メルマガ色鉛筆第203号「見えない私から届けたい!夏絵本」

タイトル 「見えない私から届けたい!夏絵本」
ペンネーム 抹茶色の宝箱 (20代 女性 全盲)
レポートの要旨です。
 子供のころから見えにくかった私、絵を描くことが好きだった私。
今は全盲の私。
夏野菜を使ってかわいらしい絵本を描いてみました。
クレヨンや絵の具ではなく、パソコンのキーボードで描きました。
物語もイラストも、どうしたら見えにくい子供たちにわかりやすいかな、野菜を見た
ことがない子供たちにどうすれば伝わるかな、いっぱい考えました。
そして、私にもわからないお野菜のお花のこと、どうしてもお話の中に入れたくて何
度もネットで調べました。
どんな形かな、色かな、検索結果の中の言葉の説明を頼りにイメージしていきます。
でも、とても難しいのです。
やはり出てくるのは画像説明が主流、そこは見える人に説明してもらいました。
聞いただけではわかんない、やっぱりお花にさわってみたいな、そんな気持ちを持ち
ながら夏野菜の絵本をお届けします。
ここから夏絵本のはじまり、はじまり。
『いちばんは だあれ?』

あるところに三人のお野菜がいました。
お日様の光をたくさんあびた元気なトマトくん。
光が強すぎて真っ赤になっちゃったね。
眩しいからサングラスをかけているのかな?涼しいところが大好きな緑のキュウリち
ゃん。
バナナみたいに曲がっているのがポイントだよ。
女の子だから可愛いピンク色のリボンをしているね。
そして渋くて大人なナスさん。
頭に巻いているねじり鉢巻きが今日もきまってるね。
変わった形で有名だよ。

元気いっぱいで遊ぶのが大好きなトマトくんが言いました。
「今日はどんなことして遊ぶ?」
「私はプールに行きたいわ。やっぱりお水は気持ちいいもの」
とキュウリちゃんが答えました。
「プールはこの前も行っただろう。それに俺っちとキュウリは漬け物になりかけたじ
ゃねーか」
ナスさんがするどくツッコミを入れます。
「じゃあどうしようか?」
三人は悩みました。

「そうだ、この種を植えて、一番最初に花が咲いた人が勝ちっていうのはどう?」
トマトくんが二人に言いました。
「賛成、やってみたいわ!」
キュウリちゃんはノリノリです。
それを見て笑いながら
「じゃあ一番遅いやつは漬け物の刑だな」
とナスさんは言いました。

そしてトマトくんは大好きなお日様の当たるところに種を植えました。
「燃えるような赤色の花が咲いたらいいな」
キュウリちゃんは木の葉っぱの下、涼しいところに種を植えました。
「夏の爽やかな緑のお花が咲きますように」
ナスさんはあじさいの花の近くに植えました。
「あじさいなんかに負けないくらいきれいで魅力的な花を咲かせるぜ」
さあ、誰が一番最初に花が咲くかな?

次の日、みんなお花の様子を見に行きました。
「まだ花は咲いていないね」
トマトくんは少し残念そうに言いました。
「まだ植えたばっかじゃねーか、水をたっぷりあげりゃきっと早く咲くぜ」
そう言うとナスさんはジョーロを持ってきました。
澄んだ透明のお水をそれぞれかけます。
「明日にはお花が咲いていたらいいね」
キュウリちゃんは楽しそうに言いました。
「きっと可愛いお花が咲くよ」
トマトくんも楽しそうです。
「さーて、どうなるかな?」
ナスさんもにやりと笑いを浮かべました。

次の日、トマトくんが慌ててキュウリちゃんに言いました。
「ぼくのお花は真っ赤じゃないんだ!なぜかわからないけれど、お月様みたいな黄色
になっちゃったんだ!」
キュウリちゃんも慌てて言いました。
「私も、緑色じゃなくてたんぽぽみたいな黄色になっちゃったの!」
二人はどうして自分たちの色にならないのか分かりません。
こんな時は大人のナスさんに相談です。
二人は走ってナスさんの元へ行きました。

「俺っちの花は紫だぜ」
ナスさんは言いました。
確かにあじさいの隣に咲いているお花は薄い紫色です。
少し白っぽいですがきれいな色でした。

「じゃあどうしてぼくたちは黄色なんだろう?」
トマトくんは不思議そうに言いました。
「まだまだ子供だからひよこさんと同じ黄色なのかしら?」
キュウリちゃんも不思議そうに言いました。
「いや、本によればトマトやキュウリは黄色の花らしいぜ」
本を片手にナスさんが言いました。
二人がその本を覗くと確かに黄色いお花の写真が載っています。

「あーよかった!病気なんだと思ってた!」
トマトくんは安心したようにため息をつきました。
「まだまだひよこじゃないってことね、立派な大人なんだわ」
キュウリちゃんもほっとしたように胸を撫で下ろします。
「まあみんな花がちゃんと咲いてよかったじゃねーか」
ナスさんは二人を見て嬉しそうに笑いながら言いました。

「そういえば結局誰が一番早く咲いたのかな?」
トマトくんはまた不思議そうに言いました。
「俺っちに決まってるだろ」
ナスさんは胸を張って言いましたが、キュウリちゃんは納得できていないようです。
「私も早かったわよ」
ナスさんに対抗するように強い口調でキュウリちゃんが言い放ちました。
「まあまあ、二人とも落ち着いて…みんな綺麗で可愛いお花が咲いたんだからいいじ
ゃないか」
トマトくんは二人の喧嘩を止めにいきました。
このままだと漬け物バトルがはじまりそうだからです。
「仕方ねーな、じゃあ今回は引き分けだな」
ナスさんがそう言うとキュウリちゃんも
「そうね、みんな綺麗だからいいかしら」
と笑顔になりました。

そしてお花は散りましたが、その代わりに新しい野菜の実が出てきました。
始めは緑色だったトマトも今ではすっかり炎のような赤色になっています。
キュウリはいぼいぼがついていて少しチクチクしますがおいしそう。
ナスは重そうにプランと垂れさがりあじさいよりも濃い紫色になりました。
その後実は摘まれ、仲良く八百屋さんで並びましたとさ。
おしまい、おしまい。
夏野菜の絵本は以上です。
実は、①②③…の各ページには、そのお隣のページにイラストが入ります。
どんなイラストがいいかなと、今言葉のイラスト作りに挑戦しています。
ちゃんと見える、それがどういうことなのかわからない私が、見えない見えにくい子
供たちに伝えられるかどうか、それはわかりません。
それでも、かつてほんのり目に入ってきたお野菜たちの記憶を頼りに、この世界にあ
るたくさんの色や形を伝えたいって思います。
もっとほんまはいっぱい見たかったんだ、やっぱり悲しいし悔しい、そう思っている
私だから。
編集後記
 目が不自由、見えない抹茶色の宝箱さんが制作まっ最中の絵本を、ひと足早くメル
マガでお届けしました。
いかがでしたか?
かわいいトマトくん、キュウリちゃん、ナスさんの絵のイメージが、絵本のイメージ
が浮かんだでしょうか。
この後、イラストの原案にもなる見えない子供達向けの説明文を作成し、それを元に
イラストレーターさんが描いて完成となるそうですよ。
 見えていた頃の記憶に手で触れる感覚を加え、さらに人から聞く情報で補う。
そうやってやりたいことができ上がって行きます。
見えることはすばらしい、手で触れることもすばらしい、人に聞くこともすばらしい
と思います。
そして、見えない自分が得られるものからやりたいことを実現するのがすばらしい、
というのをぎゅっと縮めてしまって、見えないのもすばらしいものだなぁと、この作
品を前にしてちょっと言いたくなるのでした。
-- このメールの内容は以上です。
発行:   京都府視覚障害者協会
発行日:  2020年8月28日
☆どうもありがとうございました。


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