メルマガ色鉛筆第295号「十色の研究その8 春色の汽車に乗って」

タイトル 「十色の研究その8 春色の汽車に乗って」
ペンネーム カラフル幕府(40代 男性 光覚)
レポートの要旨です。
 神様から配られた色々なトランプのカード。視覚障害もそのうちの一枚である
。このカードのせいで苦労することもある一方、このカードのおかげでこうして
メルマガ色鉛筆と巡り会えたりもしているから、本当に人生というものはわから
ない。
 さて、新型コロナウイルスの影響で自粛を余儀なくされたのが旅行というレジ
ャー。ようやくまた楽しめる気風も戻ってきた昨今、今回は視覚障害と旅行とい
う二枚のカードの組み合わせについて書いてみたい。これはそんな雑記まがいの
自己研究レポートである。
ここから本文です。
 新婚旅行に家族旅行、修学旅行に卒業旅行、取材旅行に傷心旅行。
人生には色々な旅行がある。素敵な旅の思い出はずっと心を温めてくれるものだ
。そして視覚障害の仲間たちと交流するようになって知ったことだが、
目が不自由になっても旅行を趣味にしている人は案外に多い。
 僕自身は視力が低下してからはかなり活動範囲を狭めてしまった。
持病の網膜色素変性症が進行して弱視状態の頃は、
慣れない街や駅・空港の中で迷子になり、何時間も一人でさまよった苦い記憶ば
かり。
だから相当の気合いを入れなければ旅行に腰が上がらなかった。
 病状が進行してほぼ全盲となった今はどうかというと、
少しずつではあるがまた旅というものを楽しめる気持ちにはなってきている。
その理由は目が見えないなりのトラベルスキルが上がったからに他ならない。
いくつか挙げてみよう。
 まずは道中のスキル。駅や空港では係員さんに助けてもらう。
もちろん相手にも都合があるから、前もって電話をしたり、
早めに行って時間的に余裕を持ってお願いしたりするのがよい。
特に空港の係員さんは視覚障害者の誘導に慣れている方ばかりで、
飛行機に搭乗する際にも、援助を要する乗客は
先に乗せてくれる事前改札というシステムが定着していて本当に有難い。
 もちろんこちらもできるだけ相手をわずらわせない工夫をしておくべきであり

チケットや予約番号はすぐ取り出せるようにしておく、
手荷物はコンパクトにまとめておく、
ポケットの中の物は鞄に入れて防犯ゲートで出し入れする手間を減らしておく、
などが有効である。
 これらに慣れてからは空港の利用もさほどストレスではなくなったし、
むしろ誘導してもらう時に係員さんと交わす世間話も旅の楽しみの一つとなった

ANAとJALではイメージカラーが違うから空港で迷った時も周囲の色を意識すれば
よい、
というのも係員さんから教えてもらった豆知識である。
 続いて宿泊のスキル。
ビジネスホテルの場合は部屋がそれほど広くないので
目が見えなくても内装を把握するのに苦労しないのがメリット。
洗面所のボトル容器も大抵はボディソープ・シャンプー・コンディショナーの
三択問題なので当たりを見つけやすい。
ただフロントのスタッフさんの数は少なく、エレベーターも一機しかない場合が
多いので、チェックアウトで混み合う時間帯の誘導はかなり前もってお願いして
おいた方がよい。
朝食も大抵バイキング形式なので一人で利用するのは不可能。また
ホテルによっては歯磨きセットが室内ではなく
フロントや廊下に設置してある場合もあるので取り忘れにも御用心。
 逆にゴージャスホテルの場合はスタッフさんの数に余裕があり、
視覚障害者の誘導に慣れている方も多いのがメリット。
外食が不安ならルームサービスだってある。
ただ部屋が広過ぎると浴衣や冷蔵庫がどこにあるかを見つけるのも一苦労だし、
浴室にもたくさんのボトル容器が並んでいて
もはや山勘でシャンプーを引き当てるのは不可能、
トイレを流すボタンやシャワーの蛇口もオシャレな形状をしていて
見つけるのが大変だったりする。
 そしていずれのホテルの場合も、必ず押さえておかねばならないことが3つあ
る。
フロントの内線番号、空調のオンオフの仕方、そしてテレビのつけ方だ。
最近のホテルのテレビは電源を入れるだけではまだメニュー画面で番組を見るに

もうひと操作必要。闇雲にいじった結果いけないチャンネルにつながって、
翌朝清算するのも恥ずかしい。
なのでスタッフさんに部屋まで誘導してもらった際にまとめて
これらを確認しておくのが有効である。
 ちなみに温泉旅館の場合は、事前にお願いしておけば
最寄り駅まで女将さんが迎えにきてくれる場合も多いそうなので、
これも視覚障害者には重宝するサービスだ。
 最後は現地での観光スキル。白杖や盲導犬のベテランユーザーなら
自分だけでも名所を回れるのだろうが、僕にはまだそんな力はない。
そこで頼りになるのが現地の知人・友人の存在だ。
その土地に行った時に出迎えてくれる人、一緒に観光や食事をしてくれる人がい
れば
こんなに心強いことはないし、その人との再会も旅行の大きな楽しみとなる。
漫画『ドラゴンボール』の主人公の孫悟空が使う瞬間移動は、
相手の存在を感じ取って移動する仕組み。すなわち誰かがいる場所へしか行けな
い。
僕の旅行も今のところそれと同じ、専ら頼れる誰かがいる土地へ出向いている。
 視覚障害者にとって知らない街での待ち合わせは、まだ見ぬ陸を信じて
飛び立つ鳥のようなものだ。もし相手が現れなければ遭難してしまう。
だからこそ土地勘のない駅や空港に降り立った時、
見えない景色の中で知っている人の声が現れた瞬間、僕はとても幸せな気持ちに
なる。
真っ暗だった景色が一気にあたたかい春色に変わるのだ。
 結論。視覚障害のカードに旅行のカードを添えるためには、
もう一枚『人の優しさ』というカードが不可欠。
僕たちは優しい人たちの手から手へとつながれながら、渡り鳥のように旅をする

ちゃんと運んでもらえるように、こちらも精いっぱいの感謝と礼儀と寛大を
携えなくてはならない。それが僕らのパスポート、何よりの旅の必需品である。
 さあ、旅立ちの季節、春色の汽車に乗ってどこへ行こうか。
編集後記
 春色の汽車に乗って、手から手に旅する、やってみたくなりました。
たどりつく街までの一人の時間には、どんな曲を連れていこうか。
あの街のあの人にはどんなお土産を持っていこうか、
旅先で一つだけわがままを言うならばどこに連れていってもらいたいか。
旅の妄想はどんどんひろがります。
すると、瞳を閉じて深呼吸、記憶の中の海や草原が見えてきました。
一人で旅する私、その心の岸辺に咲くものとは。
  -- このメールの内容は以上です。
発行:  京都府視覚障害者協会
発行日: 2023年3月17日
☆どうもありがとうございました。


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