メルマガ色鉛筆第225号「十色の研究その3 音楽は何色に見えますか」

タイトル 「十色の研究その3 音楽は何色に見えますか」
ペンネーム カラフル幕府 (40代男性、光覚)
★レポートの要旨です。
 神様から配られた色々なトランプのカード。
視覚障害もそのうちの一枚である。
このカードのせいで苦労することもある一方、
このカードのおかげでこうしてメルマガ色鉛筆と巡り会えたりもしているから、
本当に人生というものはわからない。
 さて、色といえば「音色」という言葉がある。
目が悪くなってからというもの、僕に見えているのは専らこの色。
今回は音楽好きのカードを使って書いてみたい。
これはそんな雑記まがいの自己研究レポートである。
★ここから本文です。
 僕が神様からもらったカードの中で、とりわけ感謝しているのが音楽のカード。
中学生の頃に初めてギターに触れてから、その若気の至りの情熱は
未だに尽きる気配を見せない。
家のソファで鳴らしてみる、誰もいない夜中の社員食堂で熱唱する、
曲を思い付いたら休日を費やして録音する、という趣味活動は、
もはや食事や呼吸と同じく当然の営みとなって継続されている。
目が見えなくなった後もさほど落ち込まずに暮らせているのは、
音楽という変わらず自由に動き回れる世界が自分にはあったからだと思う。
ギターを弾きながら歌っている時は、視覚障害のカードは完全に伏せられているのだ。
 また僕にとって音楽は、娯楽としてだけではなく、心の保管庫としての意味も大きい。心は気付かぬうちに変化してしまうもの。
それでも懐かしい曲を聴いた時、口ずさんだ時、少しだけ思い出せる…
いつか大切だと思った気持ちを。
学生時代に録音した楽曲、歌も演奏もヘタクソだけど、
それを聴いて僕は何度も過去の自分から元気をもらった。
僕がいつまでも曲作りを続けるのも、未来の自分に元気を届けるためなのかもしれない。
 心の話題が出たのでちょいと精神科医のカードをめくって話をすると、
音楽が心の健康に大きく寄与することは実証されている。
専門的な音楽療法に限らず、カラオケはリハビリの定番プログラムであるし、
合唱や合奏がもたらす治療効果は非常に大きい。
昔の鉱山労働者はみんなで歌いながら過酷な作業をこなしていたし、
遭難した人が歌を口ずさむことで正気を保って生存した事例もある。
音楽は安定剤より効果的な心の常備薬なのだ。
 そんなわけで音楽の信奉者である僕なのだが、
同じく音楽が好きだという人と出会った時に必ずする質問がある。
「この曲は何色に見えますか?」。
何のこっちゃとポカンとする人もいる一方で、あっさり即答してくれる人もいる。
その人の答えと僕の答えが必ずしも一致するわけではなく、
むしろ一致しないことがほとんどなのだが、
例えば僕には真っ赤に見える曲がその人には水色に見えたりするのはとても面白い。
まさに十人十色である。
 ちょいとマニアックな話になるが、音楽の三大要素はメロディとリズムとハーモニー、その中で特に僕が興味を持っているのがハーモニーだ。
ハーモニーとは複数の音を同時に鳴らす、いわゆる和音のことであり、
軽音楽の世界ではコードとも呼ばれる。CだとかAマイナーだとかいうあれのことで、
同じメロディでもそこにどんなハーモニーをつけるかで楽曲の雰囲気はがらりと変わる。その曲の色合いを決めているのはハーモニーによる部分が大きい。
 だから僕は好きな曲を見つけると、その曲にどんなコードが使われているかを解析する。ああでもないこうでもないとギターを鳴らし、
ついにコードがわかった時の喜びといったらない。
カメラ好きの友人は、写真の構図から撮影者の心理を感じるという。
僕も楽曲のコードを紐解くことで、作曲者に心を重ねていけるような気がしている。
勘違いかもしれないが、そもそも勘違いしていなければ自分で曲を作ったりしない。
 それにしてもハーモニーとは本当に不思議だ。
例えばCのコードはドミソの和音なのだが、これはとても明るい響き。
僕には黄色に見える。
だが真ん中のミの音を半音下げてミのフラットにすると、
途端にCマイナーと呼ばれる暗い響きに変貌する。
僕にはくすんだ黄色に変わる。
あるいはシの音を足してドミソシの和音にすると、
Cメジャーセブンと呼ばれる、爽やかな朝の白さを含んだ色に変わるのだ。
音を重ねることは、パレットで絵の具の色を混ぜ合わせるのにとても似ている。
 さて、そろそろ退屈してきた読者もおられるでしょう。
音楽なんて興味ねえよという人もおられるでしょう。
ではここからが研究の真骨頂です。
 ハーモニーについて考える。
一つの音には明るいも暗いもないのに、それが複数集まると明るさや暗さ、安心や不安、好きや嫌いなどの感情を持った響きが生まれる。
これは人間でも同じではないだろうか。
一人の人間には明るいも暗いも、良いも悪いもない。
複数の人間が集まった時に、ハーモニーが生まれるのだ。
 ドミソの和音を鳴らした時に一番よく聴こえるのはド、これはチームのリーダー的存在。半音下がるだけで全体が暗くなるのはミ、これはチームのムードメーカー。
明るさには関与しないが厚みを加えてくれるのはソ、これは頼もしい仲間たち。
ちなみに加わると爽やかな響きになるシの音は、さしずめ非常勤の美女といったところか。僕たち人間も集まることで和音になる、一人の色では成し得ない彩りになるのだ。
 もしかしたら障害だってそうかもしれない。
視覚障害そのものには明るいも暗いもなく、良いも悪いもなく、
そこにどんな音を合わせるかが重要なのだ。
組み合わせ方によっては不協和音にもなってしまうが、
うまい音を合わせれば魅惑のハーモニーを奏でることだってできる。
障害の有無に関わらず輝いて見える人というのは、
きっとその人の構成要素が素敵なハーモニーを奏でている人なのだろう。
 音楽は自由だ。
あえて不協和音を使用した名曲だってたくさんある。
友情も、恋愛も、家族も、職場も、
障害も、夢も、情熱も、不安も、怒りも、悲しみもそう。
隣の犬の声も、風がそよぐ音も、君の心臓の音も、地球が回っている音もそう。
僕らが音を奏でながら生きている限り、この世界には無限のハーモニーが存在している。
 だから探していこう。
まだ誰も聴いたことのない、素敵な色のハーモニーを。
編集後記
 このレポートは何色かな、どんな音かな、目を閉じ耳を澄ませてみました。
黄緑とスモーキーな水色、そこに白っぽい黄色が混ざった
マーブル状の淡いグラデーション、
そんな色合いの中、
オカリナと風の音が遠くから聴こえてきました。
一人の色では成し得ない彩りになる、
このことを、人と人の出会いの中に感じています。
色鉛筆のレポートもそう。
読者の皆さんのところで生まれるハーモニーはどんな色、どんな音でしょうか。
そして、「そうかもしれない」と思えることも、
「自分とはちがうな」と思うことも、きっと無限なんでしょうね。
-- このメールの内容は以上です。
発行:   京都府視覚障害者協会
発行日:  2021年4月2日
☆どうもありがとうございました。


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