メルマガ色鉛筆第213号「1十色の研究その2 色恋沙汰はいかがでしょう」

タイトル 「1十色の研究その2 色恋沙汰はいかがでしょう」
ペンネーム:カラフル幕府 (40代 男性 光覚)
レポートの要旨です。
 神様から配られた色々なトランプのカード。
視覚障害もそのうちの一枚である。
このカードのせいで苦労することもある一方、
このカードのおかげでこうしてメルマガ色鉛筆と巡り会えたりもしているから、本当
に人生というものはわからない。
 さて、色といえば「色恋沙汰」なんて言葉がある。
百人一首でも「忍ぶれど 色に出でにけり 我が恋は」なんて歌がある。
しかし色が見えなくなった僕たちでも当然恋はするわけで、今回は恋心のカードを使
って書いてみたい。
これはそんな雑記まがいの自己研究レポートである。
ここから本文です。
 僕は中途失明者だが、目が見えなくなる前と後で恋心は変化しただろうか。
まず確かなのは、一目惚れはもう起きないということ。
姿を見た瞬間に雷に打たれる怪奇現象は残念ながらもう起こりようがない。
目と目で通じ合う、君の瞳に恋してる、とはならないわけである。
 しかしそう捨てたものでもない。
一目惚れはなくても一耳惚れは十分ある。
素敵な声の女性に出会うとドキドキする。
お耳の恋人という呼び名も懐かしいが、一昔前は顔出ししない声優さんやラジオのD
Jも結構いらっしゃって、その美声でたくさんのリスナーをときめかせていたものだ

人は声だけでも恋に落ちるということだろう。
 ただ、顔が見えないとはいっても、声から無意識にイメージしている姿はある。
聡明な声には知的なメガネ、低音を含んだ声にはスラリとした肢体、舌足らずな声に
は黒髪のポニーテール、鼻にかかる声には茶髪にピアス…といった具合だが、もちろ
ん実際にはそんなはずはない。
ダミ声の純和風美人もいれば、声は清楚なワイルドギャルだっているだろう。
かといってわざわざ答え合せをすることもない。
幸福とは得てして主観的なもの。
僕が絶世の美女だとイメージしている女性が、実際には平安時代の美女だったとして
も何ら問題はないのだ。
恋は盲目とは、まさに本質を突いた言葉である。
 いい加減女性読者から物が飛んできそうなので冗談はこれくらいにして、視覚障害
がある状態で恋愛ができるか、という永遠のテーマを考察してみよう。
 例えばデートひとつするにしても、ダーツやビリヤードは難しいし、遊園地のアト
ラクションにも制限があるかもしれない。
百万ドルの夜景を眺めることもできない。
ただ待ち合わせして、街を歩いて、店で食事をするだけでも、少なからず相手にサポ
ートしてもらうことになる。
 確かに見方によっては微笑ましい。
夜盲症がある僕のお袋は夜道では親父にくっついて歩くのだが、事情を知らない人か
らは熱愛夫婦のように思われていた。
親父は新幹線で前の座席の人が読んでいる文庫本の文字が見えるほど視力が良い。
しょっちゅう喧嘩もしているが、なんやかんやでお袋にはベストパートナーなわけで
ある。
 しかし、僕自身はやっぱり難しい。
助けがなければ生活できないのは認めているつもりだが、未だにちっぽけな男のプラ
イドのようなものはあるもので、デートをするなら自分がエスコートしたいなんてつ
い思ってしまう。
誘導してもらう時に、不用意に手を伸ばして相手の身体を触ってもまずい。
オシャレも褒めてあげられない。
不良にからまれても守ってあげられない。
気を遣わせているんだろうなと思うと、一緒に出掛けても楽しんでくれているのか不
安になる。
僕のサポートなんかよりも、君自身の夢のために人生を使ってほしいと願う。
 そんなわけで、僕がもともとド変人という点を差し引いても、少なからず視覚障害
のカードが恋心のカードの効力を阻んでいるのは否めない。
でもそれが結論では寂しいので、ここからが本領発揮。
ハッピーエンドの結論になるように研究してみよう。
ズバリ、恋愛における視覚障害のメリットとは?
 一つは、心に歳を取りにくいこと。
目が悪くなってからというもの、年齢を重ねて老けていく感覚が全くない。
鏡を見れば若かりし頃とは違うのだろうが、僕の中では昔のままだ。
それは相手に対しても言えることで、僕の心では家族も友人も一切老けない。
もしかしたら視覚障害のカードのおかげで、恋する気持ちを新鮮に保てるかもしれな
い。
 また、見せ掛けの美貌に騙されないのもメリット。
外見の美しさも女性の魅力。
ただそれだけに惑わされると、大怪我することもあるが、視覚障害のカードは文字ど
おり痛い目を見るのを回避してくれる。
目が見えないからこそ、相手をちゃんと見極められる。
相手の心を好きになって恋に落ちることができるのなら、それは素敵なことだろう。
もちろん見てくれだけの悪者がいるのは男も同じ。
お互いに御用心。
 ちなみに視覚障害ならではのリスクも一つ。
それは、いきなり抱きつかれてもこちらにはそれを避ける術がないということ。
つまりすぐに既成事実ができてしまうのだ。
もしインタビュアーに「目が見えなくなって一番困ることは何ですか?」と訊かれた
ら、「突然のキッスがよけられないことだぜ」と答えたい。
 いや嘘です。妄想です。現実にはそんな場面はそうそうなく、むしろキックがよけ
られなくて困ることの方が圧倒的に多い。
女性は怒らせないのが賢明である。
 そんなわけで色々考えてみたが、やはり視覚障害のカードに恋心のカードを添える
には、もう一枚別のカードも必要なようだ。
それは勇気のカード。
迷惑をかけるかもしれない、普通のデートはできないかもしれない、それでも一緒に
いてほしいと言い切れる勇気。
残念ながらこのカードは、まだ僕の手札にない。
これはもしかしたら神様が配ってくれるのではなく、自分で手を伸ばして掴み取るカ
ードなのかもしれない。
もうすぐクリスマス。
老いも若きも、病める者も健やかな者も、一緒に頑張ろうぜ、恋する諸君!
 例えば勇気を出して展望レストランに行ってみようか。
綺麗な夜景が君には見えて、僕には見えないとしても、君が嬉しそうなのはわかる。
信じられないかもしれないが、心が幸せを感じるにはそれで十分だったりする。
それに見損なわないでもらいたい。
例え目が見えなくたって、君が輝いてることくらいわかるんだから。
編集後記
 見えない・見えにくいことがバリアになること、強みになること、恋する中ではど
うなのか、心ヒリヒリ、キュンキュン、ドキドキ、ピンクだったりブルーだったり、
ハートもカラフルです。
恋の話に花咲く、花散る、どっちもありで一夜を明かすほど語り合えたら、どれだけ
の胸キュンあるあるが出てくることでしょう。
勇気のカードを手に、老いも若きも色恋沙汰トーク、色鉛筆でいつか。
-- このメールの内容は以上です。
発行:   京都府視覚障害者協会
発行日:  2020年12月4日
☆どうもありがとうございました。


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