メルマガ色鉛筆第205号「十色の研究その1 精神科医一色ではありません」
タイトル 「十色の研究その1 精神科医一色ではありません」
ペンネーム カラフル幕府(40代 男性 光覚)
レポートの要旨です。
さあメルマガ色鉛筆、どんなことを書いてみようか。
色鉛筆といえば幼い頃のぬり絵や絵日記に使った思い出がある。
12色とか24色とかあってカラフルだったものだ。
人間は十人十色とはよく言ったものだが、改めて考えてみると、自分は今どんな色を
しているのだろう。
これはそんな雑記まがいの自己研究レポートである。
ここから本文です。
僕の仕事は精神科医だ。
あえて「僕は精神科医だ」とは書かない。
というのも、それが僕の全てではないから。
世の中には、24時間お医者さん一色に染まっているような人もいる。
自分は医師だという意識が日常の立ち振る舞いや考え方、ひいては生き方にまで影響
している人。
正直とても立派だと思う。
でも僕はそうはなれない。
むしろあえてそうならないようにしている。
例えばハヤタ隊員が怪獣が現れた時だけウルトラマンに変身するように、僕は出勤す
る時に変身して精神科医となり、仕事が終わって退勤したら元の姿に戻る。
もちろん見た目が変わるわけではないが、心持ちは大きく変わっている。
どうしてそんなオンオフをしているかというと、一つは精神科医の人を見る視点が
あまり好きではないから。
人の心を評価したり、能力や人格を判定したりなんておこがましいことこの上ない。
人間をそういう視点でしか見れなくなるのも嫌だ。
だから仕事以外ではなるべくその視点が発動しないようにしている。
あと、視点がどうこうと書いておいてなんだが、僕自身が視覚障害の当事者である
ということも大きいだろう。
一歩病院から出れば誰かに手を引いてもらわなければ歩けない。
ウルトラマンがハヤタ隊員に戻るどころか、助けてもらう街の人になるわけで、とて
も24時間精神科医一色の心では生きていけないのだ。
そんなわけで、精神科医は僕の構成要素の一つに過ぎない。
もちろん誰にだって色々な構成要素がある。
ただ医師の場合は、その他の項目に比べて医師という項目の文字サイズだけがドドー
ンと大きい人が多いけれど、僕はそうでもないということ。
それこそ広島出身だとか、男性だとか、独身だとかの項目と同じ。
もっと言えば、音楽が好きとか、推理小説が好きとか、ドラえもんが好きとか、そし
て視覚障害であるとかも同じ。
どれも僕の構成要素ではあるが、決して全てではないし、どの項目が特に強いとかも
ない。
例えるならそれらは神様に配られたトランプのカードのようなもので、どのカードを
使って勝負するかはその時々によって変わるわけである。
進行性の視覚障害である僕は、あと一年病気の進行が速ければ受験して医師免許を
取得すること自体が難しかった。
その意味では精神科医のカードは神様の気まぐれでたまたま配られた感じ。
持っていることが苦痛で持て余す時期もあったが、今は邪険にせず、かといって執着
し過ぎず、無理せず有効活用できたらと思っている。
時にはそこに広島出身のカードを添えて患者さんと地元トークをすることもあるし、
音楽好きのカードを添えて患者さんと歌うこともある。
精神科医のカードを使い始めて十数年、このカードは色々なカードと組み合わせられ
ることがわかってきた。
欲を言えばドラえもん好きのカードとも、いつか組み合わせてみたい。
そして視覚障害のカード。このカードの使い方は難しい。
当初は精神科医のカードの力を打ち消してしまうと思っていたが、意外や意外、組み
合わせると不思議な力を発揮することもあるとわかってきた。
目の見えない医者がいると聞いてわざわざ相談に来てくれる患者さんもいる。
知り合いの眼科医から、目が見えなくなって落ち込んでいる患者さんの心のケアにつ
いて相談されることもある。
言うなれば視覚障害のカードはブラックジャックのゲームにおけるエースのようなも
ので、1にもなるし11にもなる。
足を引っ張る厄介なカードだったり、一発逆転のお助けカードだったりもするのだ。
誰かを支える時には精神科医のカード、逆に支えてもらう時には視覚障害のカード
、ギターを弾いて曲を作る時には音楽好きのカード、推理小説を読んだり書いたりす
る時には文芸好きのカード、空を自由に飛びたくなった時にはドラえもん好きのカー
ド…といった具合で、カードを見せたり、伏せたり、組み合わせたりしながら僕は生
活している。
ちなみにこの文章はできるだけどのカードにも偏らずに書いているつもり。
普段はどうしても精神科医のカードを使って書くことが多いので、この連載ではでき
るだけそれ以外のカードを使って書きたいと思っている。
視覚障害のカードのおかげで巡り会えたメルマガ色鉛筆、読んでくださった方が何か
を感じていただけたなら嬉しい。
もちろんなんだこれはふざけるなと全否定していただいても、ガン無視してくださっ
ても、それはそれで嬉しい。
これではただのドMだが、それも僕の構成要素なのかもしれないし。
なんて、精神科医に変身している時はマゾヒズムも正式な医学用語だったりするので
、こんな冗談も言えないわけである。
ただくれぐれも誤解のないように。
色々なカードを持っていると書いたが、けして何足もの草鞋を履いているわけではな
い。なんとかお医者さんで働いてはいるけど、それも支えてくれる仲間たちのおかげ
だし、視覚障害の当事者としてもまだまだ半人前。音楽や推理小説は下手の横好きで
、何らそれで認められているわけでもない。
ただ僕にとっては全てのカードが大切で、全部ひっくるめて僕なんだということ。
結局自分は今どんな色なのかと考えても、何色にもなれていない中途半端な存在なの
だ。
でもまあそれもありかな。
昔は一色に染まって生きている人がかっこいいなと思っていたけど、僕にはどうやら
それが無理らしい。
だったらもうこの曖昧な色を自分の持ち味にしてしまえ。
空に架かる虹だって、七色だと言われるけど実際には違う。
曖昧で中途半端な色の集合体なのに、それを人間の都合で無理矢理七つに分けている
だけ。
せっかくのメルマガ色鉛筆だ、
一色に染まらずに自由な配色を楽しみながら書いていきたい。
さあ次回はどのカードを使ってみようかな。
編集後記
はじまりました。色鉛筆初の連載です。
今回は得体の知れない研究とやらの第1回目でした。
とはいうものの、あえてお仕事は精神科医と告白してのスタートです。
さて、次なるカードは何が出てくるのでしょうか。
果たして研究なるものはどのように勧められるのでしょうか。
ウルトラマンなのか、ドラえもんなのか、まさかのキャラなのか?
研究2が今から楽しみ、このドキドキ色にワクワクです。
-- このメールの内容は以上です。
発行: 京都府視覚障害者協会
発行日: 2020年9月11日
☆どうもありがとうございました。