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活動紹介

メルマガ色鉛筆第263号「十色の研究その6 ブラック・ジャックが断わった眼の手術」

タイトル 「十色の研究その6 ブラック・ジャックが断わった眼の手術」
ペンネーム カラフル幕府(40代 男性 光覚)
レポートの要旨です。
 神様から配られた色々なトランプのカード。
視覚障害もそのうちの一枚である。
このカードのせいで苦労することもある一方、
このカードのおかげでこうしてメルマガ色鉛筆と巡り会えたりもしているから、
本当に人生というものはわからない。
 とはいえ、もしもう一度目が見えるようになる手術があると言われたら、
やっぱり受けたいと考えてしまうのが人情。
では視力が戻る時間がほんの数分でも、僕はその手術を受けたいだろうか。
今回はそんな不可能を可能にする世界一の外科医について書いてみたい。
これはそんな雑記まがいの自己研究レポートである。
ここから本文です。
 その先生は超一流の手術をする代わりに患者に法外な治療費を請求する
悪名高き無免許医。
みなさんもどこかでその名を聞いたことがあるだろう。
そう、ブラック・ジャック先生である。
ここではBJ先生と書かせていただく。
漫画の神様・手塚治虫が生み出したこの類を見ないダークヒーローは、
連載終了から数十年経った今なお多くの人の心に生き続け、
実際の医療の現場でも「こんな時にBJ先生がいたら」なんてつい口にされる存
在だ。
僕自身も医学生の頃、学友とBJ先生の治療法や生命観について
ああだこうだとよく議論したものだし、現場に出た今もその姿は永遠の憧れであ
る。
 そんなBJ先生のご専門は外科だが、眼科の病気を扱ったケースもいくつかあ
る。
今回はその中の一つ、『目撃者』というエピソードについて考察したい。
 とある駅のホームで爆破テロが発生したくさんの死傷者が出る。
警察は容疑者を三人にまで絞り込むが決定打がない。
駅の売店で働いていた若い女性が犯人の姿を目撃していたが、
彼女自身も爆発に巻き込まれ失明していた。
 担当刑事はBJ先生に彼女の手術を依頼するが、BJ先生はこれを断わる。
その理由は、以前にも同様の手術を何度か経験したがいずれも失敗、
患者は一度は見えるようになったものの、5分でまた失明してしまったからとの
こと。
刑事はそれで構わない、その5分間で容疑者を見せれば犯人を特定できると主張

それでもBJ先生はやはり手術に難色を示すのだが、
その時のセリフがとても印象的である。
「私は医者だ。患者を治療して治すためにやってる。5分で失敗するとわかって
る手術を患者に施すなんてできない。患者にとってもぬか喜びでしょう。患者が
可愛そうだよ、
二度も失明する苦しみを味わうことになるなんて」
 その後、金を積まれたBJ先生は手術に応じ、
目撃者の女性は5分間だけ視力を取り戻し犯人も無事に逮捕される。
再び光を失うまでの残された時間、彼女は外の景色を見たいと願った。
そして何の変哲もない夕暮れの街を見ながらこんなセリフを残し物語は終わる。
「綺麗な景色、あたし、一生忘れないわ。さよなら、光さん」
 病気を治すことにこだわるBJ先生からすれば、
今回の手術は虚しいものだったのかもしれない。
失明という苦しみを再び患者に与えてしまったことに心を痛めたのかもしれない

では当の本人の彼女はどうだったのだろう。
彼女は犯人に恨み言を言うこともなく、絶望に泣き叫ぶこともなく、
終始穏やかで冷静だった。
 もしかしたら彼女は、ちゃんと覚悟を持って光に別れを告げたことで、
心の整理をつけることができたのかもしれない。
失明という運命には抗えなくても、
もう一度目が見えた5分間でこれまでの人生に終止符を打ち、
新しい人生を迎え入れることができたのかもしれない。
 このエピソードは『一瞬の目撃者』というタイトルでテレビアニメ化もされて
いるので、ご興味のある方はDVDで音声だけでも観賞されてみてはいかがだろ
う。
 視覚障害の形は様々だ。生まれながらに光を知らない人もいる。
ある日突然光を奪われる人もいる。少しずつ光を失っていく人もいる。
それぞれの苦労があり、弱さがあり、そして強さがある。
 僕自身の網膜色素変性症は3番目のグループ。
一歩ずつゆっくり、ただし確実に失明に向かって進んでいくのが症状。
じわじわ真綿で首を絞められるような恐怖もある一方、
心を整理する猶予も与えられる病気だ。
この穏やかな絶望がいくつもの希望を生み出してくれたことは確かで、
自分には時間がないと思えたおかげで濃密な生き方ができた。
だんだん遠ざかっていく光という友人に、しっかり感謝を伝え、ギリギリまで力
を借り、抱き合って別れを惜しむことができたように思う。
 今は視野の片隅にわずかに明るさを残すのみ。
随分離れてしまったけど、元気でやっているかい、光くん? 
こっちもぼちぼちやってるぞ。
 21世紀も二十年以上が経過し、今は眼科医療の考え方も変わってきている。
医者もただ治すことだけを目指すのではなく、見えない・見えにくいままでも
患者が人生を充実させるための手助けをしてくれる。
患者が選べる就労の選択肢、生き方の選択肢も増えてきている。
それはこのメルマガ色鉛筆で語られる色とりどりの物語を読んでも明らかだ。
 それでももしBJ先生が数分間だけ視力を戻してくださるとしたら、
僕は何をするだろう。家族や仲間の顔を見るだろうか。
好きな人を見つめるだろうか。懐かしい思い出の写真を見るだろうか。
昔夢中になった映画や漫画を見るだろうか。お気に入りの風景を眺めるだろうか

それともエッチな本を買いに行ってしまうだろうか。
 きっと何を見たとしても、それは世界一美しく見えるに違いない。
編集後記
 「5分だけ見えるなら何を見ますか」、するとこんな声が聴こえてきました。
家族の顔、初恋の同級生の今。
色のある世界、青い鳥、虹
生まれ育った故郷、星空、マンガ、本、映画。
 さらに、やりたいことも聴こえてきました。
ドライブやツーリング
テニスでラリー、思い切りボールを打ち返したい。
 声を届けてくれた皆さんはなんちゃって「一瞬の目撃者」なのかもしれません

なんちゃって、それは自由な世界。
見えない心を観ようとする世界でもあるようです。
 -- このメールの内容は以上です。
発行:   京都府視覚障害者協会
発行日:  2022年4月22日
☆どうもありがとうございました。

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