくレインボーさんとパートナーが一心同体になるまでの苦労がよく分かりました。
もがき苦しんでいるとき、仲間からの一言で救われてきたことうれしいですね。
言葉の持つ力を感じ入りました。
「幸せの分だけ悲しみを感じる」魂の言葉として大切にしてください。
そして、次のパートナーとも仲良く楽しく過ごしてくださいね。
編集後記
社会の中で盲導犬についての正しい理解はまだまだ不十分なところがあります。
盲導犬と共に生きること、その人の姿に触れた時、
周りの人の心にひろがるものがあります。
今回は「もちろん一心同体」の文章から
わんぱくレインボーさんのお仲間さんの心にひろがったものを共有しました。
私は最後の1文の中にある「もちろん」の言葉に胸がつかまれました。
痛みさえも感じるほどの力強さが、そこにありました。
そして、お仲間さんの心にひろがったもの、それぞれにも皆さんの人生を感じました。
言葉の持つ力、文章の持つ力を信じて、
これからも色鉛筆での分かち合いを重ねていきます。
-- このメールの内容は以上です。
発行: 京都府視覚障害者協会
発行日: 2025年9月26日
☆どうもありがとうございました。