メルマガ色鉛筆第89号「映画にまつわるエトセトラ 第3弾」

タイトル 「映画にまつわるエトセトラ 第3弾」
メルマガ色鉛筆編集チーム
 こんにちは、メルマガ色鉛筆編集チームです。
 映画レポート第3弾は、新しい鑑賞スタイルの体験レポとおすすめ映画紹介の2本立てでお届けします。
 映画の楽しみ方いろいろ、スタイルその3は「ユーディーキャスト(UDCast)」体験レポです。
タイトル 新たな映画鑑賞スタイル「ユーディーキャスト」
ペンネーム グリーントマト(40代 男性 全盲)
 視覚障害者にとっての娯楽はまだまだ少ないと感じています。
そんな中、映画は今や視覚障害者にとっての楽しみの一つとして定着しつつあります。
それは、ここ10数年の間に音声ガイド付き上映会が広がってきたからです。
音声ガイドを聞きながら劇場の臨場感を味わえるのは格別です。
 余談ですが、登場人物の動きや場面転換などを声で説明し、テロップを読み上げる「音声ガイド」は
テレビでは「解説放送」と呼ばれ、NHKの朝の連続ドラマ小説や大河ドラマなどが有名です。
音声切り替えボタンを押すだけで切り替わるので、操作は簡単。
見えている人からも「これは便利」という声が聞かれます。
 昨年夏お目見えの「ユーディーキャスト」は旬の映画が楽しめるツール!
今、スマホアプリ「ユーディーキャスト」が視覚障害者の映画鑑賞を大きく変えるものと期待されています。
 これまでの音声ガイド付き上映会は、決まった日時、決まった場所で行われていました。
それは、音声ガイドをリアルタイムに読み上げるにしても、機械を操作するにしても人の手が必要だったからです。
そして、ロードショー中の旬の作品を鑑賞できる機会も決して多くはありませんでした。
 しかし、これからは違います。
無料アプリ「ユーディーキャスト」と観たい作品の音声ガイドデータを自身のスマートフォンにダウンロードしておくだけで、
その作品が上映されているときならいつでもどこでも楽しめます。
映画のサウンドとともに発信される耳には聞こえない音をスマホが拾って、
それに合わせて音声ガイドを流す仕組みになっているんですって。
何がどうなっているのやら、素人の私にはよくわかりませんが、ちゃんとイヤフォンから聞こえてきます!
 昨年は、『ONE PIECE』など、ごくわずかな作品にこの仕組みが採用されました。
今後は映画製作会社の標準的な基準となるようで、今年から対応作品が格段に増えると聞いています。
うれしいことです。
好きな時間に上映館に行って鑑賞できます。
1人で行くのもよし、家族や友人と行くのもよしです。
そして、レンタルしてきたDVDにも対応しているので、自宅でも同じように楽しめます。
 いくつかの作品を鑑賞して…。
 「ユーディーキャスト」で最初に観たのが『ONE PIECE FILM GOLD』です。
「観た」といっても、全盲の私には見えてません、念のため。
まず脳裏をよぎったのは、『ONE PIECE』のアニメを観ていない自分が
いきなり劇場に行って楽しめるの?ということでした。
アニメはキャラクターが多く、独創的な世界が広がっているので、
事前にキャラの声と世界観を頭に入れておきたいもの。
そこで、サピエ図書館から『ONE PIECE FILM STRONG WORLD』のシネマデイジーをダウンロードして、
キャラの声を覚えてから劇場へ。
この作戦が大成功。
周りのお客さんたちと同じタイミングで笑えたのがすごく気持ちよかったです!
 年末に観た『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』は京都が舞台で、宝ヶ池や叡電などが登場。
親近感を感じながら話に入り込み、ポップコーンをつまむ手もいつしか止まっていました。
学生時代を思い出しては胸をときめかせ、クライマックスに近づくと目頭が熱くなりました。
それは、夕闇に包まれる京都の街などが自然な感じで描写されていたからこそ。
「すごくよかった!」と話しながら帰途につきました。
 新春に観た『海賊とよばれた男』では、
時代の変化を敏感に感じ取りながら社会の荒波を越えていく海の男たちの底力を全身に感じました。
岡田准一さん、綾瀬はるかさんたちの演技は圧巻です。
 とはいえ、音声ガイドがうまくスタートせず、ハラハラする場面も。
注意書きに書いてあるにもかかわらず、iPhoneをかばんのポケットに入れていてマイクをふさいでいたり、
スクリーンロックになっていたりしたことが原因でした。
アップスイッチャーでアプリを閉じて再起動すると問題なく楽しめたので、ほっとしました。
 一緒に観に行ったロービジョンの妻は、「こんなシステムは画期的!」と絶賛。
アプリを開くと音声ガイド付き作品が一覧で表示される点も気に入っています。
妻との初デートは映画館でしたが、いく年月を経てこんなふうに自然に作品を楽しめる日がやってきました。
これまでは、せっかく音声ガイド付き上映会があっても、仕事や用事で行けないことが多くありました。
これなら自分の都合に合わせて映画が楽しめるので、とてもありがたいです。
皆さんも「ユーディーキャスト」で検索してみられてはいかがでしょうか。
 夢はどこまでも広がります。
もっと多くの作品が「ユーディーキャスト」に対応しますように。
そして、1人でも多くの人にこのアプリの情報が伝わって、
見えない・見えにくい人も普通に映画が楽しめる環境が実現しますように。
 映画レポートを3回にわたりお届けしてきました。
いろんな映画体験がありますね。
読者の皆様の中には、なんだか映画が観たくなってきたという方も。
そう言われても何を観ていいかわからないなという方もおられることでしょう。
 というわけで、色鉛筆ライターより、おすすめシネマデイジー8作品をご紹介します。
『英国王のスピーチ(The King's Speech)』
2010年、イギリス。
国王が亡くなったのに、次期国王(長男)は好きな女性との結婚を選び、国王の座を辞退。
そこで急に英国王に即位した次男坊の苦闘を描く。
国民を先導しないといけない国王は、吃音に悩まされていた。
国王が階級の違う庶民のドクターと治療を続ける物語。
シネマデイジーだけで楽しんだ映画。
戦争モードの中で、国王は国民に自信を持たせ、率先していかないといけないのに、
緊張で滑らかにスピーチができずに悩む。
ダメもとで入った診療所の先生とのやりとりが、階級の違いなどもあって楽しめる。
たぶん日本でも同じように、腕がよい先生は大きな病院の先生だと考えるが、
町には隠れた名医が存在するのだろう。
先生と国王の主導権争いも、
現代に照らし合わせても同じかもしれないと思うとおもしろい。
(40代 男性 光覚)
『チョコレートドーナツ(Any Day Now)』
2012年製作、アメリカのドラマ映画。
1970年代のアメリカの実話をもとにしたもの。
ショーダンサーのルディ、ゲイであることを隠す弁護士のポール、母の愛情を受
けずに育ったダウン症の少年マルコの3人が奇跡的に出会う。
血がつながらずとも深い愛情で結ばれた3人の姿を描く。
同性のカップルが登場します。
社会がどのように多様性を認めることができるのか、
自分自身がどのように多様性を認めることができるのかを考えさせられました。
映画は、音楽をはさんでリズムよく進みます。
目のやり場に困るかもというシーンがありましたが、
全盲でもあり、シネマデイジーでもあるので大丈夫でした。
(40代 男性 全盲)
『ザ・マジックアワー』
2008年、日本。
監督・脚本は三谷幸喜。
街を牛耳るボスの愛人に手を出したホテル支配人は、
命の代償に伝説の殺し屋を連れてくると誓うが、簡単には見つからない。
窮地に陥った彼は、映画監督のフリをして無名の俳優を雇って殺し屋に仕立てることにする。
三谷幸喜作品のおなじみメンバーに加えて、大御所俳優たちがちょい役でちょこちょこ登場するのもおもしろいです。
そして、市川崑監督最後の出演作でもあるということから、
この作品は「市川崑監督の思い出」にささげられているということです。
市川氏が演じる映画監督が撮影しているのは、市川氏の作品のパロディだそうです。
三谷ワールド全開の、ちょっとほろりとする痛快アクション(?)コメディです♪
(40代 女性 全盲)
『風に立つライオン』
主演・大沢たかお、監督・三池崇史。
さだまさしが、ケニアで医療活動に従事した医師・柴田紘一郎氏の話から着想を得て曲を作り、
発表したのが1987年。
今なお聞き続けられるこの曲であるが、
大沢たかおが自ら映画化を望み、現地ケニアでのロケを敢行するほどの熱意のもとに2015年に映画化が実現した。
さだまさしさんの歌の世界をうまく映画にしてあり、よかった。
ラストシーンがよかった。
そのシーンの副音声がとてもわかりやすく、映画に入り込めた。
(40代 女性 全盲)
『千と千尋の神隠し(せんとちひろのかみかくし)』
2001年、日本。
監督・脚本は宮崎駿、製作は鈴木敏夫。
神々のエリアに迷い込んだ「ちひろ」は、名前から「ひろ」を奪われて「せん」と呼ばれるようになってしまう。
人間は本来そのエリアには受け入れられないが、
周りの助けを借りて本来の世界に戻るために働く。
淡い恋愛と友情なども含め、
スーパー銭湯をイメージさせる舞台で現代の人間模様を描く。
大人になってから映画館で観た唯一のアニメ。
彼らの作品には、ほのぼのとした映像の中に人間の傲慢さや現代社会の問題を皮肉るような激辛なエッセンスが含まれており、
大人も楽しめる作品だと思う。
音訳も、状況を詳しく説明してくれていた。
(40代 男性 光覚)
『GAMBA ガンバと仲間たち』
2015年のアニメ映画。
ある島で、ネズミたちが白いイタチにいじめられていた。
それを助けに行くネズミのガンバ。
ガンバと仲間たちの勇気、弱いネズミを横から助ける大きな鳥、そこから生まれるすてきな愛を描いた感動作品である。
私はたくさんのシネマデイジーを観ていますが、おすすめはとたずねられたら迷うことなくこの映画です。
感動します。
また、京都リップル・深田美知子さんによる副音声、わかりやすくてとってもすてきです。
(70代 男性 全盲)
『星になった少年(Shining Boy & Little Randy)』
2005年、日本。
主演・柳楽優弥(やぎら ゆうや)、音楽・坂本龍一。
日本で象を飼育する少年調教師と象の物語。
少年は、象の調教師になるために1人でタイに渡航した。
その後、日本で調教を始め、象との信頼関係を深めていく。
その調教師は交通事故で命を奪われる。
象は死を感じ取り涙を流す。
象と人間の友情を感じさせる作品である。
カンヌ国際映画祭で男優賞を受賞した2作目。
ミーハー的に観に行ったが、大きな感動をもらった。
主人公と象をメインに描かれるが、
いじめや親子関係などに悩む主人公の微妙な思春期から青年までの姿が柳楽によってみごとに演じられている。
主人公はバイク事故であっけなく命を落とすのだが、
心許していた動物たちが事故と同時に暴れだすさまは感動。
(40代 男性 光覚)
『あなたへ』
2012年、日本。
主演・高倉健、監督・降旗康男、このコンビ20作目の映画。
妻の遺骨を散骨するために妻の故郷へ旅立った男が、道中で出会った人々との交流を経て妻の思いを知る姿を描く。
私の郷里に近い平戸島、散骨をする主人公が気むずかしい漁師の心を動かして海に出るシーン、
海の向こうの島影、夕日に映える海の色、刻々と変わる夕方の海、
もう私は島で育った少年時代のある日に引き込まれています。
そして、その頃の自分がこの目で見たシーンを大切に思い浮かべるきょうこの頃です。
(60代 男性 全盲)
編集後記
 映画が好き、という人は、世の中に多いですね。
そんな中、視覚障害者は取り残されていた感があります。
一緒に観ようよ。
一緒に楽しもうよ。
「ユーディーキャスト」から、そんな声を聞いたように思います。
あとは、スマートフォンが必要ということがバリアにならないように、
またいい方法を探ってほしいと思います。
そして、視覚障害の当事者がおすすめする映画、というのも考えてみるとすごいことですね。
-- このメールの内容は以上です。
発行:   京都府視覚障害者協会
発行日:  2017年3月3日
☆どうもありがとうございました。


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