メルマガ色鉛筆第233号「全盲夫婦の結婚式 準備編」

タイトル 「全盲夫婦の結婚式 準備編」
ペンネーム 青のシンフォニー(30代 男性 全盲)
★レポートの要旨です。
 2020年11月29日。
それは我々夫婦にとって、掛け替えのない1日となった。
入籍して1年半。
我々全盲夫婦にとっての新たなスタートとなる結婚式を、ようやく迎えることができ
たのだ。
そんな一生に一度しかない(と思いたい)この日を迎えるまでの、長い長い物語を、こ
こでお話ししたい。
まずは準備編から。
★ここから本文です。
 「結婚式がしたい。」
入籍して約1ヶ月。
初夏の蒸し暑さを感じ始めたある日、妻がそう言った。
その言葉は力強かった。
もう僕に選択の余地はないのだ、すぐに確信した。
夫婦生活のコミュニケーションには「相談」と「共有」の二つがある。
前者は純粋にどうしようか迷っていて僕の意見を求めているとき。
そして後者は自分の中ではもう決まっていることを、あくまで「相談」という体裁で
投げかけてくるとき。
付き合っている頃はその微妙なニュアンスをつかめずにけんかをすることもあった。
入籍してからは妻の第1声でそれがわかるようになってきた。
妻の「結婚式がしたい」という言葉は僕の中で、「結婚式はするんだけどどうやって
進めようか」という言葉に自然と変換された。
僕自身の名誉のために言っておくと、別に結婚式に反対だったというわけではない。
ただ、周りの先輩などから結婚式の準備の大変さはいやというほど聞かされていたの
で、妻がやりたいならやってもいいかというのが本音だった。
 結婚式をすると言っても何から始めたらいいのか。
文字通り右も左もわからない状態で、ひたすらインターネットで式場のリストを眺め
ていた。
「最高の景色と共に」や「歴史あるチャペルで」など、画面にはキャッチコピーだけ
が踊っている。
これだけじゃ想像がつかない。
おそらく式場の写真もたくさん出てきているのだろう。
もちろん全盲の我々にはなんの意味もない。
実際に行ってみるしか何もわからない。
まず我々の最初の挑戦は、雰囲気すら想像できない式場見学そのものを見学すること
だった。
それならば何を重視して最初の見学先を選ぶか。
「最も高価な特典がついているブライダルフェアに行こう」と、なんともドケチ精神
丸出しで式場見学に挑戦した。
今考えたら大変失礼な話である。
 最初に訪れたのは神戸の老舗ホテル併設の結婚式場。
ブライダルフェアに参加するだけで、なんとそのホテルのペア宿泊券とペアディナー
券がもらえるという大判振る舞いだ。
もちろんブライダルフェアへの参加は無料である。
早速インターネットから予約をした。
我々が全盲の視覚障がいを持った夫婦であることは、特に伝えていなかった。
それも含めて、その式場のありのままを知りたかったからだ。
もし仮に、当日現地で対応を断られたとしても騒ぐ気など我々には毛頭ないのであし
からず。
ご縁がなかったと思うだけだ。
そんな心配とは裏腹に、当日対応してくれたスタッフの方はとても丁寧だった。
「どのように誘導させてもらったらいいですか」や「説明できることはできる限り言
葉でお伝えしますので」などと、きめ細やかな配慮が伝わってきた。
フェア特典がいいので見学に来ましたとは口が裂けても言えなかった。
書類を隅から隅まで読んでもらったり、実際に式場や宴会場を案内していただいたり
と、我々にとって初の式場見学は4時間以上もかかって無事終了した。
結婚式というものを初めて具体的にイメージできた1日だった。
 我々が挙式をしたララシャンス神戸という式場との出会いは、見学にもある程度慣
れてきた頃だった。
その日もいつも通り、インターネットでブライダルフェアの予約をして現地に向かっ
た。
式場のスタッフが我々を見つけるや否や、少々お待ちくださいという言葉を残して立
ち去った。
5分ほどして戻ってきたスタッフさんの手に握られていたもの。
それは、たった今書かれたばかりの点字の名刺だった。
「読めますか?今インターネットで調べてペンで作ってみました。」
我々は感動の余り言葉が出てこなかった。
そしてその瞬間、我々はそこで結婚式を挙げることを決めた。
 式場を決めただけで浮かれていた我々だったが、式の準備というものはそれからが
本番だった。
まず挙式のスタイルはどんなものがいいか。
人前式や神前式などと聞いても想像がつかない。
カジュアルな式かそれともかっちりした式か、プランナーがわかりやすい言葉を選ん
でくれる。
次に披露宴はどうするか。
ゲストは何人ぐらい呼ぶか。
次から次へと決めることばかりで頭が痛くなってくる。
何回目かの打ち合わせの時に、あまりに判断のつかない我々に業を煮やしたプランナ
ーが、結婚式でこれだけは譲れないものってなんですか?と問いかけてくれた。
それに対して我々は、触ることと食べること、と答えた。
軸がしっかり握れてからは、それまでとは打って変わってスムーズに進んだ。
我々の意図に即してウェディングケーキの模型を作ってくれたり、披露宴の席次表を
点字で書いてくれたりと、プランナーの方には感謝してもしきれない。
そして我々にとって特筆すべきことはもう一つある。
視覚障がい者は新郎新婦にとどまらないという点だ。
もちろんお迎えするゲストの中にも視覚障がい者は多くおられる。
その方々にいかに楽しんでもらうか。
それこそが我々が結婚式を挙げる意味であり、腕の見せ所でもある。
準備が進むにつれて、むしろ健常者の方がマイノリティーであると言わんばかりに、
ブラインドメインの結婚式準備は着々と進んでいった。
次号につづきます。
編集後記
 不自由、障害のことを考えるとき、「かきくけこ」で始まる大切なことがいくつも
あります。たとえば、感心、協力、経験などなど。
それで言うと、今回は決心と工夫だなぁと思いました。
もちろんそれだけにとどまりませんが、やろうという思い、どうやったらよいだろう
という思案のしどころが、まさに決心と工夫です。
 そして、もう1つ、そこに感じるものがありました。
それは2人でなら何とかなる、2人でならがんばれる、みたいなきずなです。。
そして周囲の人はそんなお2人を応援し協力してくれます。
いやー、先が楽しみなご夫婦ですね。
 後編「開催編」は来週にお届けします。
-- このメールの内容は以上です。
発行:   京都府視覚障害者協会
発行日:  2021年6月25日
☆どうもありがとうございました。


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