メルマガ色鉛筆第176号「シリーズ コーラスあおいとり4」

「シリーズ コーラスあおいとり4」
メルマガ色鉛筆編集チーム
 こんにちは。
メルマガ色鉛筆編集チームです。
 視覚リハビリテーションの中から生まれた活動を共有します。
 京都ライトハウス鳥居寮には文章講座という訓練科目があります。
グループセッションを通して自己表現をワイワイ楽しむ時間です。
そんなにぎやかな講座を修了された方が集う場があります。
文章講座修了者の会あおいとりです。
文章を書いたり読んだりを重ねながらつながっておられます。
 あおいとりから生まれた作品テーマ「あったかいんだから」に
現役訓練生さんが飛び入り参加されました。
OBさんと現役さんの言葉のコーラスをお届けします。
見えない・見えにくい、それがきっかけで同じふるさとを持つ人たち。
そんな皆さんの思い、ほんわかとしたさえずりをどうぞ。
あおいとりレポ4 
タイトル 「心つないで」
ペンネーム でんでん太鼓ブンブンgreenway(40代 女性 弱視)
 三温四寒という言葉はないけれど、手綱を緩めたりぐっと引き締めたりしなが

確実に寒さが迫ってくる季節。
今日はブラウスの下にもう一枚着ようか、それとも上着を厚くしようかと
日々の身支度に惑いつつ着々と着ぶくれていく。
それでも凌ぎようのない寒さが骨に沁みるようになる頃、
「あったかいもの」への漠然とした憧れは熱烈な恋へと変わる。
そして今 私の恋心をとろけるような幸せで満たしてくれている「あったかいも
の」…
それは、つなぐ手から伝わってくる彼のぬくもり。
 まだ若い頃「将来の夢はチャーミーグリーン(のCMに出てくる、
手をつないでスキップする仲良しおじいちゃんとおばあちゃんのカップル)」と
言っては
「ないない、あんなの現実にはありえない」
「まだまだ甘いね」
などと鼻で笑われていた。
 でも 今、私はいつも彼と手をつないで歩いている。
彼は右手に、私は左手に白杖を持って、あいている手をぎゅっとつないで歩く。
手を離すとはぐれてしまうというのが一番の理由ではあるけど、
その掌から伝わるぬくもりは、いつも私の心まであたためてくれる。
 ふたりで手をつないでバスに乗り込むと、席を譲ってくださる親切な方がおら
れる。
たいてい彼が私に席を勧めてくれるので私がお礼を言って座ると、
前の席や後ろの席に座っているかたも席を譲ってくださることがよくある。
心温かな方々にお礼を言って前後に座り、お互いの手を探してまたしっかりつな
ぐと、
バスの中の空気が何度かあったかくなるのを感じる。
「それ、季節と関係ないやん」
 そう、春も夏も秋も、彼と歩いた季節はどれも幸せであたたかな思い出に彩ら
れている。
これ以上の幸せは思いつかないと思っていたけど、
寒さが増してくると、彼の手のぬくもりが一段と愛おしく感じられるようになっ
てきた。
私の冷えた指先は、無意識に よりあたたかな場所を求めて彼の袖の中に潜り込
み、
手首の内側に這い上がる。
彼は苦情も言わずにじっと私の指先を受け止めてくれている。
そんなとき彼が優しい笑顔をしているのか、実はじっと冷たさをこらえているの
か、
表情を窺うことはできないけれど…。
「寒いし、ひとりで大丈夫」と言っても
「だめ」と手をぎゅっと握り直して一緒にバスを待ってくれる彼の隣にいると、
木枯らし吹くバスの外さえあたたかく感じられる。
 いつかもっと年を重ねたとき、彼と一緒にスキップできるかどうかはわからな
い。
でも、若い頃に夢見た世界より、今がいい。
どこに続いているのかは見えなくても、長い白杖をブンブン振って
私の前の安全まで確かめてくれる彼の隣を歩ける、この道がいい。
しっかりとつないだ手の温度が 私に伝えてくれる
彼がちゃんとここにいるということ
私もここにいていいんだということ
淡く消えゆこうとする世界に確かにつながっているという 実感
ぬくもりは感謝の思いとなって
心をあたたかく満たす
私の手はあんまりあったかくはないけれど、伝わるといいな。
いつもありがとう。
ーー
 ここからは現役訓練チームの登場です。
タイトル 「恥ずかしさと、嬉しさと、そのぬくもりと」
ペンネーム 空色のえのぐ(50代 女性 弱視)
 それは私が憧れていた方に、人気のラーメン店に誘っていただいた時のことで
した。
「あしたのお昼に行こう!」と誘われて嬉しくて嬉しくて。
どんな一流シェフのお店に行くよりドキドキと心が舞い踊っていました。
翌日の午前中の仕事なんて、心はうわの空を通りこし、宇宙まで行っていました

 この日は2月、寒さもいっそう厳しくなる中、
私にはひとつだけ気がかりなことがありました。
どうも風邪をひいてしまったようなのです。
鼻にも違和感が…。
しかし、今日のお誘いを断るなんて私にはあり得ないことでした。
だって、それって、オリンピック選手がその出場を放棄するようなものですもの

ちょっと大げさすぎたかな、でも、それくらい私にはスペシャルなことでした。
車にゆられて間もなくお店に到着。
人気があるだけにお店の前には数人のお客さんが並んでいました。
寒い真冬に並んでいると、さすがに体はしんから冷えてきました。
順番がまわってきて、お店に入ると心も体もホカホカ。
注文したラーメンをいただくと「あったか~い。」につきました。
ただ、食べ進めていくうちに私はひとり焦り始めたのです。
不安的中!あり得ない…憧れの人の前で鼻に違和感が…。
その後の会話もラーメンの味も記憶から消えてしまうほどでした。
憧れさんに気づかれないようにするのが精一杯でした。
 翌日憧れさんと会うのも恥ずかしくて。
そんな私に彼は、「昨日のラーメン美味しかったね!」と
爽やかな笑顔をくれたのです。
なんてやさしい人!きっと気づかれていたはずなのに。
とんこつよりも濃く、チャーシューよりいたわりの気持ちが熱く、
弱った体にしみこむあったかさ。さすが私の憧れさん、
「もう、あったかいんだから」。
タイトル「包まれ手」
ペンネーム ヌードベージュ(40代 女性 弱視)
 今日、全盲で全身に麻痺がある女性と出会った。
彼女のことは以前から噂には聞いていた。
とにかく元気で奔放な性格の女性だと。
それは偶然の出会いだった。
はじめてなのにずっと前からの知り合いのような気持ちになった。
思わず彼女の右手を私はにぎった。
その指先はとても冷たかった。
こちらの手は感覚がないと彼女は説明してくれた。
でも、私は彼女のその右手をにぎり続けた。
両の手で上下に挟み込みながら、何度も何度もさするように彼女の手を愛おしく
握った。
彼女にはこの私の手のぬくもりは伝わらない。
でも、ちゃんと彼女の右手は少しずつ温かくなっていった。
それが彼女に伝わらなくたっていい。
ちゃんと彼女の右手は温かくなっている。
私の両の手がそれを感じている。
 心から誰かの幸せを願うということはこういうことなのかもしれない。
自分のなすことが本質的には何の結果につながらなくても、
誰かのことを思う気持ちをまっすぐに出すことだけでいいのかもしれない。
彼女の右手が私にそう語り掛けていた。
そして、彼女も知っているのかもしれない。
そういう身勝手な押し売りの情も、受け取り手の役割があって成立することを。
彼女は40年近く自分の冷たい右手とつきあいながら、自分の手を握る相手に思
いを寄せてきたのかもしれない。
相手の情に合わせて、伝わらない温もりを受け止め続けたのかもしれない。
あなたの手、もう、あったかいんだから、
そう返すことができない彼女の思いを見て見ぬふりしながら、
それでもなお私は彼女の手をにぎることしかできなかった。
この重い障害と共に生きる彼女の前では、私は絶望的なまでに無力だった。
だからこそ心から祈る、術もなくただまっすぐに。
彼女の人生があったかなものでありますようにと。
ーー
 「あったかいんだから」というキーワード、
そのぬくもりを感じているのは自分、相手、お互いに、いろいろでした。
また、ぬくもりは伝えたり、伝わったり、伝わらなかったり、こちらもいろいろ
でした。
そこで1曲、「秋桜」山口百恵さんの曲を紹介します。
♪「ありがとうの言葉を かみしめながら
生きてみます 私なりに
こんな小春日和の 穏やかな日は
もうすこしあなたの子供で
いさせてください」
 さだまさしさんの作詞作曲、歌い継がれる名曲です。
縁側でアルバムを開きながらの母と娘の1シーンに凝縮された、じんわり感、
そこに咲く秋桜は、何気ない陽だまりにゆれ、幸せの尊さを告げているように感
じます。
あったかいんだから、そう感じる心の中には、
そこにつながるそれぞれの人生の背景が隠れています。
今回の「あったかいんだから」のレポートも、熱量はさまざまですが、
喜び、感謝、幸福の意味を問う、見えない背景があるようです。
ありがとうの思いをかみしめながら生きていく、そのために必要な温度がある、
今回のレポに秋桜の温度を重ねて、色鉛筆から小春日和をお届けしました。
 シリーズ コーラスあおいとりでは、
心のさえずりを言葉のコーラスに仕立ててお届けしていきます。
次回の唱和ではどんな色が描かれるでしょうか。
 それでは皆様、ごきげんよう。
-- このメールの内容は以上です。
発行:   京都府視覚障害者協会
発行日:  2019年12月6日
☆どうもありがとうございました。


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