メルマガ色鉛筆第237号「はじめての味、食の引き出し」

タイトル 「はじめての味、食の引き出し」
ペンネーム 赤白に加茂茄子(50代 女性 弱視)
レポートの要旨です。
 これまでいろいろ食べてきました。
やや食べ過ぎた私は、きちんと太っています。
生まれてはじめて食べた、感動した、そんな経験は何度かありました。
一方、食べるものもなく生きることに必死だった時代を生きてこられた方のお話を拝
聴します。
それは戦前戦中戦後の厳しい時代のお話です。
言葉では理解できても、体験したわけでない自分には本当の意味で理解できていない
のです。
食べることが厳しかった時代を知る人と私が、「この味はじめてだ、感動だ」という
経験をすることがあります。
今回は、そんな「食」に関する感動と感謝の一コマをお届けします。
ここから本文です。
 我が家の夏の麺と言えば、手延べ素麺が定番だった。
夏休みの昼ごはんと言えば素麺、錦糸卵と干しシイタケの炊いたん、おろししょうが
を入れるのがお決まりだった。
細くてさらさらなのに腰がある素麺に油が使われているなんて、子供の頃には想像も
していなかった。
テレビのニュースで素麺を干す光景を何度か見たことがある。
白い絹糸のようできれいだった、今も目に浮かぶ、ぼんやりとだが。
 今年の初夏、私ははじめて「白石温麺(しろいしうーめん)」と出会った。
みちのく宮城の名産麺だ。
その昔、孝行息子が油を使わない麺の製法を教わり胃病の父に食べさせ病が全快した

白石城の片倉小十郎公は、孝行話の「温かい思いやりの心」を称え、その麺を「温麺
(うーめん)」と名付け、地場産品として奨励したそうだ。
白石温麺は、「油を使わない手延製法」を忠実に受け継いでいる。
一本一本丁寧に延ばし仕上げた伝統の逸品だ。
干した麺(乾麺)は極めて自然な原料(小麦粉と塩)で作られ、常温での保存性もよ
い。
保存料や添加物を一切必要としない安全な食品だ。
通常の素麺より一回り太く、麺の味をしっかり感じることができる。
麺の長さは9センチと短いのが特徴で、小さな鍋でも楽に茹でられ、つゆハネが少な
いのが嬉しい。
私が温麺と出会うことができたのは、料理一筋の人生を歩いてこられた弱視の友人の
おかげだ。
彼は私が台所で感じている困りごとや、母の療養食の相談にのってくれた。
専門家ならではの適切なアドバイスの一つ一つがありがたい。
のどがつまりやすく、消化器に負担をかけないレシピとして、母の大好きなビシソワ
ーズや野菜たっぷりのドレッシングなどを紹介してくれた。
彼のアドバイスを実践すると、不思議なほどうまいこといった。
実は見えにくいなりに、見えないなりに私の料理は我流でこれまでどうにかなってい
たけれど、介護を要する母の療養食はあと一歩のところでうまくいかないことがあっ
た。
ビシソワーズも丁寧に作ってはいるが、濃度の調整が少し違うだけで、母に喜んでも
らえない。
普通食としてなら問題なくても、高齢者に寄り添う仕上がりに到達できていなかった

ミキサーの刃金を注意深く洗いながら、「こんなにやっても文句しか言われない」と
いうむなしさだけが残っていた。
私の我流の限界だったのだろう。
彼のアドバイスを母に話した。
ありがたいありがたいと、彼のアドバイスを聴いただけで母は喜んでいる。
遠い地のあったこともない誰かが、自分のためにどうしたらええか考えてくれはる、
ありがたいと。
そんなありがたい彼からの温麺は、母とはじめて食べて感動した夏の冷製パスタに見
立てて食べた。
私の我流の冷製温麺、トマトソースに加茂茄子をトッピングしたもの、それをゆっく
りと食しながら、母が言う。
「ああ、昔阪急百貨店の上で食べたあの冷製パスタおいしかったなあ、こんなおいし
いもんがあるんやって感動したなあ、高島屋のレストランのあのお素麺みたいに細い
冷製パスタもさっぱりしておいしかったなあ。もう食べられへん、麺は無理やと思て
たのに、ありがたいなあ」
そう話しながら私の我流の温麺を注意深く少しずつゆっくりと食べているはじめての
温麺はかつてのはじめての食の引き出しとともに、幸せなひとときを運んできた。
いつものリビングのいつもの我流の私の料理だけれど、そこにある記憶と、どうにか
おいしく食べられますようにと頭をひねってくれた友人のあったかい気持ちが、引き
出しをノックしてくれたのだ。
ほんまにありがたい、ありがたい。
孝行息子の温かい想いが名となった温麺、毎日親不孝ばかり、苦労ばかり、心配ばか
りかけている私を支えてくれる麺となった。
0.5合のおかゆを3回に分けて食べる母のために、この夏はミニミニサイズの温麺
に挑戦だ。
いろんなアレンジで小鉢サイズの温麺を試してみたい。
また、母のことだから「今日のは気に入らない」と文句は言うだろう。
同じものでも日によって合格と不合格があるのだ。
「そんなこと言われても知らんがな」と腹を立てつつ、母と娘、それぞれの食の引き
出しに一つの記憶が収まっていく。
「ああ、おいしかった、またしてや、またこしらえてや」
そんな憎らしくもかいらしい、母の声を記憶していたい、ぼんやりでなく、しっかり
と。
≪夏野菜の冷製温麺レモン風味≫
 夏野菜を1センチ角切りにし、オリーブオイルをひいたフライパンで炒める。
 加茂茄子、万願寺唐辛子、パプリカ、キノコ、ズッキーニ、オクラ、玉ねぎ、なん
でもお好みのもので大丈夫。
 トマトも1センチ角切りにし、炒めた具材と一緒にしてレモンドレッシングをかけ
、冷蔵庫で冷やしておく。
 温麺を茹でて、しっかり流水でしめる。
 麺を器に盛り、冷蔵庫で冷やした具材を乗せる。
<コツとポイント>
 喉に食べ物が詰まりやすい方は、炒めるだけでなく途中で少しお水を入れて蒸し焼
きに。
 麺の固さは食べる方に合わせて。
ドレッシングはシンプルでさらっとしたものがおすすめ。
<アレンジ>
 ドレッシングにプラス、生のレモンを絞り、レモンの黄色い皮の部分をすりおろし
て入れても良い。
 ボリュームがほしい時はサラダチキンや生食用の魚介をプラス。
 ドレッシングの代わりに、トマトソースを冷やして混ぜてもgood。
 さらにさっぱりしたい時はトッピングに大葉の千切りを。
編集後記
 「こんなにやっても文句しか言われない」、本当に苦心して様々に何度もやってみ
られたんだろうなぁ。
療養食としての食べやすさや栄養バランスと、料理としてのおいしさの両立。
むずかしい。
試しつづけて、でもむずかしくて、もうだめかと弱気になったところで、道が開けた
ようですね。
 料理一筋のご友人も思ったそのままを言われるお母様も、赤白に加茂茄子さんが料
理をもっともっと自分のものにして、こんなにやったさらにその先を思い知らせてく
れるご縁になっていました。
おいしいものを作ることのできる赤白に加茂茄子さん、おいしいレシピを一品、また
一品と増やしていって、またおしえてくださいね。
-- このメールの内容は以上です。
発行:   京都府視覚障害者協会
発行日:  2021年8月6日
☆どうもありがとうございました。


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