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活動紹介

メルマガ色鉛筆第254号「弱視エンジニアの視点から」

タイトル 「弱視エンジニアの視点から」
ペンネーム 色コントラスト(30代 男性 弱視)
レポートの要旨です。
 「謝礼は1万円です。」
さて皆さん、メールが届きました。
どうやら上記の文言が入っています。なんのメールでしょうか?
そう、メーカーや大学から協力依頼です。
お小遣い稼ぎのチャンスがやってきました(笑)
今回はこのメーカーや大学との接点についてお話しします。
弱視でありエンジニアである私の視点から、常日頃の考えを記載します。
ここから本文です。
 私の視力は片目0.3で、視野は5度未満です。
歩行には困難があるものの、パソコン操作はさほど苦労もなく健常者に交じって仕事
をしています。
部署は開発部。華やかに聞こえる方もいるかもしれませんが、実情は地道な仕事です

輸出管理に抵触しない用品選定、他社の特許に引っかからないシステム構成、工場で
加工しやすい形状、現場作業員がわかりやすい表示。
そして利用者が使いやすいインターフェース。
製品に関わる全ての人の声を拾って形にしていくのが私の仕事です。
 では、実証実験について、そもそものところから考えてみましょう。
①好みと効率は違う。
 ある大学の調査で、弱視者を対象に行った実験がある。
明朝体とゴシック体の文章、どちらが見やすいかというものだ。
口頭でヒヤリングをすると、明朝体とゴシック体は5対5で均衡する。
ところが、1分間に読める文字数を計測すると、明らかにゴシック体の方が読める文
字数が多いという結果になった。
つまり、人は読みやすいフォントを好みで選ぶが、実際に読みやすいフォントは違っ
たということだ。
仕事でも相手の真意をくみ取れているのか考えることがある。
「こうしたほうがいいだろ?」
開発プロセスの途上、ベテランの方からアドバイスを受けると、きっと経験に裏打ち
されたご意見なんだろうと採用してしまうことがある。
ところがそのアドバイスが裏目に出ることもしばしば、、、。
②なぜなぜ分析。
なぜ、ベテランのアドバイスが裏目に出たのか?
一つには開発担当者がベテランのアドバイスの真意にたどり着けなかったことがある

今振り返れば、ベテランの人は、開発担当者を試したかったのではないかと思う。
「お前はポリシーを持ってこの開発をしているのか?」と。
「人の意見に簡単に流されるな、そう教えようとしてくれていたのかもしれない。
 ある企業では「なぜなぜ分析」という手法が浸透している。
課題にぶつかった時にその課題に対して「なぜ」を5回繰り返すというものだ。
かつての私は前述のベテランからのアドバイスに「なぜ」を繰り返すことができてい
ただろうか。
いや、できてやいない。
ベテランの経験に裏打ちされているだろうと、真意にたどり着く4歩手前で浅はかに
も思考停止していた。
 メーカーや大学の実証実験でもなぜなぜ分析を取り入れていただきたいです。
当事者の真意にたどり着くのはそんなに簡単じゃないはずです。
とはいえ、メーカーや大学も表面的な意見だけ取り入れようとする場合も多いので、
私は当事者として自分で真意に近い回答をするように心がけています。
例えば「これがいい。なぜならば、こうだから」と記します。
自分の回答に「なぜならば」を付けることで回答の根拠を明確にできます。
この根拠こそが伝えるべき大事な要素、つまり真意だからです。
③第三者の存在。
 よくメーカーや大学は、当事者の意見を聞きたがる。
でも当事者は「好み」で回答したり、真意からは遠い回答をしたりする。
なぜなぜ分析などもあるが、これだけでは真意にたどり着けない場合もある。
 ではどうするか。
そこに第三者を加えるのが正解ではないだろうか。
具体的には歩行訓練士や視能訓練士、眼科医、ガイドヘルパーさんも良いだろう。
当事者自身では気づけないことにも、数多くの利用者さんとつながりのある訓練士さ
んであれば、それぞれの事象について客観的にとらえることができるだろう。
 私が実証実験の依頼を受けたときは、訓練士さんも実験に混ぜていただくように提
案しています。
④多様性を表現する。
 この世界は様々な色であふれている。
実証実験は何か答えを出そうという場ではあるが、そんなことを当事者が意識する必
要はあるのだろうか。
メーカーが想定してきた視覚障害者の妄想を軌道修正するための、多様性の表現の場
ではないだろうか。
 「視覚障害者はみんなこうだよ」とか、全体を俯瞰して発言しなくても良いのでは
ないでしょうか。
私はあくまでも自分目線で率直に答えています。
キャンパスにまだ使われていない自分の色を付け足していくようなイメージです。
それでいて、その色は真意を持った深い色であるべきです。
よく、人とは違う色を出したくて、今まで聞いたことがないような意見を言おうとす
る方もいます。
それがその方の真意とずれていたならば、おそらくその声は深みを持った色にはなら
ないでしょう。
⑤未来を創る活動。
 私が尊敬する科学者の一人はアインシュタインだ。
彼は晩年、次の言葉を残した。
「知識には限界がある。想像力は世界を包み込む」
アインシュタインが考案した理論から、ダイナマイトや原爆が作られた。
彼は平和のために科学を探求したのに、それは不幸のために使われた。
どんなに高度な技術でも、想像力なくして完成しないという事例だ。
 現代の技術者も想像力に飢えています。
彼らが求めているのは、きっとこの想像力なのではないでしょうか。
 実証実験に参加すること、それは技術者の想像力をはぐくむ作業、しいては社会を
創る行動の一つなのです。
さぁ、技術者の心のキャンパスへ、あなたの色を付け足しに行きましょう。
編集後記
 社会をつくる行動について語られました。
実証実験に参加することも社会をつくる行動の一つ、なるほど。
個人の思いを伝えることは、技術者の想像力を育む、なるほど。
想いにつながる根拠が何か、そこを伝えることが技術者の想像力を刺激する、なるほ
ど。
弱視のエンジニアさんならではの経験に裏打ちされた考察、なるほど。
 5つの段階、視点で静かに想いをめぐらされています。
その一つ一つからやさしい投げかけがありました。
考察と投げかけは静と動、その色合いにコントラストがありました。
 明朝体とゴシック体、パッと見た時、1分間、30分間、それぞれの設定で「これ
がいい」はちがいます。
しかも人それぞれですよね。
これはどうだろう?なるほど、さらにこれはどうだろう?、なるほど、想像力のやり
とり、色鉛筆でまたいつか。
 -- このメールの内容は以上です。
発行:   京都府視覚障害者協会
発行日:  2022年1月28日
☆どうもありがとうございました。

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