メルマガ色鉛筆第261号「春風の男の子」

タイトル 「春風の男の子」
ペンネーム ホットブラウン(50代 男性 全盲)
レポートの要旨です。
 なかなか終息しないコロナ、
遠出したいな、あの人に会いたいな・・・。
今回お届けするのは、家の傍を散歩中のエピソード。
半径300メートルのお話です。
近所の公演のベンチに腰掛、風を感じながら読んでいただけたら、
そんな思いでお届けします。
ここから本文です。
 穏やかな午後の陽ざしを感じながら川辺を散歩していました。
帰り道、橋の袂の階段を上がろうとしていたら、橋の上から
「そこから階段です」という声が聞えます。
上がっていくと、
「そこから平な所です。
また、階段です」と声掛けは続きます。
階段を上がっていくと、その声の主は男の子でした。
「ありがとうね。
おじさんは橋を渡って大きな通りの方に行くね」と言うと、
「僕もそっちに行きます」とのこと。
なので、一緒に歩いてもらうことにしました。
男の子は私の少し先を歩いて行きます。
「下り坂になります。
もう少しで信号です。
前に行くと壁だから、もう少しこっちです」
男の子は適切なタイミングで声をかけてくれます。
春から小学4年生だと教えてくれました。
 私はちょうど10年前に出会った女の子のことを思い出しました。
リハビリ期間を終えて復職するため、通勤経路の確認をしていた時に
声をかけてくれた女の子がいました。
たしか彼女も4年生になるところだったなと。
自然に私の足取りは軽くなりました。
10年前の女の子は、まるで小さな歩行訓練士のようでした。
今日の男の子の声かけタイミングも絶妙です。
 大通りとの交差点でお礼を言って、私は角のカフェに入りました。
テイクアウトしたコーヒーを店の脇で飲んでいるとさっきの男の子の声がします

「鍵を忘れちゃったからお母さんが帰ってくるの待ってます」
私はコーヒーを飲むペースをゆっくりにして、ちょっとお話することにしました

「白い杖で歩いていると、いろんな人が声かけてくれてすごくうれしいんだよ」
というと、
「人間、障害があってもなくても同じ人間だと思っているから」と男の子。
鍵を忘れて待っていることは、お母さんに伝わってないので、
おじさんの僕はどきどきしていました。
「遅くなっても大丈夫」と男の子は堂々としています。
4月から1年生になる妹が幼稚園にいるとのことで、
それなら、お母さんもそんなには遅くならないだろうと、ちょっと安心です。
自分のことを上手に話すことで、必要な情報を自然に伝えることができている少
年、
なかなかすごいです。
今、こうだよということを適切に言葉にできているから、
私への声掛けも自然だったのでしょうね。
 10分くらい話していたら、お母さんが帰ってきました。
橋のところから声かけてくれたことを伝えると、
「また、なんでも聴いてくださいね」とお母さんは嬉しそうです。
お母さんは男の子を信頼しているから、そういう言葉がすっと出てくるのでしょ
うね。
2月だけど最高気温が16度になった日、
優しく頬を撫でる春風のような親子との出会いでした。
編集後記
 ホットブラウンさんの散歩道、今回のエピソードの舞台は近所の川でした。
この散歩道ではこんなことも。
前から楽しそうで賑やかなこどもたちの声
建物側に寄って、歩調を緩めて、「こんにちは」というと、
大きな声で「こんにちは」がかえってきます。
最初の子に続いて、すれ違う、みーんなが、ちょっと上を向いて私の顔の方に向
かって「こんにちは」と言っていきます。
私は一人一人に「こんにちは」をかえしていきます。
元気な「こんにちは」は、15回くらいかな。20回くらいかな。
たくさーんの「こんにちは」が、橋の袂から風に乗って海の方へこだましていき
ます。
 今回、この橋をめぐるもう一つのエピソードを教えていただきました。
「いつもの場所で特別ではないあいさつ、それがうれしい、あったかい、
そう感じたことを伝えていきたい」とホットブラウンさん。
その声は川辺から山も川も越えて色鉛筆でこだましています。
 -- このメールの内容は以上です。
発行:   京都府視覚障害者協会
発行日:  2022年4月1日
☆どうもありがとうございました。


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