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メルマガ色鉛筆第123号「父の日」

タイトル 「父の日」
ペンネーム 雨のインクでしたためた手紙・・・いつか、きっと虹色(40代 女性 弱視)
 レポートの要旨です。
 父の日って、母の日に比べて影が薄くてかわいそう。
ふと、なんとなくこの言葉をこぼした虹色さん。
どんなパパ大好きエピソードが飛び出すことやらと、待つことしばし。
娘から父へもがき出された思いは、魂の奥底にまで響く重みで迫ってきました。
 娘であり、母である今思う「父の日」をお届けします。
 ここから本文です。
 父の日・・・、そのフレーズはいつも私を物憂い気持ちにさせる。
私、父に感謝してる?
その問いに対して黙り込む私がいる。
それから、その私をののしる私の声がする。
親に感謝できないというのは、人に言ってはいけない、人として恥ずべき欠点ではないか。
恩知らず。
反論の言葉は見当たらない。
 父には暴力をふるわれたことなどない。
むしろ、幼い頃はよく一緒に遊んでくれた。
だから、悪いのは全面的に私だ。
私はどんどん重い気持ちになる。
いつも、涙がこぼれる前に考えをそらし、そのことについては深く考えないことにする。
 子どもの頃、家族で自転車で出かけた時に、父が転んでけがをしてしまったのを覚えている。
私と同じ病気の父。
私は、父の悲しみから目をそむけたかったのかもしれない。
 私が小学生の時に勤めを退き、盲学校に通うために3年間家をあけた父。
その頃には、すでに私もその病気を受け継いでいることを知っていた。
父から目をそらすことで、私は私自身の将来を脳裏から締め出してしまいたかったのかもしれない。
 私も確実に見えなくなる・・・、その現実が目をそむけようもないほど眼前に迫っている今、
父に対する鉛のような心は急に氷解するものではない。
というより、今は逆に私を見せたくなくて・・・、
「大丈夫、平気」、そう言い続けるのがしんどくなって、私は京都に来た。
まるで逃げ出すかのように。
 娘と一緒に京都に行くという私を、親はとめなかった。
たぶん、私の気持ちはわかっていたのだろう。
この重い気持ちが、いつか何かのきっかけで変わることはあるのだろうか・・・。
 父の日が私の気持ちを重くさせる原因がもう一つある。
娘には、疎ましく思う父すらいないということだ。
それはとりもなおさず、娘が幼い頃に離婚してしまった私のせいだ。
 今は昔と比べると家庭の形態も多様化し、子どもの年齢が上がるにつれて1人親家庭も驚くほど増えてきた。
小学校でも、母の日や父の日に親の似顔絵を描かせるという行事は恒例ではなくなってきた。
そうやって何でもかんでもなくしてしまうのもどうかとは思うけど、
保育園の時は、1人、おじいちゃんの似顔絵を描かされる娘に心が痛んだ。
保育園児たちの絵からはモデルの年齢までは露呈していないことが、心の中でせめてもの救いだった。
 娘は、父の日にいつも何を思っていたのだろう・・・。
父のいない寂しさを私に訴えることはなかった。
私も、聞いてもどうしようもないその問いを投げかけることはなかった。
おそらく、これからも2人で話すことはないだろう。
自分がしてあげられないくせに、都合の良い話かもしれないけど、
父に対する心の内を娘1人が抱えたままにしないで、
いつか話せる相手ができたらいいなと思う。
 娘には幸せな家庭を築いてほしい。
そこに、「早く過ぎればいいのに」と気まずく思われる日としての父の日が存在しなければいいななんて、
自分にはできなかったことをはかなく娘に願ってみたりする。
ホントは、そんな絵に描いたような幸せでなくていい。
ただお互いに幸せと思えれば、形なんてどうでもいい・・・。
そう、わかってはいるのだけど。
 父からは、時々しようもない電話がかかってくる。
何かのニュースで聞きかじったらしい、今年の新卒者の初任給がいくらだとかいう話を私と娘それぞれに長々と話す。
かなりうんざりしながら「はい、はい」と雑に相づちを打ちつつも、こちらを気にかけているんだろうとは感じる。
私にとって娘の幸せが一番の願いであるのと同じで、
父にとっても1人孫が幸せになることが今は何よりの楽しみなのではないかと思う。
 親不孝な私にできることといったら、やはり娘の幸せを全力で応援することかなと思う。
そして、私自身も幸せになることが。
自分は幸せだと心から思えれば、きっと親に対してもおのずと感謝の気持ちになれるだろう。
今はまだ「ごめんなさい」の気持ちが強いけど、
いつかちゃんと「ありがとう」が言えるように頑張って生きていきます、お父さん。
 編集後記
 「見えなくなることは悲しいけど、受け止めようと思える。
でも、やっぱり悲しい。
その悲しみもありのまま受け止めようと、心の整理ができるようになりました。
でも、親に対する自分の気持ちは消化できない。
手放しで優しい感情を抱けない醜い自分、わかっていて変えられない嫌な自分・・・。
それは読む人を暗い、嫌な気持ちに巻き込んでしまわないか。
それでもいいのだろうか」。
今回のレポートはそんな葛藤を経て生まれました。
 「耳当たりの良い100のそれなりなものより、本当に心に届くものを一つでいいから欲しい。
今のコンビニ的社会は物足りない。
物足りないという思いさえ忘れてしまいそうな今に流されず、
これからもいろんな方向に濃い色鉛筆であってほしいです」。
これは今回のご寄稿に寄せられた虹色さんからのメッセージです。
ある地点から次の地点に思いが動いた結果、力強いエールが生まれたようです。
 これからも、色鉛筆は「しなやかな強さ」をもって歩いていきたいと思います。
-- このメールの内容は以上です。
発行:   京都府視覚障害者協会
発行日:  2018年6月15日
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