メルマガ色鉛筆第190号「私の現状と妄想」

タイトル 「私の現状と妄想」 
ペンネーム インディゴ750(70代 男性 全盲)
レポートの要旨です。
 リハ科医として現在の病院に勤務して約20年が過ぎた。
当初は、10年程度は勤めようと思っていたがいつの間にか最高齢となっていた。
その期間、多くの患者に
「無理な事は依頼しましょう。できる事を少しでもふやしましょう。」と言い続けて
きた。
それはごく自然に私をサポートしてくれてきた人々、とりわけ妻に感謝しながら、
自分自身に言っているようでもあった。
そしてこの状態がまだまだ続くと想定していた。
ところが最近は何となく体力・気力の衰えを感じる場面がある。
そんな中、私の現状とこれからの思いを語ることにした。
ここから本文です。
 70歳を過ぎた私は、このところ起床して家を出かけるまで時間がかかるようにな
った。
前夜に準備を怠ると車を待たせていることもある。
勤務先の病院に着いてからも医局で白衣に着替え、タイムカードをかざし、
病棟へ行くのだが、そこまでの時間が、以前よりかかる感がする。
おそらく同時に複数の行為を遂行することができなくなったのではないかと思われる

 また、この数年で私の兄たちが闘病生活をはじめたり、亡くなったりしている。
この分だと私もそろそろ身の回りの整理を少しずつしなければと
終活に関する本や雑誌をサピエ図書館からダウンロードして聞いている。
 体力の低下は私だけでなく私の一番のサポーターである妻も感じているという。
もっと早く気づくべきだったが、そういう雰囲気を感じさせていなかった。
妻は、主婦業を手を抜くことなく丁寧に愛情をかけて行ってきた。
それに加えて私の同行支援者として、あるいはヘルパーとして、クラークとして
サポートしてきてくれた。
このように妻は2、3人分の業務をしてきたのだから、
今後はもう少し休まなければならない。
 ところで私にできる家事は何だろうか。
起床後、玄関を開けて郵便箱から新聞を持ってきたり、
夕方、門を閉めることぐらいかもしれない。
ときには室内の拭き掃除をしたり、食器を片づけたり、洗濯物を片づけたりするが
稀であり、どの行為も不完全である。
ただそれだけで済めばよいのだが、食器を割ってしまうこともある。
結果的に後片づけをさせてしまい、悲しませることも多い。
 結局、私ができることは、妻のサポーターとしての役割を最小限にとどめ、
あれやこれやと頼まないことではないかと思う。
 そこで身の回りの整理から始めた。
そのためには文字や物の認識をする機器が必要となる。
2014年からアイフォンを使うようになり、
便利なアプリが無料でたくさんあることを知った。
この数年間で書類をカメラで撮影して文字認識(OCR)し、
読み上げするアプリがいくつも販売されてきた。
その中にはカメラを向けるだけで読み上げするアプリもある。
しかもごく短時間で認識を完了する。
無料のOffice Lens、有料のEnvision AIなどが昨年リリースされた。
私もこれらを必要に応じて使用している。
書類の管理については整理箱・棚・ファイル・封筒などに
その内容を印刷したラベルを貼っている。
ラベルの大きさはさまざまあり、私は名刺大を頻用している。
時にはQRコードを印刷したラベルを使用する。
これには専用プリンターが必要となる。
これらのラベルは、アイフォンに入れてある前述のアプリで読んでいる。
 最近、NFCタグを使った物体の識別アプリがリリースされている。
NFCタグには衣類取り付け用、シートタイプ、クリップ付きなどがある。
アプリを使ってタグに物体の内容を記録させておく。
その物体に貼り付けたタグにアイフォンのカメラを当てると、
登録された内容が音声か文字で出力される。
これはかなり便利なアプリと思われる。
以上のような整理方法なら探し物もかなり楽になり、
妻への負担もいくらか軽くなるのではないかと思う。
 また、文字認識をいとも簡単にする機器が数年前販売された。
メガネ装着型ウェアラブル端末「オーカムマイアイ」である。
私はそれを2018年に神戸で開催された視覚障害リハビリテーション研究発表大会

機器展で体験した。
その時はもうここまできたかとびっくりした。
それを病院側が視覚障害者への合理的配慮として購入し、使用できることになった。
 それを同僚に見せると「これはすごい機器ですね」と、
使用方法をガイドブックで調べながら説明してくれた。
設定された最低音量がやや高いことと、外部へ音漏れすることだけが気になる点であ
った。
そこで、ブルートゥース対応の骨伝導イヤホンを用いると、
適切な音量に合わせることができた。
音漏れもなく周囲の人を気にすることもなく快適だ。
周りからは黙読しているように見えるらしい。
今までは看護師・ソーシャルワーカーに、いろいろな書類についてたずねていた。
私がこれを利用することで彼らの負担をいくらか軽減できるかもしれない。
 次に負担の多い行為は移動支援だろう。
この10年余り、勤務先への往復は車での送迎だったので
公共交通機関を利用する機会は少なく、白杖は使用していなかった。
休日の外出は常に妻と一緒だった。
私の運動不足を心配して、天気の良い日には、約4キロから6キロ先にある運動公園

道の駅、物産館、温泉センターなどまで歩き、昼食あるいは夕食を食べて帰宅してい
た。
この時は白杖を持ってはいくものの、妻の肩かショルダーバッグに手をかけて歩いて
いた。
また近くのコンビニ、ドラッグストア、理髪店など自分の用事で出かける場合も、
妻が同伴してくれないと行けなかった。
 年末に息子が久しぶりに帰省した時のことである。
たまには近くの運動公園に行こうということになった。
運動のつもりでこれまで行ったことのある急斜面を登る道へ行こうとした。
しかし、私が頭で描いていた地図からその入口を見つけることはできなかった。
息子が普通のなだらかな道を選び、目的地には行けたが、
今の状態では一人で行動できないことをつくづく感じた。
 このような場合、公助として、2011年の障害者自立支援法の改正で始まった同
行援護を依頼する手段がある。
私は5、6年前から月に2回程度この制度を利用し、電車で尺八のレッスンに通って
いた。
しかし、2018年3月にその業務を実施できる事業所の要件の猶予期間が終了し、
当地の介護福祉事業所はこの業務から撤退した。
 当地域には公的にも私的にも同行援護を行っている事業所がない。
同行援護者が少ない以上、多くのサービスは望めず、
基本的に自助・互助を選択せざるを得ないのが現状である。
ただ、今まで利用していた同行援護は別の地域にある事業所に継続してもらうことが
でき、ありがたいことに現在も利用できている。
 最近、白杖もいろいろ開発され、内蔵された超音波やカメラを利用して
前方に見える危険物などを音声か震動で知らせる機能が備えられているものもある。
また、マップを利用して目的地に案内してくれるものも、今後開発されるかもしれな
い。
 他にも、歩行の手助けの手段として「ダイナグラス」というウェアラブル端末が
販売されている。
それは首にかけて使用するもので、胸の高さでの周囲の状況を音声で説明してくれる

例えば交差点であれば「正面の信号機は赤です」などと知らせてくれるそうだ。
 私は病院の中を注意して歩いているのだが、それでも時々出っ張った柱の角で
前額部をぶつけたりしている。
スタッフに「大丈夫ですか」と声をかけられても「大丈夫です」と応えてきた。
こういうことはしようがないなとあきらめていたが、この機器を使うと
医局間の移動も比較的安全にできるのではないかと淡い期待をかけている。
ただ、病院内の移動は多くの医師をはじめとするスタッフが、「肩を貸しましょうか
」と
声をかけてくれるのでさほど心配はしていない。
ひょっとしたらこのような機器を使うことで、近くの喫茶店、居酒屋、コンビニに一
人で行けるようになるかもしれない。
自由だ、そう思うだけで何とも言えない感情が沸き上がってくる。
 さらに、未来を描いてみることにする。
私が夢見る移動支援についてお話したい。
安全に移動するには同行支援ロボット犬、あるいはポニーが開発されるのだ。
そのロボットには数台のカメラが内蔵され、周囲50メートル程度の物体・風景を認識
し、震動あるいは音声で知らせてくれる。
「背後から自転車がきます、もう少し右によけましょう」、
「前から車がきます、止まって様子をみましょう」、
「ここは天国と地獄への交叉点です、真っ直ぐ進みますか?」、
「右角にコンビニがあります」などとロボットが話しかけてくるのだ。
 また、「今はどの辺りを歩いているのですか?」、
「サクラは咲いていますか?」、などと尋ねると相応に答えてくれる。
「疲れたから乗ってもよいですか?」と言えば、それに応じて一旦停止したりするの
だ。
しかも時速2キロから6キロへと変更できるダイヤルボタンも備えている。
このような機能があれば目的地まで安全に案内してくれるのではないかと
胸を膨らませている。
そうなれば、私をはじめ、外出困難な視覚障害者及びそのサポーターが
どんなに喜ぶことだろう。
10年後は、これら同行支援ロボットと一緒に近くを散歩したり、
日本各地を巡っているかもしれない。
最近では100Kg程度の荷物を運ぶことができるドローンや、自動運転車などの開発
も進み、実用化の段階となっている。
私が夢みている同行支援ロボットも技術的には可能であるが、
経済的側面などでなかなか開発されていないのではないかと想像している。
その日が来ることを信じて、もうしばらく診療活動を続けることにしよう。
編集後記
 無理な事は依頼しましょう。できる事を少しでもふやしましょう。
この思いはインディゴさんの現状と未来、そのどちらにも重なっています。
人と技術、アイデアと技術、その組み合わせで「なんとかなる」を夢見ておられます

そして、なるほど、わくわく、その先に、
どんなに喜ぶだろうというあったかい思いが重なっています。
この自然な語りは、周りにも自分にも届いたようです。
「その日が来ることを信じて」、一緒に胸を膨らますひとときをいただきました。
このメールの内容は以上です。
発行:   京都府視覚障害者協会
発行日:  2020年4月10日
☆どうもありがとうございました。


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