メルマガ色鉛筆第340号「みちのくひとり旅」
タイトル みちのくひとり旅
ペンネーム ツートーンコリー(50代 男性弱視)
レポートの要旨です。
1泊2日で東北の宮城をひとり旅したレポートです。
弱視のため様々な不自由に遭遇するだろうということはわかりますが、
実際にどんなことになるかはやってみてこそわかるものです。
そこをリアルに、正直に書きました。
道中は、観光は、旅館は、行く前に自らに課したミッションは、
どれもわくわくする大冒険。
さあ、私のみちのくひとり旅行記をコクと楽しんでください。
ここから本文です。
新幹線に乗るのは何年ぶりだろう。
そんなことを考えながら、京都駅7時54分発のぞみ号に乗車した。
天気は曇り。
車窓を覗いても景色を楽しむことはできるはずもないが、気分が高揚していた。
「今から始まる大冒険」なんてことを心の中でつぶやいていた。
ゴールデンウィークの中日を利用して、1泊2日で初日は日本三景の1つの松島
を訪れ、
翌日は仙台での視覚障害者仲間たちとのランチ会に参加する。
ひとり旅の不安はあるもののワクワク感は止まらなかった。
ひとりで東北地方に旅する、いわば、みちのくひとり旅だ。
話は新幹線に戻る。
トイレに行きたくなった。
アレ?小便器がない。
仕方なしに洋式トイレに行く。
何十回と乗った新幹線であったが用を済ませるのに洋式トイレは初めてかもしれ
ない。
案の定、鍵の位置が分からない。
仕方なしに扉をしっかりと手で押さえる。
ここまで書けば読者の皆様も悲劇が起こったことは容易に想像がつくだろう。
私を変態扱いしている車掌さんから注意を受ける。
すみませんねと謝りながら色鉛筆投稿のネタになると思い小さくガッツポーズ。
東海道から東北新幹線の乗り換えがひとりでできるのかが東京駅に近づいてく
ると
不安に感じたが、案外スムーズだった。
私が乗るはやぶさとこまちの連結車両を撮影するために点字ブロックを塞がれて
いたことには困った。
東北新幹線の乗車車両には小便器があったので変態扱いをされる心配はなかった
。
1日目の松島に行くには新幹線を仙台駅で降りて仙石線に乗り換えだ。
仙台駅はさすがに東北地方の中心だけに駅も広く感じる。
仙石線ホームに行こうと少しさまよっているとスーツケースのキャスターがきし
むような音が聞こえる。
イヤ違う、これは誘導音で鳥の鳴き声だ。
ピンポーンではないのだと思った。
あとで東北の仲間にきいたところによると、階段やエスカレーターの場所案内の
音のようだ。
松島では、自分に課した5つのミッションがあった。
名物あなご丼を食べること、遊覧船に乗って松島観光をすること、
旅館に辿り着くこと、お風呂に入ること、夕食を取ること。
晴眼者にとっては何の問題もないことだが、私にとっての大冒険だ。
ワクワク。
松島海岸駅の駅員さんはお手伝いすることはないかと声を掛けてくれた。
駅前の定食屋さんでは店員さんにサポートいただき楽しみのあなご丼を食した。
さっぱりしていておいしかった。
遊覧船は予測していた通り松島の島々の説明アナウンスを聞いても分からない。
島は黒く見えて、曇り空なので海と空はグレーでその境界も分からない。
でも乗船することに意義があった。
出発前には妻が「海には落ちないでね」と笑っていたが大丈夫だった。
下船した後は公園のベンチでボケッとしていた。
天候は晴れてきてここで野宿しても良いと思うほど海風が気持ちいい。
が、ミッションの風呂と夕食にはありつけないので、旅館を目指すことにする。
私の行動を見てくれていたかのように、声を掛けてくれた方が旅館の玄関先まで
連れて行ってくれた。
松島の隣街に住まれている方とのことだった。
この街の優しさに感謝。
旅館のフロントではあらかじめ予感はしていたが、スタッフが凍り付いたような
まなざしを感じる。
白杖を突いた者が宿泊する連絡をしていないからだ。
部屋に着いて疲れていたので少しだけ横になった。
ハッと気づいた。
暗くなる前にお風呂に入らないといけない。
恐る恐るお風呂場に行ってみると誰もいない。
翌朝の新聞に松島海岸の旅館で視覚障害者が
風呂場で死亡というニュースになるわけには行かないので慎重に湯船に浸かる。
旅の疲れを癒す温泉とはこういうことなのだろうと思う。
黄昏時の温泉に貸し切り状態なのだから至福であることは言うまでもない。
次のミッションは食事だ。
メニューにある牛タンを自分では焼けないだろうなと思っていたら
旅館のスタッフがサポートしてくれた。
お酒もいただきほろ酔いで部屋に戻って部屋の電気がどこにあるのかよく分から
なかったが、
そのまま暗い部屋で一夜を過ごした。
2日目は、朝食時にそそうをしてしまう。
メニューに鯛茶漬けが出されて自分でお茶碗にご飯を盛りダシを注ごうとしたと
ころ、
幼少期以来の股の部分に温もりを感じる。
ダシによるおねしょだ。
時すでに遅し。
東北の仲間4人とは仙台駅で待ち合わせしていた。
少し早く駅に着いたので駅散策を試みたが、
せいぜいできたのは点字ブロックを伝って駅の東口から西口を3往復。
肥満体形の私にとって万歩計のカウントを稼ぐには十分だ。
やがて約束の時刻になり待ち合わせ場所で落ち合う。
ランチ会は時間を忘れるほど早く過ぎていく。
仙台観光ができなかったので「また来るわ」と言い残し、
仙台駅16時30分発の新幹線に乗って帰宅の途に就いた。
「また来るわ」
これが何を意味するのか。
メルマガ色鉛筆チームのあのお方が数か月後に仙台に行くという情報を私は得て
いる。
次はカバン持ちとして杜の都仙台に行こうと計画している。
ニヤリ。
編集後記
中身のつまったひとり旅だなぁと思います。
現実はときにきびしく、ぴしっとさっそうと済ませたいという願いとは正反対に
、
ええ~と困ったことにもなります。
それをくり返し七転び八起きした先に、
何事もぴしっとさっそうとやってのけるツートーンコリーさんの姿が浮かびます
。
見えない風景の前で風にふかれた気持ちよさ、ハプニングの後のあなご丼のお
いしさ、
大丈夫なわけないだろうと覚悟しながら入る温泉ののどかさ、
遠くの仲間との貴重な交流の楽しさなどを、ツートーンコリーさん、
特別によいと感じてられたのではないでしょうか。
冒険は何かを特別なものにする魔法です。
その魔法、見えない・見えにくいと、どうやらじょうずに使えるのです。
-- このメールの内容は以上です。
発行: 京都府視覚障害者協会
発行日: 2024年6月21日
☆どうもありがとうございました。