メルマガ色鉛筆第132号「私たちの伝えることば、受け取ったことば」
タイトル 「私たちの伝えることば、受け取ったことば」
メルマガ色鉛筆編集チーム
こんにちは。
メルマガ色鉛筆編集チームです。
本日より、神戸で視覚障害リハビリテーション研究発表大会が開催されます。
メルマガ色鉛筆は、この大会に活動報告のポスターを出しています。
今年の色鉛筆の発表テーマは、「伝え方」です。
というわけで、今回の色鉛筆では、
ずばり、私たちならではの「伝え方」とそれを感じる「受け取り方」をコンセプ
トにしたレポートをお届けします。
まずは伝える人から、京都ライトハウス鳥居寮の文章講座の中から生まれた文
章です。
タイトル 「夏な京都」
ペンネーム 黄色いランドセル(50代 女性 全盲)
千本ゑんま堂 風祭り
アクセス 市バス「乾隆校前」下車
期間 7月1日から7月15日
奉納金 お賽銭
安全度 高い
段差 少ない
「しまった」。
夏な京都といえば、真っ先に思い浮かぶのが千本ゑんま堂の風鈴。
今年も期間中に行きたかったが、風祭りはすでに終わっていた。
なので、去年を思い出して書くことに…。
私は、京都といっても郊外に住んでいる。
実際に京都らしい夏を経験したことがなかった。
しかし、去年の夏は歩行訓練で京都のまちを歩き回った。
その日は、ライトハウスから千本上立売まで歩くコースだった。
車が行き交う音の方向と、歩行訓練の先生の足音を頼りに歩いた。
商店街では、店の前に出された商品に白杖が当たる。
狭すぎる歩道では、自転車をよけるために身を端に寄せなければならない。
涼しいはずの打ち水も、もわりとした湿気となり足元に絡まる。
左右にぶつかり、何度も立ち止まり、迷惑をかけないようびくびくしながら歩く。
いやな汗で身体がじっとり濡れてきた。
通り過ぎるたびに教えられるバス停の名前。
身体は、そのたびにうだるような京都の暑さを実感していく。
「そろそろ限界なんですけど」。
そう言いかけた時、風鈴の音が聞こえてきた。
それは一つではない。
透き通った高い音、丸く甘い音、乾いた渋い音、氷がころがるような涼やかな音、
虫のさえずりに似たせつない音。
一つ二つ揺れていた音が三つ四つと重なり、強い風が吹くといっせいに揺れてハ
ーモニーになった。
丸い陶器のもの、竹で作られた細長いもの、鈴のように小さいもの、レースみ
たいな細かな装飾がされたもの。
触らせてもらって、お堂の前は風鈴でいっぱいだということがわかった。
風に運ばれてお香の匂いがしてくる。
しんとした境内に風鈴と蝉(せみ)の声。
じっとしていても汗はひかないのに、ひんやりと感じられる。
エアコンの部屋にいてはわからない。
夏な京都とは、このひんやりを感じてこそのものなのだろう。
お堂の中から閻魔さまが見ている。
夜になるとライトアップされるそうだ。
夜のお祭りではお香の匂いも強くなって、ロマンチックな風の物語が見られるの
だろうか。
一つの風鈴に2人でそっと耳を傾ければ、閻魔さまもほほえまれるかもしれない。
京都の夏は、ゆかたとうちわと下駄の音。
コンチキチンのにぎやかなお祭りもええけど…、
小さなお堂で巻き起こる気ままな風のお祭りを楽しむのも、風情があっておつな
もんどすえ!
--
続いて、この文章を読んだ方からのコメントです。
タイトル 「受け取る僕の世界は」
ペンネーム 夜色鷹人(40代 男性 全盲)
「気持ちのこもった文章だなぁ」。
文章には、書き手の伝えたいことがこめられています。
「情景が思い浮かぶなぁ」。
体験を伝えたいという文章は一文一文が体験のエッセンス、主要な点となってい
ます。
「情景に音が加わった」。
風鈴を言い表す表現を順に読むごとに音を想像し、それが重なっていきます。
ことばの選び方の多彩さが、音色の多彩さを伝えています。
「手触り、触感も加わった」。
私たち視覚障害者が手を伸ばし、触れることについて、いろんな意味を考えたく
なります。
「五感(マイナス視覚)が教えてくれる」。
さらに匂いの感覚が開かれます。
そして、「ひんやり」の体験が広がる。
意味が広がる。
エアコンの「ひんやり」とはまったく違う「ひんやり」が。
「そして、イメージが心を満たす」。
夜のロマンチックなゑんま堂。
「他にも夏な京都を見つけたいなぁ、教えてほしいなぁ」。
読むにつれて「自分の心の中にある五感」が刺激されて、楽しませてくれる文章
でした。
ありがとう。
--
伝える人、それを受け取る人、それぞれが描く世界をお届けしました。
皆さんは、この二つの文章を読んでどんなことを感じられたでしょうか。
見るという感覚がそこにはない、本当にそうなんでしょうか?
私は、見る以上に見える感覚を、いや、感じる喜びをいただきました。
伝える力、受け取る力、これは見えない・見えにくいならではのバリアバリュ
ーの一つかもしれません。
バリアバリュー?、それってそもそもどういう意味?
障害を価値に変える?
変えるのではなく、培いつかむもの、いつしかそこにあるもの、
これもまた人それぞれかもしれません。
このテーマはどうも深そうです。
いつか皆さんと共有できたらと思います。
-- このメールの内容は以上です。
発行: 京都府視覚障害者協会
発行日: 2018年9月14日
☆どうもありがとうございました。