メルマガ色鉛筆第217号「ゆっくりじっくり」

タイトル 「ゆっくりじっくり」
ペンネーム ホットブラウン(50代 男性 全盲)
レポートの要旨です。
 新型ウイルス流行が続いています。
出かける機会が少なくなって、結果、自分と向き合う時間ができたという人も多いこ
とでしょう。
立ち止まることでできるようになったこと、感じられるようになったことはありませ
んか?
見えなくなってから私にあったいくつかのこと、
温かいココアでも飲みながらご一緒ください。
ここから本文です。
 見えなくなってから、およそ10年。
歩く速度はゆっくりになったけど、それまでの40年と同じくらい、もしかしたらそ
れ以上に、心に残る出来事が多かったと感じる。
歩くことも、炊事や洗濯などの日々の日常も、今まで以上にしっかりとした感触があ
り、一つ一つ刻み込まれていくようだ。
 例えば、台所で包丁を握っている時、この柿はもう少し熟してから食べようと思っ
たり、チンジャオロースが上手にできた時の味を、随分長い間覚えていたりする。
コーヒーの酸味や深みも感じられるようになってきた。
特別に新たな能力が出てきたわけではない。
見えていた時はコーヒーを飲みながらメールを読んだりしていたけれど、「ながら」
ができにくくなったことで、私のガサツな神経がコーヒーに「全集中」となるようだ

そう言えば、チャチャッとキーボードを叩いていたときは、誤字脱字も多かった。
 すばやくは動けないから、ギリギリに起きて駅まで猛ダッシュという訳にはいかな
い。
必然的に早起きになった。
東側の窓を全開にして気持ち良い空気と朝陽を吸い込んだら自然に朝ごはんもしっか
り入る。
髭剃りも急ぐと剃り残ししたりするので、床屋さんのようにじっくりと。
見えないと歯医者に通うのも大変なので、歯磨きも丁寧になったと思う。
大事な大事なお弁当、パンも持ったか、しっかりチェックする。
ハンカチよし、携帯電話よし、財布よし。
こんな朝になったことで、忘れ物は見えている時よりも減ってきた。
 駅までの道は、みんな急ぎ足。
だけど、私はまるで散歩しているよう。
公園から漂うほのかな甘い花の香りに春を知り、銀杏の香りにちょっと寂しい秋を感
じて進む。
ゆっくり歩いていると、人の目にもつきやすいのだろう。
声を掛けてくれる人も多い。
 ゆっくりめに動くとお得なことも起こる。
電信柱に当たっても、鼻血ブーにはならず、静かなところなら、自転車が近づいてく
る気配も察知しやすい。
自分の渡りたい方向が青信号でも、次の青信号まで待てば、左折してくる車との接触
リスクだって減らせる。
 サクッと早く出来ること、チャチャッとこなすことが良いこととされる、そんな風
潮があるけれど、せかせか歩いていた時は躓いたりこけたりすることも多かった。
でも、ゆっくりが大好きになった今の自分はヨガマットを抱えて出かける友人の気持
ちがとても良くわかる。
 日々の日常の些細なことでも、その一つ一つを感じ、とまどいつつ、受け止める、
そんな一瞬一瞬の繰り返し。
見えていた時の自分は、見たつもり、わかったつもりで、いろいろなものをさらっと
流してしまっていたように思う。
見えない生活にも慣れてきて、少し急ぎ足でも歩けるようになってきたが、時に立ち
止まって自分自身と向き合えば、周囲の優しさも今まで以上にしっかり、じっくり味
わえる。
慌てずじっくり、休みつつ、今見える新たな景色を楽しんでいきたい。
編集後記
 見えない世界にも、この街のルール、この業界のルール、みたいな中のルールがあ
るように思います。
その1つが「ゆっくりじっくり」であり、もう1つが「かくれた良いことを発見する
」であり、だんだんそれが中にいるとわかって来るとも言えます。
 ホットブラウンさんが伝えてくれる、ふつうの日常だけど大切なことがいっぱい詰
まっている毎日。
そんな日常そんな毎日が、私達の周りにもあるよね、きっと。
ゆっくりじっくり、慌てずじっくり、休みつつ、今年もよい年にしたいものですね。
-- このメールの内容は以上です。
発行:   京都府視覚障害者協会
発行日:  2021年1月15日
☆どうもありがとうございました。


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