メルマガ色鉛筆第97号「明石に行って明石焼を食べてきた件」

タイトル 「明石に行って明石焼を食べてきた件」
ペンネーム 北のクロベエ(40代 男性 弱視)
 レポートの要旨です。
 去年の夏、ぼんやりテレビを見ていたら明石焼の特集をやっていた。
以前に屋台の明石焼を食べたことはあるが、そのときはそんなにおいしいとは思
わなかった。
しかし、画面の中の明石焼は結構うまそうだった。
ビールを飲みながらの明石焼にちょっと心が動いてしまった。
 かくして、暑い夏に熱い明石焼を食べに行った件についてここに記すこととな
った。
 ここから本文です。
 ぼんやりと見ていたテレビの中の明石焼に心が動き、ネットを立ち上げた。
というわけで、とりあえず明石焼について調べてみることにする。
 「明石焼」で検索をかけてみた。
「明石焼のおいしい店20選」という項目が出てきたので見てみる。
主なおいしい店は明石市の南側に集中しているようだ。
その中のとある店は、「魚の棚市場(うおのたないちば)」にあると書いてあっ
た。
そこで、「魚の棚市場」を検索してみた。
明石市のホームページには、明石駅の南側徒歩15分ほどの場所にあると書いて
ある。
 もう10年以上前のことだが、明石には行ったことがある。
運転免許試験場があるからだ。
しかし、明石市の南側に行ったことはない。
とはいうものの、市場にはまっすぐ歩けば着くようなので、まあ、大丈夫だろう。
少々視力が弱い私は、1軒の店をピンポイントで見つけるのが難しい。
市場の中の店なら気配とかにおいとかでわかるような気がする。
 次に電車の乗り継ぎを調べてみる。
最寄りの路線は阪急かJRになるが、明石に行くのならJRで行くほうが手っ取
り早いようだ。
阪急は乗り換えが多くなってうっとうしい。
JRなら乗り換えは1回、ただし乗り継ぎが高槻駅になる。
JR高槻駅は利用したことがないので少々不安はあるが、まあ、大丈夫だろう。
 私は方向感覚は鋭いほうで、あまり道に迷ったことがない。
行き当たりばったりでもなんとかなるだろうし、いざとなれば誰かに聞けばいい
ことだ。
もしわからなければ大阪で乗り換えればなんとかなると、たかをくくることにす
る。
そういうわけで、この問題は当日に棚上げすることにする。
 あとは天気を調べておかねばならない。
私は杖を2本装備して歩くのを常としているので、両手がふさがっている。
傘がさせないので、雨が降ったらお手上げである。
幸い天気はよいようで、いやになるくらい暑そうな予報になっている。
 なんとかなりそうなので行ってみる気になった。
あとは当日の体調しだい、前の日には早く寝ることにする。
 かくして2016年8月14日午前9時45分、私は意気揚々と出発した。
はたから見たら、杖を突いてヨタヨタ歩いているおっさんにしか見えないだろう。
まずはバス停に向かう。
このへんのバスの便は少ない。
京都市内とは思えないくらい少ない。
だいたい市バスが通っていないというのはどういう了見だろう。
京都市民として複雑な思いを抱きながら阪急バスに乗る。
阪急バスにしたところで、朝を除けば1時間に2本しかバスが来ない。
そのうちJR向日町駅に行くのは1本だけ。
それを逃すと1時間待たされることになる。
 かくして、私のスケジュールはバスの時刻表によってかなり拘束されることに
なる。
京都ライトハウスに行く場合でもバスの時間から逆算して出発することになるし、
希望する到着時刻よりも妙に早くたどり着いてしまう。
厄介な話だ。
 15分もかからずにJR向日町駅に着いた。
この駅は、以前ガイドヘルパーさんに構造を教えてもらったので迷うことはない。
駅構内のコンビニでお茶を買ってから切符を買う。
1,410円、高いな。
そもそも長距離だと半額になるのに、近距離ではそのままの料金というのはどう
いう了見だろうか。
どうせなら全部半額にするか、全部通常料金にしてそのぶん障害者年金を上げれ
ばいいのに。
そんなとりとめのないことを考えながら電車を待つ。
 ほどなく電車が来たので乗り込む。
自分では素早く乗り込んだつもりだが、ヨタヨタしているのは否めない。
車内はすいているので座り放題だ。
空気を運んでいるような電車でもうかるのだろうか。
またもやとりとめのないことを考えているうちに高槻駅に到着した。
 車内放送で隣のホームから目的の電車が出ると言っていたので、電車を降りて
移動することにする。
だいたいこういうところでは人の流れについていけば階段とかに行けるだろうか
ら、適当について歩くことにする。
うつむいて歩いていると、足元にエレベーターの表示と矢印の表示があった。
これは便利だ。
矢印に沿って移動し、エレベーターに乗り込む。
上の階に着いてから案内板を見る。
でかい文字で書いてあれば、近づけば読める。
確認してから隣のホームに下りる。
すでに快速の姫路行きが停まっていたので、すぐに乗り込むことにする。
ヨタヨタしながらも無事に乗ることができた。
 こちらの車内は混んでいた。
日曜日だし、まあ、当然ですな。
白い杖を持っているのだが、誰も席を譲ってくれそうにないので、楽に立ってい
られるポジションを確保する。
どうせ大阪駅で乗客の入れ替わりがあるだろう。
案の定大阪駅からは座れた。
そこから1時間ほど、電車の旅を楽しむ。
 私は鉄道の旅が好きである。
電車の振動、そのリズム感が心地よい。
バスとはえらい違いで、とても気持ちよく眠れる。
乗りすごすと面倒なので、寝ないようにしなければならない。
それが少々残念であった。
 12時前に明石駅に到着、エレベーターが見つからなかったので階段を下りる
ことにする。
私は階段が苦手である。
目が悪いのだから当然なのだが、今現在の私には体力もないので、階段の上り下
りはえらく疲れる。
それでも下りだけならばなんとかなるので、慎重に下る。
 駅の南口らしきところに出た。
表示はよくわからないのだが、電車の進行方向からそのように推定する。
南口を出ると何かの工事をしていて、道が狭くなっていた。
そこを抜けると、大通りらしきところに出た。
たぶん、この道を南へ進めばいいのだろう。
歩道は広く、点字ブロックもあって歩きやすい。
 点字ブロックについて私がいつも考えていることがある。
点字ブロックに沿って歩いていく場合、それだと明らかに遠回りになることがあ
る。
私はある程度見えているので、その場合はショートカットして歩くわけだが、
果たしてそれは視覚障害者として正しい態度なのだろうか。
それとも、白い杖を持っている以上、点字ブロックに沿って歩くのが正しいので
はないだろうか。
少々悩んでしまう。
 それにしても暑い。
路面の温度は40度を超えているのか、足の裏が焼けるように熱い。
そんなことを考えながら歩いていたら、露店らしきものが見えた。
そろそろ到着らしい。
 ほどなく商店街の入り口らしきところに着いた。
この商店街は東西に伸びている。
東側に着いたので、西に向かって歩いていく。
 すぐに明石焼の店らしいものが見えてきた。
店の名前はよくわからないが、どうやらインターネットに載っていた店のようだ。
10人くらい並んでいる。
私は並んで待つのが苦手である。
右足に少々障害があり、長時間立っていることには問題がある。
それに立ちくらみの気があるので、おとなしく立っているのが歩いているより疲
れる場合がある。
であるからして、立って並ぶのはできるだけ避けたいのだ。
次の店に向かうことにする。
 商店街は結構人通りが多くて歩きづらい。
「魚の棚」というだけあって魚屋さんが多い。
ただ、私は魚は嫌いなので無視して歩く。
 次の明石焼の店も人が並んでいる。
その次の明石焼の店も人が並んでいる。
そのまた次も、以下省略。
どの店もえらい混んでいる。
昼どきに来たのだから当然ではある。
本当はもう少し早めに来たかったのだが、前述したとおり私にはバス時間の縛り
がある。
早く来ようとすると1時間以上早くなり、昼飯としては少々不都合な時間に到着
することになる。
 さて、どうしたものだろう。
もうじき商店街の西の端に着きそうだ。
 と思いつつ進むと、西の端に明石焼の店らしきものが見つかった。
その店は海の家のような風情を出していた。
外にテラス席があり、店員さんが客引きをしている。
他の店はそんな感じではない。
なんか怪しげな店だが、客引きをしているのなら席は空いているのだろう。
いいかげん疲れてもいたので、とりあえず入ってみることにする。
 入り口近くの席が空いていたので、さっそく座る。
目が悪いので奥行きはよくわからないのだが、居酒屋のような構造で、20人く
らい入れそうかなと見積もった。
結構ご盛況で、8割かた席は埋まっているようだ。
 さて、どのように注文すればいいのだろうか。
キョロキョロしながら考えていたら、頼みもしないのに店員さんがいきなり明石
焼を持ってきた。
どうやら明石焼しかない店で、席に着いたら自動的に明石焼が出てくる仕組みら
しい。
あわててビールも注文する。
「生ビールをくれ」と言ったら、「瓶ビールか缶ビールしかない」と言われた。
缶ビールでは風情がないので、瓶ビールを注文する。
ビールもすぐに来たので、グラスに慎重にビールを注ぐ。
そして、おもむろに明石焼を確認する。
 正方形の木のまな板のようなものに明石焼が12個乗っかっている。
見た目はほぼたこ焼きで、このへんはテレビで見たとおりのビジュアルだ。
箸でさわった感触はかなり柔らかく、ふわふわな感じ。
いきなり1個まるごと食べると絶対に口の中をヤケドしそうなので、箸で半分に
ちぎってから食べる。
うん、なかなかうまい。
 基本的に、たこ焼きからソースを抜いて玉子を足したような味。
地元の人が「玉子焼」というように、はっきり玉子の味がする。
私は玉子が好きなので、かなり気に入った。
食感はかなりジューシーだ。
たこ焼きを急いで作ったら、火の通りが甘くなってこんな食感になるかもしれな
い。
ビールにも合う。
バッチリですな。
 基本的におだしにつけて食べるのだが、マヨネーズをかけてもおいしそうだ。
マヨネーズその他の調味料はテーブルの上には置いていなかった。
頼めば出してくれるのかもしれないが、それも面倒なので普通に食べ続ける。
 店の調理場では、店員のお姉さんがものすごい勢いで明石焼を焼いている。
なるほど、道理ですぐに明石焼が出てくるわけだ。
 15分くらいで食べ終わって店を出た。
お会計は1,000円くらい。
ビール込みとしては安いほうなのかな。
かなり満腹したので、さっさと帰ることにする。
 商店街の魚はあんまり売れていないようで、店のおっさんが「売れへんなあ」
とぼやいている。
私も買う気はないので、遠巻きに通過して商店街の外に出た。
お菓子屋さんでもあればお土産くらい買う気はあったのだが、残念ながら見当た
らなかった。
見つけられなかっただけかもしれない。
 駅への帰路を歩き始める。
やはり暑い。
ビールを飲んだりしたのでよけいに暑い。
酔いも手伝って少しフラフラしてきたので、腰を下ろして休むことにする。
ちなみに、いつも私は歩きながら、腰を下ろして休めそうな場所の見当をつけて
おく。
前述したとおり私には立ちくらみの気があり、その場合は腰を下ろして休む必要
があるからだ。
今回も行きしなに座れそうな場所を見つけておいたので、そこで休むことにする。
 「あつっ」、尻が焼けそうだ。
黒い御影石のようなものでできた台座の上に腰かけたのだが、えらい熱くなって
いる。
30分くらいかければ玉子くらい焼けそうな熱さだ。
しかし、急に立ち上がって立ちくらみでも起こすと面倒なので、がまんして座り
続ける。
尻は熱いが、風はなかなか涼しい。
海が近いからか、いい風が吹いてくる。
ただし、風が止むと汗が噴き出してくる。
 10分ほど休んで疲れもとれてきたので、再び歩き出す。
ほどなく駅に到着、時間は午後1時すぎ。
おおむね1時間と少しの滞在時間になる。
まあ、私の旅行は1つか2つ目的を果たしたらさっさと帰るのが普通なので、こ
んなものであろう。
 昔、東京までサッカーの試合を見に行ったことがある。
そのときは、試合を見終わってその日のうちに帰ってきた。
別に1泊してもよかったのだが、特に東京でやりたいことも見つからなかったし、
いずれにしても家で寝ているほうがよいと思ったのだ。
というわけで、今回もまっすぐ帰ることにする。
 切符を買う。
高いな。
ホームへの階段を上るのはいやだったので、駅員さんにエレベーターの場所を聞
く。
首尾よくエレベーターでホームに上がるとすぐに電車が来たので乗り込む。
酔いも手伝ってかフラフラしていたが、無事に乗車できた。
 車内はすいていたので左側の窓際に座る。
私は、乗り物に乗ったときはできるだけ左側に座ることにしている。
だいたい左側のほうが眺めがいいというのが主な理由である。
 目が悪くなってからは、視野の関係で左側に人がいると困るという理由も加わ
った。
私は左目が全く見えていないので、できれば左側に人がいてほしくないのだ。
横目で確認とかはできないので、首や体をねじって見ることになる。
隣の人からすると怪しい行動にうつるであろう。
というわけで、私は左側を壁際にして行動するほうが安心できるのだ。
 帰りは特筆することもなく高槻駅に到着。
乗り継ぎもスムーズ、はためからはどううつっているかわからないが。
そして、JR向日町駅まで帰ってきた。
時刻は午後3時すぎ。
 前述したとおり、バスは1時間に1本しか来ない。
いいかげん疲れているのでタクシーで帰ることにする。
京都府公認の1級障害者である私は、タクシーの割引チケットを持っている。
1,000円まで割引できるので、よく利用している。
10分くらいで家に着く。
やれやれ、疲れた。
 目的はおおむね達成できた。
至極満足である。
日帰りなら結構いける自信がついた。
次はどこに行こうかな。
何かおいしいものでも食べに行こうかな。
スポーツの試合も見に行きたい。
でも寒い時期は動きづらいので、近場を制覇していこうか。
 そういえば、八坂神社にはまだたどり着いていない。
この前、八坂さんに行こうと思って出かけたのだが、暑さでフラフラになって挫
折してしまった。
とりあえず八坂神社に行ってみますか。
ところで、八坂神社って何の神様を祀っているのだろう。
中に休憩できる場所があるといいのだけれど。
編集後記
 明石焼はたこ焼きのご先祖様と言われますが、
ふわふわな感じやおだしにひたして食べる味は明石焼ならではのものです。
そして、京都でも、きっと他の地域でも、お店のメニューなどで明石焼に遭遇す
ることはほとんどないと思います。
旅の目的としてぴったりのものを、北のクロベエさんは見つけられたと思います。
 鉄道の旅、JRの駅だと、向日町から高槻・大阪・尼崎・西宮・芦屋・三ノ宮
・元町・須磨といった駅を通過して明石に着きます。
目や体に不自由がおありで、はたから見たら杖を突いてヨタヨタ歩いているおっ
さんにしか見えないだろうとおっしゃっていますが、
実行できるプランを作成して明石焼とビールを満喫された今回のレポートの旅、
お見事だったと思います。
 思いどおりにならないことはあります。
その上で思うことを実現する。
北のクロベエさん、やりました、ハイタッチ!
-- このメールの内容は以上です。
発行:   京都府視覚障害者協会
発行日:  2017年7月14日
☆どうもありがとうございました。


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