メルマガ色鉛筆第236号「十色の研究その4 銀色の告白」
タイトル:「十色の研究その4 銀色の告白」
ペンネーム:カラフル幕府 (40代男性、光覚)
レポートの要旨です。
神様から配られた色々なトランプのカード。
視覚障害もそのうちの一枚である。
このカードのせいで苦労することもある一方、このカードのおかげでこうしてメルマ
ガ色鉛筆と巡り会えたりもしているから、本当に人生というものはわからない。
とはいえこのカードをオープンにして目が見えないのを告白することは簡単ではな
い。そういえば『告白』という言葉には白という色が含まれているではないか。
今回は、愛の告白と同じくらい難しい視覚障害の告白について、M78星雲の宇宙人
の力も借りながら書いてみたい。
これはそんな雑記まがいの自己研究レポートである。
ここから本文です。
みなさんは自分の視覚障害について告白ができているだろうか。
僕自身は進行性の視力低下だったこともあって、だんだん見えなくなっていることは
気付いていてもなかなかそれを人には言えなかった。大丈夫なふりをしていた期間が
長く、ほぼ見えなくなった今でさえ、当時の癖で見えているような仕草をしてしまう
ことが多々あり、告白は苦手である。
ではまずは告白する相手についての考察。
特に難しいのは昔ながらの友人だ。
心配をかけたくないというのもあるが、それ以上に、目が見えなくなったと伝えた時
の反応が怖いというのが一番の理由。
未だに同窓会に足が向かず、昔の僕のままみんなの記憶に残っていたいなんてつい思
ってしまったりする。
その意味では、目が見えなくなってから出会った人に対しての方が告白はしやすい。
続いて告白の言葉についての考察。
どんな言葉で伝えるのがベストだろうか。
「目が悪いんです」、「目が見えないんです」…
これだって結構勇気を出した言葉なのだが、これでは伝わらないことも多かった。
実際にそう伝えた相手から「これを読んでみて」と本を手渡されたり、「マイカーで
通勤してるの?」と尋ねられたりした。
だから目が見えないっつっただろと心の中でつっ込むわけだが、それにしても一体ど
うして伝わっていないのだろう。
そこまで見えていないようには周囲には映らないのか、あるいはメガネやコンタク
トで解決できる問題と思われているのか、それとも僕が医療従事者なので、まさか見
えない奴が働いているはずがないと思い込まれているのか。
もしかしたら僕自身が大したことない雰囲気を出し過ぎていて、せっかくの告白が軽
くなってしまっているのかもしれない。
ではここでクエスチョン。
そもそも告白はしなくてはいけないのだろうか?
愛の告白と同じく、失敗すれば関係が壊れることだってあるのだ。
懐かしの特撮テレビ『ウルトラセブン』の最終回でそれを考察してみよう。
ウルトラセブンの正体はウルトラ警備隊のダン隊員なのだが、彼はそのことをずっ
と仲間に隠して闘ってきた。
しかしその疲労が蓄積し職務上でミスを連発、事情を知らない仲間からは心配や叱責
を受ける事態に。
それでも何も語らずに一人最後の闘いに臨もうとした彼を、同僚のアンヌが追ってく
る。そこでダンは彼女についに自分の正体を告白するのだ。
その後、アンヌが仲間たちにもダンの正体を伝え、最終決戦で苦戦するウルトラセブ
ンをみんながダンと呼びながら援護する…という名シーンになっていく。
確かに告白は必要だった。
もしもしなければみんなは誤解したままだった。
仲間の一人は「何故言ってくれなかったんだ」と彼に冷遇したことを悔やんだ。
みなさんはダンの告白をどう思うだろうか?
一人で抱え込んで頑張ってきたがそれも限界に達し、結果として周囲に迷惑をかけて
ようやく告白。
少し遅かったのかもしれないが、彼がずっと言えずにいた気持ちももちろんわかる。
「実は宇宙人です」なんて、「実は視覚障害者です」よりはるかにハードルが高い。
一体彼がどんな言葉でアンヌに打ち明けたのかは、見ていただいてのお楽しみ。
告白の瞬間に画面が銀色に変わり、向かい合う二人がシルエットになる美しい演出は
、今も僕の脳裏に焼きついている。
最後に別の角度での考察も一つ。
それは、告白の成功のためには相手が担う部分も大きいということ。
愛の告白でもそう、相手がどんなリアクションをしてくれるかが命運を分ける。
例え振られるにしても、相手次第でこれからも良い関係が続く場合もあれば、関係を
失い二度と恋ができないくらい再起不能になることだってある。
視覚障害はなかなか伝わらないと書いたが、実は他の病気の苦労だって同じくらい
伝えるのは難しい。
人にわかってもらえないことばかりをつい嘆いてしまうが、逆に自分が人から病気を
告白された時、ちゃんとわかってあげて適切なリアクションができているかというと
自信がない。
つまり告白する側にも技術が必要だが、告白される側にも技術が必要ということだ。
では告白された時のベストな返事とは何だろう。
先ほどのアンヌ隊員もダンにとてもあたたかい言葉を返しているが、僕が一番好きな
返事は、これまた懐かしの映画『スター・ウォーズ 帝国の逆襲』の中にある。
ハン・ソロが悪者に捕まり氷漬けにされる直前、レイア姫はこれまで隠してきた想
いを彼に「I love you」と伝えるのだが、ハン・ソロの返事はたまらなく素敵である
。
もし僕も「実は目が見えないんだ」と打ち明けて、そんな言葉を返されたら惚れてし
まうかもしれない。
ハン・ソロが何と言ったのか、これもぜひ見てのお楽しみ。
僕たちの日常ではテレビや映画のような名ゼリフはなかなか言えないが、やっぱり
告白をした時、そして告白をされた時は「ありがとう」を言いたい。
聞いてくれてありがとう、教えてくれてありがとう。
お互いに感謝の気持ちが持てれば、きっと告白は報われるだろう。
もちろん焦ることはない。
愛の告白だって踏み切るまでに何年もかかったり、何回目かにようやく届いたり、結
局言えずに終わる恋もある。
でもそれでいいと思う。
人間は秘密を抱えて生きるもの、そんな姿から放たれる魅力もたくさんたくさんある
。
タイミングは人それぞれ、するもしないも人それぞれ。
それでも告白から始まる新しい物語があることを僕は信じている。
編集後記
私、見えないんです。見えにくいんです。もう見えなくなったんです。
これ、言うしかないよなという場面で、さりげなく余裕の笑顔で告白したとしても、
告白された人の表情を想うと、それだけで心が締め付けられる、そのわずかな間がき
つかった、そんな経験をされた方もおられることでしょう。
ではここでクエスチョン。
告白するやいなや「知ってたよ」とさらりとした一言と温かい手が出てきたら、思わ
ず胸キュンでしょうか。
聴いてもらいたいと思うことがあって、それを受け止める準備をしてくれている相手
がいて、それでも告白できない、そんな苦しい日があります。
待ってくれているのね、ありがとう、でも今は無理、話すこともできないんだよ、こ
の告白を「じゃあ、またね」に言い換えてしまう、そんなきつい日もあります。
つまり語らない告白です。
秘密の闇を抱える姿から、放たれる光があるのかもしれません。
そんな日があります。
私にも、あなたにも。
-- このメールの内容は以上です。
発行: 京都府視覚障害者協会
発行日: 2021年7月30日
☆どうもありがとうございました。