通学路での安全な信号機の設置を求めて

丹後視力障害者福祉センター(あい丹後)
京都府中途失明者巡回生活指導員  堤 隆志(つつみ たかし)
 この夏、福知山市内の府道の歩行者用信号機が、新たなシステム(白い箱の押しボ
タンを押すと約5秒間、青色の点灯時間が延長されるもの。以下「白い押しボタン箱
」と記載)の信号機に変更され、同時に、LEDの鮮明な光になりました。
 ここに至るまでの、4年を越えたご家族や学校関係者、地域の皆さん、福知山市視
覚障害者協会、そして支援者が話合い、協力し合ってきた運動を紹介します。
 2016年4月、弱視の児童が一人、小学校に入学しました。同行援護サービスの利用
について、ご両親からの障害者生活支援センター「青空」への相談が始まりです。支
援センターを中心に眼科医や京都ライトハウスの歩行訓練士、学校関係者、そして相
談員が、ご両親と相談し、通学路を点検し、危険箇所の改善策を地元の警察署やJR、
市役所などに要望しました。ほとんどが改善されましたが、「ピヨピヨ、カッコーカ
ッコー」の「音」が出る音響式信号機の設置については、「住民全員の賛同が必要」
とのことで、すぐに改善される見通しはありませんでした。
その後、民生児童委員さんや地域の自治会長さんと集会所などで、夜間に相談を重ね
ました。そんな中で、見つけたのが「高齢者・視覚障害者用LED付き音響補助装置」
でした。これは、本体が1.2メートルくらいの高さのポール状で歩行者灯のほぼ真下
に設置されます。低い位置の表と裏にある、それぞれ形が違う青と赤のLEDライトが
鮮明に点灯し、「音」が出ます。同時にポールの上の部分が振動して、青に変わるこ
とを手に伝える装置です。早速、地元の警察署に設置を要望し、京都府警へ繋げてい
ただきましたが「地下に水道管が通っており、破損の恐れがあり工事できない」とい
う返事でした。そこで、視覚障害者協会会員や地域の方々の署名を添え、福知山市視
覚障害者協会会長名の要望書を携えて京都府警へ出向き、この補助装置の認可を要望
したところ「他府県では認可・設置しているが、京都府では、補助装置として認めて
いない。道路交通法の第76条による『信号機に類似する工作物をみだりに設置しては
ならない』というのが根拠である。」という理解し難い返事でした。しかも、文書で
の回答は、できないとのことでした。この補助装置については、2019年に議員への要
請により、京都府議会で取り上げていただきました。今後の進展を望んでいます。
こうした経過の中、地元住民の方々に「音」の理解をしていただくために次のような
ことも行いました。長岡京市にある「歩行者誘導付加装置」という『信号が青になり
ました』と、しゃべってくれる装置も見に行き、録音もしました。さらに、音響式信
号機の「音」や現地での自動車の「音」を録音して聴いていただくとともに、騒音測
定器での測定数値を比べて示したりもしました。「見えにくい、見えない」方には、
信号機の「音」が重要ですが、そのことを理解していただける方がある一方で、その
場所で暮らす方にとっては、「今以上の『音』は不要で、受け入れられない」という
、ご意見もあり、全ての方に理解していただくことはできませんでした。
京都府警からは「白い押しボタン箱」信号機の情報をもらっていました。残念ながら
「音」は出ませんが、高齢者や子供、そして妊娠中の方や車いすで移動する方など"
交通弱者"になってしまう方々が少しでも余裕を持って道路を横断できるようにと、
近年、少しずつ設置数が増えてきています。
2019年、弱視の児童は4年生になり、歩行訓練士との下校の訓練も4年目に入りました
。やがて白杖を使っての歩行に移りましたが、ランドセルの重さも手伝ってか白杖を
引きずったりしながらも、しだいに使いこなせるようになりました。そして、別の場
所に設置されていた「白い押しボタン箱」の信号機で道路を渡る訓練も取り入れられ
ました。お父さんも見守られる中で、自分でボタンを押して、ボタンの上下にある"
小窓"に出る「ふれてください」か「おまちください」の違いを顔が当たるくらいま
で目を近づけて確認し、次に、止まっている自動車や近づいて来る自動車の「音」を
確認して渡り始めます。これを何度も繰り返しました。本人の意思も含めて、一人で
も渡れることを私たちは確信し、ご両親は、この信号機の設置を希望されました。
2019年2月、近隣町内会の会長さんのお力添えをいただき、この信号機の設置を求め
る要望書を地元の警察署を通して京都府警へ提出しました。
提出後、7か月も経過した9月になり、突然、京都府警の担当者から、ご両親に「訪問
して相談したい」という連絡がありました。ご両親は、「音が出ないという不安はあ
るが、近隣の方々に迷惑をかけられないので『白い押しボタン箱』信号機を希望しま
す。」と直接、伝えられました。そして、2020年1月、地元の警察署から、ご両親や
支援者に、「この信号機の設置と歩行者灯をLEDライトに変える決定をしました」と
いう連絡がありました。
5年生になった8月、突然の連絡から約1年後、やっと「白い押しボタン箱」の信号機
が設置されたのです。
出発点は"たった一人の児童のこと"で、関わる者も限られた取り組みでしたが、時間
とともに地域の多くの方々の関わりやご協力をいただき、不安の真っただ中におられ
たご両親を励まし、警察を含む行政機関を動かす運動へと発展しました。様々な困難
もありましたが、みんなが諦めずに一生懸命に考えて動きました。結果的には、「音
」が出ない信号機になりましたが、たとえどんな信号機でも100パーセント安全に道
路を渡れるわけではありません。高齢者や学校の生徒が多い地域です。地域の皆さん
の見守りや配慮、一方で、自動車を運転する私たち自身が、より一層の安全・安心を
つくっていけると信じています。
最後に、お伝えしたいことがあります。「地域の皆さんに知っていただけることで、
本人の安全が守られるのなら」と子供さんのことをご両親が説明されることもありま
した。視覚障害の方が、どんな生活をして、家族の方もどんな思いで過ごされている
のか、ということを多くの方に具体的に知っていただき、さらに困難解消への協力も
していただいたことが、この運動の最大の成果と言えるのではないでしょうか。


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