メルマガ色鉛筆第146号「ひとひら」リレーエッセイ8

タイトル 「ひとひら」リレーエッセイ8
メルマガ色鉛筆編集チーム
 こんにちは、
メルマガ色鉛筆編集チームです。
 今号は、しりとりスタイルのタイトルでリレーエッセイをお届けします。
暮らしの中の体験ひとひら、記憶ひとひらをつなぎます。
 143号の「めだか」、「かっ飛ばせ」のバトンをうけて、
「先生と生徒」、「友達」というタイトルでのエッセイです。
タイトル 「先生と生徒」
ペンネーム グリーンピース(50代 男性 弱視)
「○○さん、お願いがあるの。」
出たー。
気を付けていたのに。
油断していた。
いつの間に近づいていたんだ。
どうしよう。
「お断りします。」と言って逃げようとすると、
さらに距離を詰め、私の袖を力強く引いてくるではないか。
このままでは、袖釣り込み腰から寝技に入られ、押さえ込まれる。
最悪の場合、圧死してしまう。
7時のニュースで、
「ライトハウス内で先生が生徒を押さえ込み、生徒が亡くなりました」
と放送されたらどうしよう。
あまりにも恥ずかしい亡くなりかたではないか。
それだけは避けなくてはならない。
次の瞬間私は、「はーい。わかりました」と元気に返事をして、
ぶんぶん尻尾を振って喜んでいる盲導犬のように、今これを書いてます。
 彼女は先生で、私は生徒。
私のほうが年上だが、修了しても何年たっても
この関係は変わらない。
彼女はまあるい。
まあるいと言っても体形の事ではなく心の事。
心が優しくとげがなく、まあるい。
体形はまあるいではなく、一言でいうとまんまる。
 鳥居寮の修了式で、前所長が、
「皆さんが訓練を始められた時は、不安そうな顔をされていましたが、
今は晴れやかで輝いておられます。」
と挨拶されました。
それは京都ライトハウス鳥居寮の先生方が、
歩行、点字、パソコンの技術獲得のための支援だけでなく、
生徒一人一人に寄り添った心の指導をされたからではないかと思っています。
私も若い人たちに、先に生まれた者(先生)として、
生きる灯台(ライトハウス)となり、
隅々まで明るい光で照らすことのできる、
道しるべとなれればいいなと思っています。
ーー
 筆の向くまま思いつくまま飛び出したエピソードは、
先生と生徒というキーワードが基点となって描かれています
結果、「先に生まれた者として」というありたい自分が見出されました。
先生が照らす明るい道とは?、このバトンを引き継いでのリレーです。
タイトル 友達
ペンネーム 茄子紺(30代 男性 弱視)
 京都ライトハウスの文章講座で頂いた課題「高校2年生と魔法の杖」を
オムニバス形式で書いてみました。
盲学校に通う二人が魔法の杖を授かり困難を乗り越えていく話です。
まずはあかりちゃんの場合・・・。
 生まれつき弱視の私は
何でも確認する癖がある
「確認しないと危険だから」
そう言われて育ってきた
忘れ物はなかったかな
友達の機嫌を損ねてないかな
何でも確認する私は
いつしか自信がなくなった
 先生が私にくれたもの
握ると自信が湧いてくる杖
半信半疑だった私は
結局確認を繰り返した
 中間テスト
問題が解けなかった私は
適当に答えて杖を握った
握った杖は弱く震えた
 「先生、この杖はインチキだ
 確認したのに間違いだった」
「インチキはあなたじゃないの
 魔法の力は正しいことに使いなさい」
 それからというもの
不安な時は杖を握ってみた
するとどうだろう
不思議と自信が湧いてくるのだ
 結局確認は繰り返しているけれど
私の性格だから直しようがない
でも杖のおかげで自信がついた私は
前向きに生きられるようになった
 終業式
今日で先生ともお別れだ
「今までありがとうございました
 魔法の杖のおかげで自信がつきました」
先生はくすりと笑った
「魔法の杖?それはただの杖よ」
私はふふっと笑い返した
 もうすぐ高校三年生
私は進路に迷っている
不安な時は杖をそっと握ってみる
不思議と自信が湧いてくる
何の変哲もない杖、それはいつも私の傍にいる。
そう、ずっと傍にいてくれる私の友達。
 続いてひかる君の場合・・・。
 「マジックハンドになる杖が欲しいです」
不思議そうに先生が返した
「でも歩きにくくなるんじゃない?」
先生は何もわかっちゃいない
 杖の先にはマジックハンド
柄を握ればビューンと伸びて
何でも手元に引き寄せる
僕は自由を手に入れた
 机から落ちた鉛筆や消しゴム
ほかほかのカレーパン
中間テストの答案用紙
その気になればお札だって
 魔法の杖を手に入れた僕は
学校を休むことが多くなった
苦労して出歩くこともなくなった
昔の白杖は捨ててしまった
 ポテトチップス 缶ジュース
最新のゲーム機 発売前の漫画本
今の僕に足りないのは
退屈しのぎの話し相手
 「友達を連れてきて」
マジックハンドを握ったら
首根っこをつかんできた
怒った友達は帰ってしまった
 「友達を連れてきて」
そう念じてみたけれど
マジックハンドは空をつかむばかり
もう何も引き寄せてこなかった
 もう友達じゃないんだな
「仲直りがしたい」
マジックハンドがつかんできたのは
僕が捨てた昔の白杖
 何の変哲もない杖だけど
今の僕には魔法の杖だ
白杖を持って外に出かけよう
友達に謝りに行くために。
ーー
 魔法の杖というキーワードから生まれたのは何の変哲もない杖の力の話でした

魔法は道具にかかるのではなく心に効くものなんだよと、
あかりちゃんとひかる君が伝えてくれました。
 先に生まれた者が灯台となり放つ光は明るく温かいようです。
そして、照らされた道を歩く人の心には力という名の光がありました。
闇夜に浮かぶ灯台を連想すると、
この二つの光はまっすぐに開かれているように感じます。
でも、実はこの二つの光は「まあるく」つながっているのではないでしょうか。
とげがなく優しい、何の変哲もないもの、それが道標なのだとしたら・・・。
 それぞれの人生のひとひら、ほんのりと思いをつなぎながら、
次回のリレーエッセイへと続きます。
-- このメールの内容は以上です。
発行:   京都府視覚障害者協会
発行日:  2019年2月1日
☆どうもありがとうございました。


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