活動紹介
メルマガ色鉛筆第333号「タイムマシンでGO!江戸時代の小笠原諸島への旅」
タイトル タイムマシンでGO!江戸時代の小笠原諸島への旅
ペンネーム 自然(30代 男性 弱視)
レポートの要旨です。
もし、今自由に時間を超えて旅ができるならどこに行こうか、
そんな楽しい心の旅を描いてみました。
バードウォッチングが好きな僕は、今はもう見ることのできない鳥たちのいる島
を選びました。
この文章を書くためにたくさんの絶滅種のことも調べました。
調べた時間も楽しかったです。
ちなみに僕のペンネームは「じねん」と読んでくださいね。
アースカラーをイメージしています。
ここから本文です。
固有種や希少種の鳥たちを完全な状態で見るのなら、
小笠原諸島と名付けられるよりも前の江戸時代以前に行く必要がある。
船で行くしかない。
無人島なのでキャンプのための道具、滞在日数分よりも多めの食糧と水、
雨具も必須だ。
鳥が繁殖期に入っている春から夏が良いが、台風による悪天候や、
繁殖行動の妨害をしないように注意が必要だ。
また、本土への上陸も現実的ではない。
服装や体格の異なる現代人が、
突然江戸時代に来た場合、鬼や妖怪だと思われて恐れられたり、
外国からのスパイや侵略者の疑いをかけられて囚われの身になってしまったり、
処刑されてしまったりする危険がある。
ついにこの日がやってきた。僕は大量の荷物を準備しながら、
これから向かう場所にワクワクが止まらない。
双眼鏡、カメラ、フィールドノート、筆記用具はもちろんのこと、水筒や懐中電
灯、
それらを入れるリュックサック、そしてレインコートと折り畳み傘、
ウェットティッシュのようになった肌に塗るタイプの虫よけも忘れずに入れた。
このほか、テント、クーラーボックス、調理器具や食器類、バーナー、食料、
飲用水のボトルなどは直前ではなく1週間ほど前から少しずつ準備していた。
さて、今回の行き先は小笠原諸島、
しかも絶滅種が生存していた江戸時代以前だ。
現代人が安全に江戸時代に訪問する方法として、人間に遭遇しない方法を検討し
た。
関東の沿岸の洋上へと出て、上陸せずに沖へ向かって進み、
八丈島で一時的に休憩をした後、聟島へ最初に向かうこととなった。
僕はうっかり寝坊して遅れるといけないため、前日から研究施設の1室に宿泊し
た。
小笠原諸島には研究者、バードウォッチャー、
そして旅を手助けするガイドや料理人なども同行する。
いざ出航、まずは八丈島へ。
僕は既に窓から、トビ、アオサギ、カワウ、ウミネコ、ハシボソガラス、
ハシブトガラス、ドバト、スズメ、イソヒヨドリ、ハクセキレイを確認した。
しばらく洋上を進んだのち、八丈島に接近した。
しかし、ここでは上陸せずに一時停船する。
そして船長からのアナウンスが流れた。
全員シートベルトを着用していることを確認。
不思議な機械音とともに意識が遠のきそうになった。
ふと気づくと何も変化がないようだ。
どうやら時代を遡ったらしい。
今は現代ではなく江戸時代、300年も昔である。
この船には最新のタイムマシンが内蔵されているのである。
ここで昼食を兼ねた休憩時間のようである。
同行していた料理人やその助手の姿が見えないと思っていたら、
厨房から料理が運ばれてきた。
なんとデザートもある。マンゴーのゼリーだ。
ほどなく、船は再び動き出した。
到着のアナウンスとともに、船外の様子を見ることができるようになった。
早速巨大な白っぽい鳥が横切っていくのが見えた。
すぐに双眼鏡で確認するとアホウドリだった。
慌ててカメラを用意して無事撮影。
すると少し沖の方に黒っぽい鳥の群れが。
クロウミツバメとオーストンウミツバメの混群である。
それとは別方向に白い鳥が。それはベニアジサシとエリグロアジサシの混群で、
次々と海面にダイブして小魚を捕食していた。
しばらくすると少し大きな褐色と白の鳥が群れで来た。
カツオドリとアカアシカツオドリである。
矢のような勢いで海面に突き刺さるように急降下、魚を次々と捕えてゆく。
そこに突然、巨大な黒いツバメのような鳥が現れた。オオグンカンドリである。
カツオドリを執拗に追跡して魚を強奪する。
空中でカツオドリをジャイアントスイングのように振り回し、
すでに飲み込んだ個体を吐き出させてまで奪っていく。
ただし、グンカンドリは潜水したり長時間泳いだりできないため、
あまりにしつこいと水上に叩き落されたり、水中へ引きずり込まれそうになる。
さまざまな鳥を観察しているうちに船は聟島に接岸、いよいよ上陸である。
海岸ではイソヒヨドリの雄が出迎えてくれた。スズメの生息しないこの島では
この鳥がおそらく最も身近な鳥であろう。
樹木の茂みが揺れた。オガサワラヒヨドリ、オガサワラヒワ、
そしてハシナガウグイスも見ることができた。
別の茂みにも緑色を帯びた鳥がいた。よく見るとメグロであった。
現代では絶滅してしまっているムコジマメグロである。
全く警戒心のない茶色いゴイサギのような鳥が歩いて近寄ってくる。
よく見ると現代では国内で絶滅したハシブトゴイであった。
次に森へ移動した。
ガサガサと音がするほうを見ると、アカガシラカラスバトが歩いている。
首に白い模様のある個体を発見。現代では絶滅種のオガサワラカラスバトであっ
た。
日が暮れ始めたので船に戻った。夕食後のデザートはカスタードプリンであっ
た。
部屋に戻って写真とフィールドノートを確認し、翌日の予定を立てる。
朝4時、アラームの音で飛び起きる。今日は2日目で早朝の森へと行くのであ
る。
就寝前に準備しておいた双眼鏡、カメラ、レコーダー、フィールドノート、
タオルに水筒を加え、さっそく森林へと向かう。
オガサワラヒワ、ムコジマメグロ、オガサワラヒヨドリの親子を確認。
ハシナガウグイスも親子でいた。
さらに、巣材と思われる小枝をくわえて飛ぶアカガシラカラスバト、
オガサワラカラスバトも確認できた。
突然、小鳥たちが騒がしくなった。
けたたましい鳴き声とともに鳥たちは茂みの奥へと一斉に逃げ込んだ。
あたりを見回すと上空に白っぽい大きな鳥が旋回するのが見えた。
オガサワラノスリだ。狩りが得意といえるほどの高い捕食能力はないが、
爬虫類や飛ぶのが下手な幼鳥は格好の餌食である。
狙えそうな獲物がいないと判断したのかすぐに飛び去って行った。
すると、再び小鳥たちで森の中はにぎやかになった。
朝食を摂るために船へ引き返した。
朝からフルーツがたくさん出された。
次に、父島へ接岸した。
スズメより大きめの灰色の鳥が地上を動くのが見えた。イソヒヨドリであり、
雌と巣立ちビナである。しばらくすると雌が何かを警戒して、
「ガガガガッ」と威嚇するような声を出した。
同じくらいの大きさで少し尾の長い鳥が急降下してくる。オガサワラヒヨドリだ
。
樹上へ戻ろうとUターンした直後に、雌は追撃を加え、森の奥へと追い払ったの
だ。
わが子と安全な餌場を絶対に守り抜くという親鳥の強い信念が感じられた。
これは、現代の人間も見習うべきことであろう。
森の中へ入ると地上を歩いている大きめの鳥がいる。
2羽のオガサワラカラスバトが何かの種子を啄んでいる。
赤っぽい小鳥が現れた。現代では絶滅種のオガサワラマシコである。
太った体つきでウズラのような体型である。これではあまり飛べなさそうである
。
人を全く怖がらず、こちらの足元まで近寄ってきた。
この鳥も含めて、多くの鳥を絶滅に追いやってしまったことが大変悔やまれる。
森の奥へと進むと、地上を歩き回ったり掘り返したりしている鳥がいた。
マミジロの雌やシロハラに似ているが小さく、
ウグイスの雄やノゴマよりは少し大きいかなといった感じだ。
色彩や体格から、現代では絶滅種のオガサワラガビチョウであった。
こちらも人を警戒することはなかった。
2羽の成鳥がつがいでいた。子育て中らしい。
茂みの中から巣立ちビナが2羽歩いて出てきた。
まだ自力では餌をとれないらしく口を開けて鳴いている。親鳥に餌をねだってい
るのだ。
オガガサワラガビチョウは顔の模様こそチメドリ科のガビチョウに似ているもの
の、
ヒタキ科トラツグミ属である。
このため、行動や習性がトラツグミやマミジロと似ているのは当然のことであろ
う。
アカガシラカラスバトとオガサワラカラスバトの巣立ちビナを連れた親子もいた
。
ネズミやネコやブタ、ヤギなどの外来種がおらず、
オガサワラノスリくらいしか捕食者がいないこの場所は、鳥たちの楽園であった
。
その一部が現代では失われてしまったことが非常に残念である。
次は海鳥を観察したくなった。
3日目の朝は5時起き、すぐに朝食、デザートはココアプリンであった。
船上に出る。最初に目に入ってきたのはアジサシ類の群れである。
セグロアジサシだけの群れ、ヒメクロアジサシとクロアジサシの混群、
ベニアジサシとエリグロアジサシの混群である。
それぞれ10~20羽ほどの群れで飛び回り、獲物の小魚の群れを見つけると、
海面へ次々ダイブし捕食していた。
アジサシたちもよく観察すると少し色や模様が異なる個体がいるのが分かり、
今年巣立ちした幼鳥が混ざっていることがわかった。
巣立ちからそれほど期間は経っていないはずの幼鳥が、
自力で巧みに魚を捕食する姿には感心した。
沖の方に大型の鳥の群れが見えた。アホウドリの群れである。
首や背中が黒っぽい個体がいる。こちらも幼鳥がいるようである。
成鳥と変わらない大きさに育っていて、すでに独立はしているが、
餌場にはこうして一緒に群れで飛んでくるようである。
海面付近でイカやトビウオなどを時々捕食していた。
単独でヒラヒラと飛ぶアジサシのような白い鳥がいた。
嘴が赤く、とても長くて細い赤い尾羽が確認できた。アカオネッタイチョウであ
る。
どんどん接近してきて船のすぐそばでゆっくりと旋回してくれた。
今度はカモメかウミネコのような鳥が飛んでくる。
しかし、細身でツバメのような尾、頭が黒い。オオアジサシであった。
魚を捕食することはなかったが、船のすぐそばまで飛んできて並走する形になっ
た。
鳥の観察をしていると時間はすぐに経つ。
ランチのデザートはオレンジのゼリーだった。
船は父島列島沿いを南下したあとUターンして父島へと戻るという航路である。
途中で島の岸近くでアジサシ類の繁殖地の観察があった。
ベニアジサシやエリグロアジサシの巣と親子、そしてカツオドリの親子もいた。
本日最南端の洋上でUターン中にハトを細身にしたような黒っぽい鳥が目に入る
。
水面付近を低く飛び、クロアジサシとは様子が違う。
よく観察するとオガサワラヒメミズナギドリであることが分かった。
アジサシ類と誤認しそうだが尾羽が燕尾や凹尾ではないところが大きく異なる。
帰路でも海上の鳥たちの採餌を観察できた。
今日はグンカンドリの乱入はなく、平和な様子であった。
捕食される小魚にとっては全く平和ではないわけだが。
ハンドウイルカの小群を近距離で、ザトウクジラの姿も遠くに確認できた。
洋上での野鳥観察を満喫した1日だった。
夜のデザートはバナナ味のアイスクリームだった。
食後に部屋で写真やノートを確認していると、ここで緊急事態発生である。
なんと非常に強い台風が北上中で明日の昼過ぎに小笠原諸島を直撃するとのこと
。
船の転覆や沈没の心配はないものの、内蔵されたタイムマシーンの精密機器が
故障する危険があるため、安全のために明日の朝6時過ぎにタイムマシーンを
起動して急遽元の時代へ帰還することになった。
船は父島を離れて北上し、八丈島の沖で投錨して停船、ここで一晩過ごすのであ
る。
あと数日滞在するつもりだったが、安全のためにはやむを得ない。
明日に備えて10時前には就寝した。
6時起床、シートベルト付の座席に着席、全員そろったことを確認。
シートベルトをしっかり着用すると、船長からのアナウンスが流れる。
そして不思議な機械音とわずかな振動とともに意識が遠のきかけたと思ったら、
ブザーの音とともに元の時代へと戻ったことを知らせるアナウンス。
ここで一旦、食堂へと移動して朝食をとることになった。
この日、デザートはなかった。
しばらくすると、BGMにドボルザークの新世界「家路」が流れつつ
本土の横浜港に到着。
そして、同行人それぞれの今へ帰っていった。
僕は高速バスで帰宅した。
昼に名古屋のサービスエリアで大きな海老天ののった天丼を食べた。
昼過ぎには京都駅前に到着、地下鉄とバスを乗り継ぎ帰宅した。
台風のため、予定よりも早く帰ることになってしまったが、
大きなトラブルはなく希少な鳥類やイルカの群れ、ザトウクジラも観察でき、
大変充実した旅行となった。
絶滅種に関して、タイムマシンの利用で復活ができないかという議論もあるが、
タイムマシンで過去を改変する試みは法律で厳しく禁じられている。
もし、違反すれば大量殺人や放火と並ぶほどの重大な犯罪行為とされている。
だから、この素晴らしい記録を僕はこのノートにのみ残すこととした。
この旅のために、たくさんの事前調査を行った。
僕のための旅、僕と僕の心の旅ではあるが、充実した経験となった。
編集後記
鳥のお名前から鳥の色や形をイメージしました。
まったく見たこともない鳥さんが飛び交っていて、びっくりしました。
ものすごく好きなことだからちゃんと伝えようと、
一つ一つの場面を丁寧に記してくださいました。
鳥だけでなく植物や虫さんたちも大好きな自然さん、
「とにかく見たい」とあちこちで自然観察をされているそうです。
視野は欠けているけどうまく視界に入れば見えるという見え方で、
パソコンのマウスポインターを探すのに一苦労だそうです。
白杖片手にバードウォッチング、
お手元のフィールドノートからのエピソード、色鉛筆でまたいつか。
-- このメールの内容は以上です。
発行: 京都府視覚障害者協会
発行日: 2024年3月15日
☆どうもありがとうございました。