メルマガ色鉛筆第101号「メイクと私」

タイトル 「メイクと私」
ペンネーム キラキラパール(40代 女性 弱視)
 レポートの要旨です。
 子育てに必死だった頃はメイクなど気にもとめず、よれよれな顔ももろともせ
ず、
ましてやバッチリメイクのママたちといても平気だった。
その頃の私には、息子と頬寄せ合うスキンシップより大切なものなどなかった。
 それから10年、最近は鏡の中の自分をイメージしながらメイクを楽しみたい
と思うようになった。
初めてメイクをした18歳からこれまで、メイクをする、しない、ちょっとする、
緊張感を持ってする、
その程度の差はその時々の私そのものだった。
 ここから本文です。
 メイク、それは私にとっていつも自分と一体のものだった。
時に輝く笑顔を、時によれよれな自分をさらけ出すものだった。
 大好きな彼とデートの待ち合わせをする時には、
必ず約束の15分前には到着して、近くのデパートの化粧室で自分を点検した。
鏡に映る自分はベストかどうか、特に眉と口紅は念入りにチェックした。
 生まれつき弱視だった私には微妙な色あいなど判断できなかった。
だから、アイシャドウのグラデーションも、アイラインやマスカラも私の視力で
はできなかった。
 私の青春時代はビビッドな口紅とくっきり眉が主流だったから、
バランスが悪かったり、はみ出していたりするととても目立つ。
眉を左右対称に描くことは誰にとっても難しいことだから、その当時の女の子た
ちは前髪を薄くたらしてかわいく見せていた。
顔立ちにも額の形にも、そしてメイクスキルにも自信のある子だけがおでこ全開
で胸をはっていた。
人の表情がすっかり見えなくなった今でもその当時のおでこ全開の女の子たちの
顔を何人か思い出せるのは、
きっと自分にはない輝きを彼女たちに感じていたからだと思う。
 昨今は、つけまつ毛とかまつ毛のエクステンションとか、アートメイキングで
眉を作ったりとか、
さらにはカラーコンタクトで大きな目に見せたりとか、技巧的な美が当たり前の
ようにちまたにあふれている。
私の青春時代の美人は、すっぴんでもキレイで、
メイクするとさらにキレイ!という折り紙つきだった。
今の美人はどうなのかよくわからない。
作りこんだ美しさもその人の一部なんだから、要するにキレイ!ということらし
い。
私が見えにくさを重ねている間に美人の概念も広がったのかもしれない。
 自分が鏡の前に座る時間よりわが子との時間が大事だった頃にも、
ママ友とのお茶やランチではやっぱりキレイでいたくて、上品に見える口紅を選
んだ。
とってつけたようなグロスよりも、やわらかいパールがかったローズピンクやほ
んのりオレンジがかったピンクを選び、
いつでも表情が明るく見えるように心がけた。
ベージュ系の口紅が流行していた時もキレイな色目を選んだ。
 私には息子の姿が見つけられないが、息子はいつでも私を目で追っていた。
「ママはかわいいお花とかピンクが似合うから、他のママより目立ったよ」と言
ってくれた。
また、「~ちゃんのママは足のお指が赤くて、お手てにもお花があってキレイな
のに、どうしてママにはお爪に色がないの?」とも言われた。
ネイルサロンに行く余裕がなかった私には、最低限の身だしなみメイクが精いっ
ぱいだった。
「ママは点字を読むからお爪は伸ばせないのよ」とごまかした。
 思えば、私にとっての身だしなみメイクは、スキンケアと化粧下地、パウダー
ファンデーションと口紅だけだった。
チークもアイシャドウも苦手意識があって遠ざかっていた。
美白ケアも投げ出していたから、今の私の頬には目立つしみがいくつかある。
それがコンプレックスとなって毎日悩まされている。
 折しもメイクセミナーの企画を担うことになり、この春から少しずつメイクの
ツールを買い替えた。
口紅もアイカラーも2パターンずつ、キラキラベールの色調も季節ごとに変えて
いる。
コンシーラーは家族の目を借りていたが、毎日なんとか自力でつけられるように
なってきた。
日々鍛錬すれば、アイテムが増えてもきちんと同じ時間に家を出ることができる
ようになる。
一度定番になると、どれが欠けても外に出るのがいやになる。
それがメイクの魔法だ。
私にとっての最低限、そのラインが少しずつ上がっていくのを感じ、新しいもの
を選ぶ時はとても楽しい。
 チークとアイブロウ、目の際にほんのり入れるアイカラー、この3アイテムは
メイクセミナーで久しぶりにトライした。
それ以外のアイテムは日々使い慣れているので混乱はないが、新しいもの、久し
ぶりのものには戸惑うこともある。
何度も体感しながら自分でできるスキルにまでしたいと思うので、新たなツール
選びは慎重になる。
 一緒にメイクセミナーを受講したお友達の中には、
手順の違いや日頃のメイク用品と異なることから、スキンケアであっても初トラ
イだった人が多かった。
見えない・見えにくいと、手間が少なくて失敗がないことを基準にものを選ぶこ
とが多いように思う。
ただ、メイクは手間をかけただけお肌の健康に直結するし、
ポイントメイクはその場で答えが出るといえるほどその人らしさを引き出す。
アイシャドウ、チーク、アイブロウも身だしなみメイクの中に含まれていたこと
から、
いかに今まで私の身だしなみに問題があったのかを痛感した。
 私は化粧品を選ぶ際、たくさんの質問をする。
そして、言葉の説明と体感で覚えるために、右半分を一度は美容部員さんにやっ
てもらう。
左を自分でやってみて、一人でできそうだったら買うことにしている。
手の動かし方のくせなどを見てもらい、一人の時に活用できるように心がけてい
る。
 今回のセミナーでは、指で塗るアイカラーを使用した。
日頃から使用しているものと同じシリーズだったので、使いやすかった。
ただ、どうしても眉頭に色がかたよりがちで、はみ出すので、ついたものを消す
練習もした。
自分のくせを理解しておけば、修正も可能になるとわかった。
 また、セミナーの途中、自分の知りたいことをいかにしてセミナースタッフに
伝えるかということが大事だと痛感した。
受講者の質問力がアップすれば、スタッフ側にとってはより深く広く伝えるため
のスキルになるであろう。
「どう言ったらいいかな・・・」、この言葉はわかり合うことを想定するという
よりも、困難だというあきらめを呼ぶ。
見えない・見えにくい私たちが、少しでも具体的に比較物を用いながら質問でき
たら、半分閉まった扉が開くかもしれない。
「薄いとかほんのりって桜くらいのピンク?」とか、「やさしくくるくるってこ
んな感じでいいの?」とか、
私たちから見える相手に伝えるための方法は、言葉とジェスチャーの中にある。
 ただ、誰もがそんなチャレンジャーになれるわけではない。
一度の失敗や傷心が二度目をさえぎることが多い。
特にメイクはあきらめポイントになりがちだ。
私もそうだった。
だからこそ、視覚障害女性に特化したメイクセミナーやその継続的支援が必要だ
と思う。
仲間とわいわい楽しみながら情報交換したりできるような場からでも、あるある
失敗談満載からでも、
晴れやかになれる自分を見つけてもらえたらと思う。
 結果、フルメイクができるかどうかでなくていい。
身だしなみメイクのラインも個別性があっていい。
こうすればできるんだ!、メイクという女性ならではのツールから見い出すこと
ができたならと思う。
 しょんぼり、がっかりな日も、やっぱり私は明るい笑顔の似合うメイクカラー
で家を出る。
それだけでもほんの少し自分を癒せる。
化粧直しだって、手間だけど、そのたびにキレイでいたいという気持ちをわずか
でも持つひとときになる。
まあ、それも悪くない。
ついでにお気に入りのトワレで少しリラックスするようにしている。
 先日、夫とデートした。
夫との外出はもっぱらスーパーかドラッグストアばかりだが、久しぶりに彼の買
い物に付き合ってあちこち歩いた。
ついでに私もチークを買った。
「ねえ、かわいい?上手についてる?」、その問いに「大丈夫」としか答えない
夫。
しつこく「キレイ?ねえ、キレイ?」と半ば脅迫する私。
とはいうものの、夫はついでに美容部員さんからチークのつけ方を習っていた。
 ちなみに、夫は時々私にネイルをしてくれる。
というか、これも私に脅迫されながらやってくれている。
でも、夫のネイルはみるみる上達している。
大したものだ。
「ネイルなどまったくいらないものだ」と夫は言うが、
見事に私の機嫌がよくなるので、「いらないものではなさそうだ」とは感じつつ
あるようだ。
 しわもしみもできて、白髪も増えて、おデブになった私だけど、
私を選んで生きることを曲げなかった夫にはやっぱりずっとかわいいと思われた
い。
そして、年齢を重ねた夫の顔を知らない私は、今もアルバムの中の夫を頭に描い
てしまう。
いつまでも若い日のままの二人がそこにいる、もうそんなわけないのに。
 メイクセミナーに関わり、その中身について考える機会を得たことで、
ほんの少しだけど、あなたにとってかわいい私でいたいなんて、そんなしおらし
いこと考えることになった。
おかしなことだけど、やっぱりメイクには女を変える魔法がある。
気持ちを変える魔法がある。
化けるのではなく、自分の魅力を引き出す魔法、気持ちをアップさせる魔法、た
くさんの可能性があるのかもしれない。
 そう考えると、見えない・見えにくい暮らしに彩りを添えてくれるメイクを安
心して体験できる場が広がるといいなと思う。
そして、いろんな情報をみんなで出し合える場をつくっていきたいと思う。
また、色鉛筆の中で「これ、おすすめだよ」なんていう話ができたらうれしい。
 メイクと私、See you again.
メイクセミナーお問い合わせ先
社会福祉法人日本盲人会連合メイクアップ推進協議会 事務局
(カラフル大阪事務所内)
メールアドレス  make★makeupseminar.jp(メールアドレスは★を半角のアットマークに変更してください)
電話 06-6225-7983 
代表幹事 赤堀浩敬 携帯電話 090-5094-8735
編集後記
 「視覚障害者のためのメイクセミナーよ、バリアの突破口、難関の突破口にな
れ!」、
思わずそう叫びたくなりました。
セミナーを開催された主催者のみなさん、参加者のみなさん、おつかれさまでし
た。
このような場をみんなで共有し、大切に育てていきたいですね。
 人は悲しいから泣くのか、泣くから悲しいのか、実は判然としない、よくわか
らないそうです。
楽しいからメイクするのか、メイクするから楽しいのか、
キラキラパールさんの今回のレポートはそこに一歩一歩入っていかれていて、そ
の足どりが女性らしいですね。
自分でやって、あるいは人にやってもらって、どっちであっても、メイクをして
おしゃれをしてお出かけする。
またそんな機会があればいいと思うのは、魔法にかかったせいかもしれません。
-- このメールの内容は以上です。
発行:   京都府視覚障害者協会
発行日:  2017年8月25日
☆どうもありがとうございました。


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